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第一話 ラベンダー髪の少女
ファタルのクーフィア
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「おかえりなさいませ、ディミトリ様」
スターク家の屋敷に戻ったディマを待っていたのは初老前のメイド服の女性、リンダ・トーロイ。
まだ50代後半と若いがスターク家のメイド達をまとめるメイド長であり、
「おかえりディマ、ケガはなかった?」
奥で多くの洗濯物を入れたかごを持つ青みを帯びた黒髪の大きな腹をした妊婦のメイド、ルーナァ・トーロイの義母であり、上司でもある。
「「ルーナァ!?」」
ディマとリンダがルーナァに駆け寄る。リンダはルーナァの肩を支え、ディマが洗濯かごを奪うかのように持つ。
「あなた今日産休中のはずでしょ?」
「無茶するなってあれ程言っただろ!腹の子供になんかあったらどうすんだ!?」
「えっ、でも何かやってないと落ち着かないし…」
「お前らになんかあったら俺がアストンにぶっ殺されるんだよ、領主命令だ、今日から部屋でゆっくり休め、婆やを世話係としてつけるから」
「えっでもそれじゃあディマの世話は」
「自分の面倒くらい自分で見れるから大丈夫だ、後今日から重いものは持つの厳禁な、頼む婆や」
「かしこまりました、ほら行くよルーナァ」
「えぇぇ」とルーナァはリンダに肩を抑えられながら連行されていく。
出産は再来週予定であり、ギリコからも安静にしているようあれほど言われたにもかかわらず筆頭メイドとしての職務を全うしようとするルーナァに呆れ気味のディマは二階の書斎に上がり、扉を開ける。
「やぁ、おかえり、意外と早かったね」
そこには、本来なら自分が座るはずの席にルーナァと同じ色の髪をした眼鏡をかけた知的そうな青年、ルーナァの双子の弟で自身の補佐でもあるミリアル・クラウスが自分の代わりに書類仕事をこなしていた。
「身代わりご苦労さん、何か変わったことは?」
「マクシードさんの農園の作物が不作だったから税の徴収を少し待ってほしいって」
「じゃあ、今年は猶予でいいや、金の工面はこっちでしておくからさ」
「いいのかい?」
「そのかわり、来年以降は何とかしてくれ伝えてくれ、こっちも裕福じゃねぇし、税金は家の孤児院の生命線でもあるからな」
「了解、早速連絡しておくよ」
ディマが話した通り、スタークの屋敷は広い、それ故にスタークのこの館は領主の館でもあり、王国のありとあらゆる場所から孤児たちを集め、彼らの家として受け入れる街唯一の孤児院でもある。
バンバラの街は税が王都より少しだけ高いが、その分治安は良く、インフラ、福祉などは王都より完備している。
王都より領民が住みやすく、設備も整った街であり、独自の兵器開発ルートもある、ある意味、一つの独立国家並みの街である。
それ故に、王都の貴族には領主であるスターク家を「王の恩恵を受けずに利益を独占する偽善者の一族」と妬み、よく思っていない者も多い。
「それよりさぁ、弟のお前からもルーナに言ってやってくれよ、安静にしてろって」
「僕が言ったところでルーナァは聞きやしないさ、頑固なのはディマもよく知ってるだろ?」
「まぁ、確かに、あっ、そうだ」
肝心な事を聞こうと、ディマはミリアルの近くまで詰め寄った。
「ギリコ先生から連絡来てないか?」
「連絡って、ディマが助けたっていう女の子のこと?」
「それ以外何があるんだよ、それよりどうだったんだよ?」
「……さっき連絡があってね……」
しばらくの間、静寂が流れる。
「おい…まさか間に合わなかったんじゃ?…」
「……無事治療が済んだそうだよ」
「何達悪いことしてんだテメェ!!」
キレ気味で机をバンと叩くディマ。
「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけがすぎたね、今はメディカルカプセルでゆっくり眠ってるそうだ、凍傷も間に合って完治したそうだよ」
