5 / 7
第5話 作戦会議
しおりを挟む
「訴状っぽい文章は僕が書くから、君は日記があるならそれを、ないなら記憶の限り時系列に並べて書いて。
そのまま裁判所に持って行っても困らないように、要件を整理して必要そうなものから記す証拠を採用する。
しかし噂には聞いてたけど……これだけあるなら十分すぎるね」
ブロードベント家の図書室は、確かにフランシスの言葉通り図書館と言ってよい蔵書を誇っていた。
規模としては教室ひとつ分ほどだが、古い本から希少本、専門書がよく整理して並べられており、その手の人間にはたまらない空間だった。
「あー……うちの財産、建物以外は全部研究費につぎ込んでるんです。無趣味っていうか趣味が研究で。親は先ほどご覧になった通りです」
在宅していた(というよりその時間を狙って)両親に“学友”として挨拶したレイモンドに対し、父親は彼の研究分野に興味を引かれたらしく、あれこれ質問していた。
そのままでは離してくれそうになかったので、フランシスが間に入って引きはがしたくらいだ。
「なるほどね」
古く立派な屋敷で家財もアンティークだったが、伯爵家という名前にしては装飾も日用品も、両親の服装も庶民とほぼ同じ暮らしぶりに見えた。
フランシスの今の服装も、少しだけきっちりしたシャツとスラックスのレイモンドに対して動きやすさ重視のシャツとパンツで全く令嬢らしくなく、並んで違和感がない。
「しかしこれだけの書物が家にあるなら、大分研究に利があるな……ええと、責めてるわけじゃない」
一瞬沈んだ顔のフランシスに、レイモンドはしまったという顔をする。
「どれだけ財産があろうが、溶かすのも価値を理解できるのも、使うのも本人次第だ」
「……アルバイトなさってるんですよね?」
フランシスは、初めて会ったときに図書館を付けるなんて言ったことを少し後悔していた。
交渉のつもりであっても、実家の財産を誇示しただけの、彼を尊重していない振る舞いだったから。
「そうだけど、ここの図書館の利用料代わりなら安いものかもね」
「お休みさせてしまって済みません」
「結婚したら手に入るって考えればなるほど、納得できるなって思ったんだけど」
「……そ、それは……!」
フランシスの顔は羞恥で赤く染まる。
「今回の迷惑料と報酬が、ここの利用権なら嬉しい」
「父に相談してみます。……でも多分、話し相手になってくれって言われるかも……?」
「それは願ってもないね」
微笑みながら鞄の荷物を広げるレイモンドに、フランシスは今までまとめておいた資料を渡しながら気になっていた質問をする。
「つかぬことかもしれませんが、何故法学に進まれたのですか?
こういっては何ですが、大学部でも熱心な学生ばかりではないのに、熱心とか信仰……とは言い表せないような論文を、その……情熱がありながら抑制のきいた感覚を論文に覚えました。何か理由があるのでしょうか」
「……法律の道に進んだのは家族では僕だけだよ」
レイモンドは法律や裁判の判例集の本を広々とした机に広げていく。
「祖父が逮捕されて裁判にかけられたことがあって。状況は確かに祖父に疑わしかった。それらしい証拠も出てきた。アリバイはあったけど抜けがあって、不可能と言えるほどじゃない」
「……どうなったのですか」
「無実の罪を本人は訴えたけど、裁判が長引いた。認めて減刑の方が楽に済むっておかしいだろうけど、証拠がない時はそっちの方が心象が悪いんだ」
数年牢の中にいたんだ、と苦々しく呟く。
「僕は祖父と仲が良かったから、状況を自分で確認したかったし裁判についても知りたかった。結局真犯人が捕まって、祖父は名誉を取り戻したから、最期はベッドで家族に看取られて逝くことができた――これが検事を目指そうと思った理由の一つ」
「まだ理由が?」
「この世界に飛び込めばいつか王子様に会えると思ったから。……王子様じゃなくてお姫様だったけど」
フランシスは目を瞬いた。レイモンドの口から王子様とか王女様なんて言葉が飛び出ると思わなかったからだ。
だがその言葉を本当に大切そうに言うので、もう少し聞きたいとは思ったけれど、それを尋ねるのをためらった。
「そうですか……」
「まあね。ああ無駄口はここまでにして、早速証拠を整理しよう。
……そうそう、こっちも聞きたいことがあったんだ――君って仕返しはどう思う?」
そのまま裁判所に持って行っても困らないように、要件を整理して必要そうなものから記す証拠を採用する。
しかし噂には聞いてたけど……これだけあるなら十分すぎるね」
ブロードベント家の図書室は、確かにフランシスの言葉通り図書館と言ってよい蔵書を誇っていた。
規模としては教室ひとつ分ほどだが、古い本から希少本、専門書がよく整理して並べられており、その手の人間にはたまらない空間だった。
「あー……うちの財産、建物以外は全部研究費につぎ込んでるんです。無趣味っていうか趣味が研究で。親は先ほどご覧になった通りです」
在宅していた(というよりその時間を狙って)両親に“学友”として挨拶したレイモンドに対し、父親は彼の研究分野に興味を引かれたらしく、あれこれ質問していた。
そのままでは離してくれそうになかったので、フランシスが間に入って引きはがしたくらいだ。
「なるほどね」
古く立派な屋敷で家財もアンティークだったが、伯爵家という名前にしては装飾も日用品も、両親の服装も庶民とほぼ同じ暮らしぶりに見えた。
フランシスの今の服装も、少しだけきっちりしたシャツとスラックスのレイモンドに対して動きやすさ重視のシャツとパンツで全く令嬢らしくなく、並んで違和感がない。
「しかしこれだけの書物が家にあるなら、大分研究に利があるな……ええと、責めてるわけじゃない」
一瞬沈んだ顔のフランシスに、レイモンドはしまったという顔をする。
「どれだけ財産があろうが、溶かすのも価値を理解できるのも、使うのも本人次第だ」
「……アルバイトなさってるんですよね?」
フランシスは、初めて会ったときに図書館を付けるなんて言ったことを少し後悔していた。
交渉のつもりであっても、実家の財産を誇示しただけの、彼を尊重していない振る舞いだったから。
