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 「アルフォンス公爵様、ボクリア様ようこそいらっしゃいました。本日は誠にありがとうございます。どうぞお入り下さい。」

 アルフォンス公爵は、汚れた土を拭うことも無く、遠慮無しに土足でズカズカ上がっている。

 一人息子のボクリアは、土落としで土を拭っているだけ、まだマシだ。

 「こちらでございます。」

 私は貴賓室に2人を案内して、テーブルの上座の椅子をメイドが引いた。

 しかしアルフォンス公爵はそのまま椅子に座らず、自分のハンカチで、椅子をパッと払い、嫌そうな顔で着席した。

 「アルフォンス公爵様、ボクリア様ようこそ我が屋敷にお越し下さいました。田舎者ゆえ満足なおもてなしが出来ぬやも知れませんが、心尽くしの歓待をさせて頂きたいと思っております。どうぞお寛ぎ下さい。」

 父親の挨拶にもアルフォンス公爵はニコリともしない。

 「いやー、この辺りは道も悪く大変ですな。おまけに空気も悪い。何か嫌な臭いがしますな。」

 アルフォンス公爵は、ハンカチで鼻を押さえながら話している。

 「それはとんだ失礼を……私どもには臭いませんが……」

 「となるとこの屋敷に染み付いた臭いですかな?何やら家畜小屋のような臭いが。いえいえあなた方が家畜だと言ってるのではありませんよ。」

 「公爵様お戯れを……これ!早く料理と酒の準備を致せ!」

 父はメイドに指示を出した。

 「いや、その必要はない。」

 「と申しますと?」

 「いかに皇帝陛下の御母堂様の仲介と言えど、あまりに身分が違い過ぎる婚約でしたからな。今日遠路はるばる、お屋敷にお邪魔したのは、重大な話があるからです。」

 「知っての通り、御母堂様がお亡くなりになりすでに百カ日が過ぎた。御母堂様の言い付けにより、私は渋々、我が一人息子のボクリアとそなたの娘サラの婚約を成立させたのだ。しかしよく考えてみなさい。皇帝の親戚であり、公爵である私と、貴族とはいえ最下層のそなたの家が釣り合うわけがない。」

 「しかし家柄が釣り合わないのは、アルフォンス公爵様も百も承知の筈だったのではありませんか?」

 「分からん奴だな。だから御母堂様の言い付けで渋々婚約したと言っただろ?御母堂様がお隠れになった今は、そんな言い付けに縛られる必要はないではないか!」

 「それはあんまりです。そんな無茶な事が通りますか?」

 「通るも何もそなたの娘を見てみよ。誰かれ見境もなく色目を使っているのではないか?何が嬉しくて、家柄が低いアバズレを嫁に貰わなければならないんだ。」
 
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