「たく…でもまぁ、助かったんなら良しとするか」
そういってディマは部屋を後にする。
「どこへ行くんだい?」
「風呂だよ、寒いからあったまりに行く、それに今の時間だとアストンがチビ達と入ってる時間だろ?一人じゃ大変だろうから俺も手伝ってくる」
そういって、右手を振りながら部屋を後にするディマ、そんな彼を見送った彼は再び残りの執務に取り掛かったのだった。
◇
「……ん…」
温かい、まるで母親に優しく抱きしめられているかのような、そんな心地よい感触だった。
目を覚ますとそこは、巨大なカプセルの中だった。自分は白い患者衣に着替えられており、両手足の凍傷も嘘かのように引いていた。
「起きたかね?」
声のする方に視線を向けると、そこには白髪の初老の男性、ギリコがいた。
「あの……ここは?……私はいったい…」
「ここは病院じゃ、お前さんはこの街の領主のディマに運ばれたんじゃよ」
「……領主?…」
少女は思い出した、うっすらと消えていく意識の中で自分を助けてくれた人物の顔を思い出した、年は恐らく自分と同い年くらいの青年、黄土色のような金髪をしたきれいな顔立ちの男の子。
「……そのディマって人が?…」
「そうじゃ、奴が全速力でここに運んでいなかったら、お前さんの両手足は完全に壊死してたじゃろうな」
「………」
なぜだろう、ディマ、その人物の事を思うと胸が熱く、そして優しい気持ちになるのは。
会いたい……すごく会いたい…
「……今どこにいるの?…」
会いたい気持ちが抑えられなくなり、とっさに少女はギリコに問いかけた。
「ん?今は恐らく屋敷じゃろうが…お前さん会いたいのか?」
少女はこくりとうなずく。そんな彼女にギリコは窘めるかのように言った。
「いいじゃろう、だが明日じゃ、明日くらいには完治するからそれまで安静にじゃ、よいな?」
「ん…分かった…」
少女も了承したようだ。
「とりあえず、今は寝ることじゃ、ええっと、…お前さん名前は?どっから来たんじゃ?」
少女はしばらく沈黙した後、口を動かした。
「私は……ファタルの……クーフィア…」
スターク家の屋敷に戻ったディマを待っていたのは初老前のメイド服の女性、リンダ・トーロイ。
まだ50代後半と若いがスターク家のメイド達をまとめるメイド長であり、
「おかえりディマ、ケガはなかった?」
奥で多くの洗濯物を入れたかごを持つ青みを帯びた黒髪の大きな腹をした妊婦のメイド、ルーナァ・トーロイの義母であり、上司でもある。
「「ルーナァ!?」」
ディマとリンダがルーナァに駆け寄る。リンダはルーナァの肩を支え、ディマが洗濯かごを奪うかのように持つ。
「あなた今日産休中のはずでしょ?」
「無茶するなってあれ程言っただろ!腹の子供になんかあったらどうすんだ!?」
「えっ、でも何かやってないと落ち着かないし…」
「お前らになんかあったら俺がアストンにぶっ殺されるんだよ、領主命令だ、今日から部屋でゆっくり休め、婆やを世話係としてつけるから」
「えっでもそれじゃあディマの世話は」
「自分の面倒くらい自分で見れるから大丈夫だ、後今日から重いものは持つの厳禁な、頼む婆や」
「かしこまりました、ほら行くよルーナァ」
「えぇぇ」とルーナァはリンダに肩を抑えられながら連行されていく。
出産は再来週予定であり、ギリコからも安静にしているようあれほど言われたにもかかわらず筆頭メイドとしての職務を全うしようとするルーナァに呆れ気味のディマは二階の書斎に上がり、扉を開ける。
「やぁ、おかえり、意外と早かったね」
そこには、本来なら自分が座るはずの席にルーナァと同じ色の髪をした眼鏡をかけた知的そうな青年、ルーナァの双子の弟で自身の補佐でもあるミリアル・クラウスが自分の代わりに書類仕事をこなしていた。
「身代わりご苦労さん、何か変わったことは?」
