つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~

有沢楓花

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第5話 作戦会議

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「訴状っぽい文章は僕が書くから、君は日記があるならそれを、ないなら記憶の限り時系列に並べて書いて。
 そのまま裁判所に持って行っても困らないように、要件を整理して必要そうなものから記す証拠を採用する。
 しかし噂には聞いてたけど……これだけあるなら十分すぎるね」

 ブロードベント家の図書室は、確かにフランシスの言葉通り図書館と言ってよい蔵書を誇っていた。
 規模としては教室ひとつ分ほどだが、古い本から希少本、専門書がよく整理して並べられており、その手の人間にはたまらない空間だった。

「あー……うちの財産、建物以外は全部研究費につぎ込んでるんです。無趣味っていうか趣味が研究で。親は先ほどご覧になった通りです」

 在宅していた(というよりその時間を狙って)両親に“学友”として挨拶したレイモンドに対し、父親は彼の研究分野に興味を引かれたらしく、あれこれ質問していた。
 そのままでは離してくれそうになかったので、フランシスが間に入って引きはがしたくらいだ。

「なるほどね」

 古く立派な屋敷で家財もアンティークだったが、伯爵家という名前にしては装飾も日用品も、両親の服装も庶民とほぼ同じ暮らしぶりに見えた。
 フランシスの今の服装も、少しだけきっちりしたシャツとスラックスのレイモンドに対して動きやすさ重視のシャツとパンツで全く令嬢らしくなく、並んで違和感がない。

「しかしこれだけの書物が家にあるなら、大分研究に利があるな……ええと、責めてるわけじゃない」

 一瞬沈んだ顔のフランシスに、レイモンドはしまったという顔をする。

「どれだけ財産があろうが、溶かすのも価値を理解できるのも、使うのも本人次第だ」
「……アルバイトなさってるんですよね?」

 フランシスは、初めて会ったときに図書館を付けるなんて言ったことを少し後悔していた。
 交渉のつもりであっても、実家の財産を誇示しただけの、彼を尊重していない振る舞いだったから。

「そうだけど、ここの図書館の利用料代わりなら安いものかもね」
「お休みさせてしまって済みません」
「結婚したら手に入るって考えればなるほど、納得できるなって思ったんだけど」
「……そ、それは……!」

 フランシスの顔は羞恥で赤く染まる。

「今回の迷惑料と報酬が、ここの利用権なら嬉しい」
「父に相談してみます。……でも多分、話し相手になってくれって言われるかも……?」
「それは願ってもないね」

 微笑みながら鞄の荷物を広げるレイモンドに、フランシスは今までまとめておいた資料を渡しながら気になっていた質問をする。

「つかぬことかもしれませんが、何故法学に進まれたのですか?
 こういっては何ですが、大学部でも熱心な学生ばかりではないのに、熱心とか信仰……とは言い表せないような論文を、その……情熱がありながら抑制のきいた感覚を論文に覚えました。何か理由があるのでしょうか」
「……法律の道に進んだのは家族では僕だけだよ」

 レイモンドは法律や裁判の判例集の本を広々とした机に広げていく。

「祖父が逮捕されて裁判にかけられたことがあって。状況は確かに祖父に疑わしかった。それらしい証拠も出てきた。アリバイはあったけど抜けがあって、不可能と言えるほどじゃない」
「……どうなったのですか」
「無実の罪を本人は訴えたけど、裁判が長引いた。認めて減刑の方が楽に済むっておかしいだろうけど、証拠がない時はそっちの方が心象が悪いんだ」

 数年牢の中にいたんだ、と苦々しく呟く。

「僕は祖父と仲が良かったから、状況を自分で確認したかったし裁判についても知りたかった。結局真犯人が捕まって、祖父は名誉を取り戻したから、最期はベッドで家族に看取られて逝くことができた――これが検事を目指そうと思った理由の一つ」
「まだ理由が?」
「この世界に飛び込めばいつか王子様に会えると思ったから。……王子様じゃなくてお姫様だったけど」

 フランシスは目を瞬いた。レイモンドの口から王子様とか王女様なんて言葉が飛び出ると思わなかったからだ。
 だがその言葉を本当に大切そうに言うので、もう少し聞きたいとは思ったけれど、それを尋ねるのをためらった。

「そうですか……」
「まあね。ああ無駄口はここまでにして、早速証拠を整理しよう。
 ……そうそう、こっちも聞きたいことがあったんだ――君って仕返しはどう思う?」
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