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第二章 ムーンライト暗殺
好感度を上げましょう
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次の日、私は腕を組んで考え込んでいた。
「昨晩の歓迎会では、ルシウス様と話しすぎたわ。これからは気をつけなくっちゃ」
乙女ゲームのカトリーナは、スタートの翌日――つまり今日、攻略対象の姿を求めて城の中を奔走する。画面には城のマップが表示され、意中の相手がいそうなところに向かっていくのだ。
「攻略対象達の好感度がゼロではダメだし、多すぎても困るわ。いったいどうすれば……」
考えた末に出た結論は、お茶会を開くというものだった。
お茶会はゲームにも出てきたから、城内パートをかっ飛ばすくらい誤差で済むだろう。
その日の午後。
私の部屋には『バラミラ』のメインキャラが勢揃い。
丸いテーブルの前にハーヴィー、ルシウス、私、クラリスの順に座り、扉の横には護衛のタールが立っている。レースで縁取られた薄紫色のテーブルクロスの上には、香り高いお茶と、タルトやサブレなどの焼き菓子が置かれていた。
ヒロインの攻略対象であるルシウスは、隣に位置するセイボリー王国の第一王子で十七歳。
金の模様が入った水色の衣装を着こなして、銀髪に青い瞳で端整な顔には爽やかな笑みを浮かべている。
【星の瞳】という未来視ができる能力を持つルシウスは、気性は優しく穏やか。我が国でも彼に憧れる女性は多い。
同じく攻略対象のハーヴィーは、二十四歳。
金の刺繍が入った赤い上着の下に白いシャツを着用し、黒のトラウザーズに包んだ長い足を組んでいる。金髪は肩より下で緩く波打ち、桃色の瞳は笑みを含んで輝く。
彼は我がローズマリー国の王太子で、私の兄。兄なのに攻略できるのは、私が実の妹ではないからだ。でもそのことは、ゲームの中盤以降になるまで明かされない。
そんな兄は、【月の瞳】という遠くのものまでよく見える千里眼の持ち主だ。
扉付近に立つのは、メリック公爵家の次男で私の護衛も務めるタール、二十一歳。
薄茶の髪と緑の瞳、八重歯が特徴の彼もヒロインの攻略対象の一人。金の刺繍と肩章付きの深緑色の制服がよく似合うが、童顔のため十五歳の私といても違和感がない。
ファンの間で「ター坊」と呼ばれていたので、私も親しみを込めて時々「ター坊」と呼ぶ。
【彗星の瞳】を宿し能力を使うと周りのものがゆっくり見える彼は、敏捷性が評価され、史上最年少で国家騎士の第三騎士団長に任命された。
それから私の友人、カモミール侯爵家の令嬢クラリス、十六歳。
今日の彼女は、胸の部分が白いレースに覆われた髪と同じ水色のドレスを着ている。推しのルシウスが同席しているせいか、照れて伏し目がち。そのため、普段のきつい印象が和らいでいる。
そして私、カトリーナは、この国の王女で十五歳。
今回は袖とスカートの一部が白の黄色いドレス。ヒロインだけど攻略対象を攻略するつもりはなく、推しは断然クロム様!
そうそうたる顔ぶれに、思わずにやけるファン心理。
でもこれはファン感謝祭ではなく、彼らの好感度を少し上げるための団体行動なのだ。
「みなさま、お代わりはいかが? ルシウス様のお土産のお茶は、芳醇で美味しいですものね」
「美しい方にお気に召していただけて、光栄です」
「まあ、お上手ですこと」
おっと、いけない。
ルシウスだけでなく、みんなに話しかけよう。
「ター坊も立っていないで、こちらにどうぞ」
「いいえ。俺の仕事は、姫様の護衛ですから」
「ここには知り合いだけだもの、楽にしていいのよ。それに騎士団長のタールがいた方が、お茶会が盛り上がるでしょう?」
「カトリーナ様が、ようやく俺の名前を……」
タールが白い手袋を嵌めた手で口元を押さえている。
そんなに感激するなら、今後はター坊ではなくタールと呼ぼうかしら。
視線を感じてチラリと見れば、クラリスが私とタールの会話に聞き耳を立てている。
それから次はハーヴィーね。
兄を見て、私は軽く首をかしげた。
「お兄様は楽しんでいらっしゃる?」
「ああ。こうしてゆっくりできる時間は、久しぶりだ」
「そうね。お兄様は働きすぎだもの」
多忙な兄にくつろいでもらうため、リラックス効果のあるハーブティーも用意した。
けれど兄はお茶を飲まず、横のクラリスに話しかけている。
「カトリーナと仲良くしてくれて、ありがとう」
「もったいないお言葉ですわ。私の方こそありがとうございます」
猫を被っ――いえ、彼女の慎ましやかな応えに満足したのか、ハーヴィーがにっこり笑っている。
「カトリーナは、良い友人に恵まれたんだね」
「ええ。私も彼女に出会えて、感謝しているの」
「感謝……か。私も、素敵な出会いに感謝しているよ」
兄はそう言い、私に向かって片目を瞑る。
――今のはどういう意味かしら?