「マクシードさんの農園の作物が不作だったから税の徴収を少し待ってほしいって」
「じゃあ、今年は猶予でいいや、金の工面はこっちでしておくからさ」
「いいのかい?」
「そのかわり、来年以降は何とかしてくれ伝えてくれ、こっちも裕福じゃねぇし、税金は家の孤児院の生命線でもあるからな」
「了解、早速連絡しておくよ」
ディマが話した通り、スタークの屋敷は広い、それ故にスタークのこの館は領主の館でもあり、王国のありとあらゆる場所から孤児たちを集め、彼らの家として受け入れる街唯一の孤児院でもある。
バンバラの街は税が王都より少しだけ高いが、その分治安は良く、インフラ、福祉などは王都より完備している。
王都より領民が住みやすく、設備も整った街であり、独自の兵器開発ルートもある、ある意味、一つの独立国家並みの街である。
それ故に、王都の貴族には領主であるスターク家を「王の恩恵を受けずに利益を独占する偽善者の一族」と妬み、よく思っていない者も多い。
「それよりさぁ、弟のお前からもルーナに言ってやってくれよ、安静にしてろって」
「僕が言ったところでルーナァは聞きやしないさ、頑固なのはディマもよく知ってるだろ?」
「まぁ、確かに、あっ、そうだ」
肝心な事を聞こうと、ディマはミリアルの近くまで詰め寄った。
「ギリコ先生から連絡来てないか?」
「連絡って、ディマが助けたっていう女の子のこと?」
「それ以外何があるんだよ、それよりどうだったんだよ?」
「……さっき連絡があってね……」
しばらくの間、静寂が流れる。
「おい…まさか間に合わなかったんじゃ?…」
「……無事治療が済んだそうだよ」
「何達悪いことしてんだテメェ!!」
キレ気味で机をバンと叩くディマ。
「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけがすぎたね、今はメディカルカプセルでゆっくり眠ってるそうだ、凍傷も間に合って完治したそうだよ」
「たく…でもまぁ、助かったんなら良しとするか」
そういってディマは部屋を後にする。
「どこへ行くんだい?」
「風呂だよ、寒いからあったまりに行く、それに今の時間だとアストンがチビ達と入ってる時間だろ?一人じゃ大変だろうから俺も手伝ってくる」
そういって、右手を振りながら部屋を後にするディマ、そんな彼を見送った彼は再び残りの執務に取り掛かったのだった。
◇
「……ん…」
温かい、まるで母親に優しく抱きしめられているかのような、そんな心地よい感触だった。
目を覚ますとそこは、巨大なカプセルの中だった。自分は白い患者衣に着替えられており、両手足の凍傷も嘘かのように引いていた。
「起きたかね?」
声のする方に視線を向けると、そこには白髪の初老の男性、ギリコがいた。
「あの……ここは?……私はいったい…」
「ここは病院じゃ、お前さんはこの街の領主のディマに運ばれたんじゃよ」
「……領主?…」
少女は思い出した、うっすらと消えていく意識の中で自分を助けてくれた人物の顔を思い出した、年は恐らく自分と同い年くらいの青年、黄土色のような金髪をしたきれいな顔立ちの男の子。
「……そのディマって人が?…」
「そうじゃ、奴が全速力でここに運んでいなかったら、お前さんの両手足は完全に壊死してたじゃろうな」
「………」
なぜだろう、ディマ、その人物の事を思うと胸が熱く、そして優しい気持ちになるのは。
会いたい……すごく会いたい…
「……今どこにいるの?…」
会いたい気持ちが抑えられなくなり、とっさに少女はギリコに問いかけた。
「ん?今は恐らく屋敷じゃろうが…お前さん会いたいのか?」
少女はこくりとうなずく。そんな彼女にギリコは窘めるかのように言った。
「いいじゃろう、だが明日じゃ、明日くらいには完治するからそれまで安静にじゃ、よいな?」
「ん…分かった…」
少女も了承したようだ。
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