重機巧セインレイヴ

白銀アイネス

文字の大きさ
4 / 7
第一話 ラベンダー髪の少女

ファタルのクーフィア

しおりを挟む
「おかえりなさいませ、ディミトリ様」

スターク家の屋敷に戻ったディマを待っていたのは初老前のメイド服の女性、リンダ・トーロイ。

まだ50代後半と若いがスターク家のメイド達をまとめるメイド長であり、

「おかえりディマ、ケガはなかった?」

奥で多くの洗濯物を入れたかごを持つ青みを帯びた黒髪の大きな腹をした妊婦のメイド、ルーナァ・トーロイの義母であり、上司でもある。

「「ルーナァ!?」」

ディマとリンダがルーナァに駆け寄る。リンダはルーナァの肩を支え、ディマが洗濯かごを奪うかのように持つ。

「あなた今日産休中のはずでしょ?」

「無茶するなってあれ程言っただろ!腹の子供になんかあったらどうすんだ!?」
「えっ、でも何かやってないと落ち着かないし…」

「お前らになんかあったら俺がアストンにぶっ殺されるんだよ、領主命令だ、今日から部屋でゆっくり休め、婆やを世話係としてつけるから」

「えっでもそれじゃあディマの世話は」

「自分の面倒くらい自分で見れるから大丈夫だ、後今日から重いものは持つの厳禁な、頼む婆や」

「かしこまりました、ほら行くよルーナァ」

「えぇぇ」とルーナァはリンダに肩を抑えられながら連行されていく。

出産は再来週予定であり、ギリコからも安静にしているようあれほど言われたにもかかわらず筆頭メイドとしての職務を全うしようとするルーナァに呆れ気味のディマは二階の書斎に上がり、扉を開ける。

「やぁ、おかえり、意外と早かったね」

そこには、本来なら自分が座るはずの席にルーナァと同じ色の髪をした眼鏡をかけた知的そうな青年、ルーナァの双子の弟で自身の補佐でもあるミリアル・クラウスが自分の代わりに書類仕事をこなしていた。

「身代わりご苦労さん、何か変わったことは?」

「マクシードさんの農園の作物が不作だったから税の徴収を少し待ってほしいって」

「じゃあ、今年は猶予でいいや、金の工面はこっちでしておくからさ」

「いいのかい?」

「そのかわり、来年以降は何とかしてくれ伝えてくれ、こっちも裕福じゃねぇし、税金は家の孤児院の生命線でもあるからな」

「了解、早速連絡しておくよ」

ディマが話した通り、スタークの屋敷は広い、それ故にスタークのこの館は領主の館でもあり、王国のありとあらゆる場所から孤児たちを集め、彼らの家として受け入れる街唯一の孤児院でもある。

バンバラの街は税が王都より少しだけ高いが、その分治安は良く、インフラ、福祉などは王都より完備している。

王都より領民が住みやすく、設備も整った街であり、独自の兵器開発ルートもある、ある意味、一つの独立国家並みの街である。

それ故に、王都の貴族には領主であるスターク家を「王の恩恵を受けずに利益を独占する偽善者の一族」と妬み、よく思っていない者も多い。

「それよりさぁ、弟のお前からもルーナに言ってやってくれよ、安静にしてろって」

「僕が言ったところでルーナァは聞きやしないさ、頑固なのはディマもよく知ってるだろ?」

「まぁ、確かに、あっ、そうだ」

肝心な事を聞こうと、ディマはミリアルの近くまで詰め寄った。

「ギリコ先生から連絡来てないか?」

「連絡って、ディマが助けたっていう女の子のこと?」

「それ以外何があるんだよ、それよりどうだったんだよ?」

「……さっき連絡があってね……」

しばらくの間、静寂が流れる。

「おい…まさか間に合わなかったんじゃ?…」

「……無事治療が済んだそうだよ」

「何達悪いことしてんだテメェ!!」

キレ気味で机をバンと叩くディマ。

「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけがすぎたね、今はメディカルカプセルでゆっくり眠ってるそうだ、凍傷も間に合って完治したそうだよ」

「たく…でもまぁ、助かったんなら良しとするか」

そういってディマは部屋を後にする。

「どこへ行くんだい?」

「風呂だよ、寒いからあったまりに行く、それに今の時間だとアストンがチビ達と入ってる時間だろ?一人じゃ大変だろうから俺も手伝ってくる」

そういって、右手を振りながら部屋を後にするディマ、そんな彼を見送った彼は再び残りの執務に取り掛かったのだった。



「……ん…」

温かい、まるで母親に優しく抱きしめられているかのような、そんな心地よい感触だった。

目を覚ますとそこは、巨大なカプセルの中だった。自分は白い患者衣に着替えられており、両手足の凍傷も嘘かのように引いていた。

「起きたかね?」

声のする方に視線を向けると、そこには白髪の初老の男性、ギリコがいた。

「あの……ここは?……私はいったい…」

「ここは病院じゃ、お前さんはこの街の領主のディマに運ばれたんじゃよ」

「……領主?…」

少女は思い出した、うっすらと消えていく意識の中で自分を助けてくれた人物の顔を思い出した、年は恐らく自分と同い年くらいの青年、黄土色のような金髪をしたきれいな顔立ちの男の子。

「……そのディマって人が?…」

「そうじゃ、奴が全速力でここに運んでいなかったら、お前さんの両手足は完全に壊死してたじゃろうな」

「………」

なぜだろう、ディマ、その人物の事を思うと胸が熱く、そして優しい気持ちになるのは。

会いたい……すごく会いたい…

「……今どこにいるの?…」

会いたい気持ちが抑えられなくなり、とっさに少女はギリコに問いかけた。

「ん?今は恐らく屋敷じゃろうが…お前さん会いたいのか?」

少女はこくりとうなずく。そんな彼女にギリコは窘めるかのように言った。

「いいじゃろう、だが明日じゃ、明日くらいには完治するからそれまで安静にじゃ、よいな?」

「ん…分かった…」

少女も了承したようだ。

「とりあえず、今は寝ることじゃ、ええっと、…お前さん名前は?どっから来たんじゃ?」

少女はしばらく沈黙した後、口を動かした。

「私は……ファタルの……クーフィア…」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...