「そうだけど、ここの図書館の利用料代わりなら安いものかもね」
「お休みさせてしまって済みません」
「結婚したら手に入るって考えればなるほど、納得できるなって思ったんだけど」
「……そ、それは……!」
フランシスの顔は羞恥で赤く染まる。
「今回の迷惑料と報酬が、ここの利用権なら嬉しい」
「父に相談してみます。……でも多分、話し相手になってくれって言われるかも……?」
「それは願ってもないね」
微笑みながら鞄の荷物を広げるレイモンドに、フランシスは今までまとめておいた資料を渡しながら気になっていた質問をする。
「つかぬことかもしれませんが、何故法学に進まれたのですか?
こういっては何ですが、大学部でも熱心な学生ばかりではないのに、熱心とか信仰……とは言い表せないような論文を、その……情熱がありながら抑制のきいた感覚を論文に覚えました。何か理由があるのでしょうか」
「……法律の道に進んだのは家族では僕だけだよ」
レイモンドは法律や裁判の判例集の本を広々とした机に広げていく。
「祖父が逮捕されて裁判にかけられたことがあって。状況は確かに祖父に疑わしかった。それらしい証拠も出てきた。アリバイはあったけど抜けがあって、不可能と言えるほどじゃない」
「……どうなったのですか」
「無実の罪を本人は訴えたけど、裁判が長引いた。認めて減刑の方が楽に済むっておかしいだろうけど、証拠がない時はそっちの方が心象が悪いんだ」
数年牢の中にいたんだ、と苦々しく呟く。
「僕は祖父と仲が良かったから、状況を自分で確認したかったし裁判についても知りたかった。結局真犯人が捕まって、祖父は名誉を取り戻したから、最期はベッドで家族に看取られて逝くことができた――これが検事を目指そうと思った理由の一つ」
「まだ理由が?」
「この世界に飛び込めばいつか王子様に会えると思ったから。……王子様じゃなくてお姫様だったけど」
フランシスは目を瞬いた。レイモンドの口から王子様とか王女様なんて言葉が飛び出ると思わなかったからだ。
だがその言葉を本当に大切そうに言うので、もう少し聞きたいとは思ったけれど、それを尋ねるのをためらった。
「そうですか……」
「まあね。ああ無駄口はここまでにして、早速証拠を整理しよう。
……そうそう、こっちも聞きたいことがあったんだ――君って仕返しはどう思う?」
162
あなたにおすすめの小説
モブなので思いっきり場外で暴れてみました
雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。
そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。
一応自衛はさせていただきますが悪しからず?
そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか?
※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?
なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。
干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。
舞踏会の夜。
聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。
反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。
落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。
水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。
レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。
やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。
支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。
呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。
――公開監査。
記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。
この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。
これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
氷の公爵の婚姻試験
潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
婚約者は無神経な転生悪役令嬢に夢中のようです
宝月 蓮
恋愛
乙女ゲームのモブに転生したマーヤ。目の前にいる婚約者はそのゲームの攻略対象だった。しかし婚約者は悪役令嬢に救われたようで、マーヤそっちのけで悪役令嬢に夢中。おまけに攻略対象達に囲まれている悪役令嬢も転生者で、何だか無神経発言ばかりで少しモヤモヤしていしまうマーヤ。そんな中、マーヤはゲームには関係ない隣国の公爵令息と仲良くなり……!?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして
犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。
王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。
失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり…
この薔薇を育てた人は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる