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第一章 自虐ネタではありません

適当ヒロイン 5

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 翌朝、私はすっきりした気分で目覚めた。眠れない夜を過ごすかと思っていたら、案外ぐっすり眠れたみたい。小さなロディが夢に出て、私を励ましてくれたような気もする。

 修道院から出るための準備は万端だ。
 昨日の夕食時、パンをわざと余らせ持ち帰った。部屋にあった蝋燭ろうそくを拝借し(盗んだのではなく借りるだけ)、服や寝間着と一緒に布の袋に詰めてある。へいの壊れた箇所から逃げ出せばいいので、脱出用のロープなんてものは、要らない。
 手鏡? くし? そんなものは邪魔になるだけなので、もちろん置いていく。
 身を寄せるあては……あるようなないような。

 以前、馬車でそう遠くないところにある森に、みんなで薬草を摘みに行った。そこで偶然見つけた小屋が、私の頼みの綱だ。
 鍵がかかっているとか不法侵入とかは、怖いので考えないようにしよう。少なくとも私が見た時は、扉が開いていた。閉まっていたら、蹴破ってでも押し入るつもり。
 一度亡くなった私は、結構たくましい。

 何食わぬ顔で朝の礼拝に参加し、いつも以上に熱心に祈る。
 ――神様、どうか上手く逃げ延びますように。

 本心を悟られてはいけないので、普段通り上品に振る舞う。おとなしい見た目が幸いし、誰も私がここを去るなんて、考えてもいないようだ。私はみんなの嫌がる庭掃除を進んで引き受け、逃走ルートを確認する。

「お昼時、お腹が痛くなったことにして抜け出せば……」

 作戦決行!
 昼食時、食堂から一旦自分の部屋に戻った私は『今までお世話になり、ありがとうございました。でも、探さないで下さい』とのメモを残し、用意していた布袋を抱えた。そのまま庭の、あまり人が来ない箇所を通って塀まで移動する。

 コートに付いたフードを目深まぶかに被り、髪の色がわからないようにした。下には修道服でなく、ここに入った時の服を着ている。サイズがきつく、特に胸がパッツンパッツンで苦しいものの、気にしてはいけない。誰かに会って質問されたら「院長からお使いを頼まれた」とごまかそう。
 うちはゆる~い修道院なので、時々こうして外にも行くし、家族の要請があればすぐに出られる。私が良い例……いや、悪い例だ。
 
 今まで真面目だった私は、変な動きをしても誰にも疑われないらしい。
 特に知り合いに引き留められることもなく、壁に開いた穴からまんまと脱出を果たした。そのまま、さもお使いだというていを装って歩き出す。

 修道院が見えなくなると、私は早速小道を駆け出した。日の出ているうちに森の小屋へ辿たどり着かなければ、どこかで見つかってしまうだろう。
 一瞬、村を目指そうかとも考えたが、やめた。親切な村人たちを巻き込むわけにはいかない。それに森より村の方が遠く、馬車ならまだしも徒歩だと明るい時間に着くことは不可能だ。

「それにしたって、どうしてこんなに体力無いのよ。シルヴィエラ……」

 あまり距離を稼がないうちに、息が切れてきた。それでも足を止めず、前に進む。
 ラノベの表紙にそっくりなシルヴィエラは、綺麗すぎて違和感がある。前世を思い出した私は、どこか他人のような気がするせいか、つい自分をシルヴィエラと呼んでしまうのだ。

 それなら気にせず、義兄に身体を差し出しても……という考えはもちろん却下で。感覚や痛覚は紛れもなく自分のものだし、十八年シルヴィエラとして生きてきた記憶もきちんとある。
 さらに日本人として過ごした日々も――最期の半年、私は病院のベッドの上で本を読みながら、ここを出たら恋をするぞと決めていた。たった一人の運命の相手に憧れていたのだ。そのため、どんなにつらくても治療に耐え、その先を夢見ていた。

 だから、自分は努力せずに男性の力だけでのし上がろうとするヒロインの生き方には、大反対だ。

 以前の自分を思い出したせいか、疲れた身体が余計にだるくなった気がする。もっと前向きなことを……そう、楽しいことを考えよう!
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