カトリーナには、二歳で王家に引き取られたという経緯がある。
彼女の母は国王の妹で、病の末に亡くなった。
父親はとっくに他界していたため、哀れに思った国王が幼いカトリーナを自分の子として育てると決意したのだ。
ハーヴィーはヒロインの従兄だが、その時から兄となった。
でも、初期の段階では思い出せないし、ハーヴィーも中盤までは匂わせるような行為をしないはず。
それにしては今のウインクって、思わせぶりじゃなかった?
好意を得ようと焦るあまり、自分に都合良く感じたのかもしれない。
きっと考え過ぎね。
お茶会はその後も和やかに進むが、ルシウスは私にばかり話しかけている。
「再会した時にも感じましたが、やはり美しい。カトリーナ様、いえ、カトリーナとお呼びしても?」
「はい? いえ、あの……ええ」
こっちを見るクラリスの視線が痛い。
爽やかなルシウスが序盤からガンガン口説くなんて、聞いていないわ。
「カトリーナ。勇敢で愛らしい君の魅力は、筆舌に尽くしがたい。聞けば、この国の芸術振興政策にも深く関わったとか」
「……ええ、ほんの少しですが」
本当はがっつり関わったけど、会話を早く終わらせたい。
ゲームにはない褒め言葉の連発で、身体がむずむずする。
視線で助けを求めたものの、クラリスには目を逸らされた。
もしかして……もしかしなくても、怒ってる!?
「僕には君が必要だ。我が国で、存分に力を発揮してくれないか?」
「えええっ!?」
いくらなんでも早すぎる。
それだと完全にルシウスルートだ。
ルシウスはもう、カトリーナを自国に招くつもりなの!?
口を開きかけた兄より早く、背後で声がした。
「カトリーナ様、だったら俺もカトリーナって呼んでいい? 付き合いは、俺との方が長いですよね?」
「はいいぃ!?」
タールったら、急に何?
焦って振り向く私に、彼はいたずらっぽく肩をすくめた。
「……けど、ダメか。臣下が呼び捨てなんて、不敬ですもんね。残念だなあ」
だからタール、なんでそうやって子犬のフェリーチェみたいに可愛くうなだれるのよ。
ま、あの子の方が愛らしいけれど。
「ルシウス殿下、からかうのはそこまでで。カトリーナが最も心を許す相手は、私だ。昔から、私がいないと何もできないんだからね」
何それ、何自慢?
兄はいったい、いつの時代を頭に描いているのだろう?
「湯浴みもするくらい仲のいい妹を、私がすぐに手放すとでも?」
「お、お兄様!?」
ハーヴィーがいきなり、とんでもないことを言い出した。
これにはルシウスも、呆気にとられて目を丸くしている。
「ちょっと! 一緒に湯船に浸かったのって、十年以上も前でしょう? お兄様、私の記憶にさえないものを、みんなに披露するのはやめてほしいの!」
「ほらね? 怒った顔も可愛いだろう?」
クスクス笑うハーヴィーだけど、みんなは呆れているようだ。
好感度を上げるつもりが急降下。
前途多難な気がする。
「昨晩の歓迎会では、ルシウス様と話しすぎたわ。これからは気をつけなくっちゃ」
乙女ゲームのカトリーナは、スタートの翌日――つまり今日、攻略対象の姿を求めて城の中を奔走する。画面には城のマップが表示され、意中の相手がいそうなところに向かっていくのだ。
「攻略対象達の好感度がゼロではダメだし、多すぎても困るわ。いったいどうすれば……」
考えた末に出た結論は、お茶会を開くというものだった。
お茶会はゲームにも出てきたから、城内パートをかっ飛ばすくらい誤差で済むだろう。
その日の午後。
私の部屋には『バラミラ』のメインキャラが勢揃い。
丸いテーブルの前にハーヴィー、ルシウス、私、クラリスの順に座り、扉の横には護衛のタールが立っている。レースで縁取られた薄紫色のテーブルクロスの上には、香り高いお茶と、タルトやサブレなどの焼き菓子が置かれていた。
ヒロインの攻略対象であるルシウスは、隣に位置するセイボリー王国の第一王子で十七歳。
金の模様が入った水色の衣装を着こなして、銀髪に青い瞳で端整な顔には爽やかな笑みを浮かべている。
【星の瞳】という未来視ができる能力を持つルシウスは、気性は優しく穏やか。我が国でも彼に憧れる女性は多い。
同じく攻略対象のハーヴィーは、二十四歳。
金の刺繍が入った赤い上着の下に白いシャツを着用し、黒のトラウザーズに包んだ長い足を組んでいる。金髪は肩より下で緩く波打ち、桃色の瞳は笑みを含んで輝く。
彼は我がローズマリー国の王太子で、私の兄。兄なのに攻略できるのは、私が実の妹ではないからだ。でもそのことは、ゲームの中盤以降になるまで明かされない。
そんな兄は、【月の瞳】という遠くのものまでよく見える千里眼の持ち主だ。
扉付近に立つのは、メリック公爵家の次男で私の護衛も務めるタール、二十一歳。
薄茶の髪と緑の瞳、八重歯が特徴の彼もヒロインの攻略対象の一人。金の刺繍と肩章付きの深緑色の制服がよく似合うが、童顔のため十五歳の私といても違和感がない。
ファンの間で「ター坊」と呼ばれていたので、私も親しみを込めて時々「ター坊」と呼ぶ。
【彗星の瞳】を宿し能力を使うと周りのものがゆっくり見える彼は、敏捷性が評価され、史上最年少で国家騎士の第三騎士団長に任命された。
それから私の友人、カモミール侯爵家の令嬢クラリス、十六歳。
今日の彼女は、胸の部分が白いレースに覆われた髪と同じ水色のドレスを着ている。推しのルシウスが同席しているせいか、照れて伏し目がち。そのため、普段のきつい印象が和らいでいる。
そして私、カトリーナは、この国の王女で十五歳。
今回は袖とスカートの一部が白の黄色いドレス。ヒロインだけど攻略対象を攻略するつもりはなく、推しは断然クロム様!
そうそうたる顔ぶれに、思わずにやけるファン心理。
でもこれはファン感謝祭ではなく、彼らの好感度を少し上げるための団体行動なのだ。
「みなさま、お代わりはいかが? ルシウス様のお土産のお茶は、芳醇で美味しいですものね」
「美しい方にお気に召していただけて、光栄です」
「まあ、お上手ですこと」
おっと、いけない。
ルシウスだけでなく、みんなに話しかけよう。
「ター坊も立っていないで、こちらにどうぞ」
「いいえ。俺の仕事は、姫様の護衛ですから」
「ここには知り合いだけだもの、楽にしていいのよ。それに騎士団長のタールがいた方が、お茶会が盛り上がるでしょう?」
「カトリーナ様が、ようやく俺の名前を……」
タールが白い手袋を嵌めた手で口元を押さえている。
そんなに感激するなら、今後はター坊ではなくタールと呼ぼうかしら。
視線を感じてチラリと見れば、クラリスが私とタールの会話に聞き耳を立てている。
それから次はハーヴィーね。
兄を見て、私は軽く首をかしげた。
「お兄様は楽しんでいらっしゃる?」
「ああ。こうしてゆっくりできる時間は、久しぶりだ」
「そうね。お兄様は働きすぎだもの」
多忙な兄にくつろいでもらうため、リラックス効果のあるハーブティーも用意した。
けれど兄はお茶を飲まず、横のクラリスに話しかけている。
「カトリーナと仲良くしてくれて、ありがとう」
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「ええ。私も彼女に出会えて、感謝しているの」
「感謝……か。私も、素敵な出会いに感謝しているよ」
兄はそう言い、私に向かって片目を瞑る。
――今のはどういう意味かしら?
カトリーナには、二歳で王家に引き取られたという経緯がある。
彼女の母は国王の妹で、病の末に亡くなった。
父親はとっくに他界していたため、哀れに思った国王が幼いカトリーナを自分の子として育てると決意したのだ。
ハーヴィーはヒロインの従兄だが、その時から兄となった。
でも、初期の段階では思い出せないし、ハーヴィーも中盤までは匂わせるような行為をしないはず。
それにしては今のウインクって、思わせぶりじゃなかった?
好意を得ようと焦るあまり、自分に都合良く感じたのかもしれない。
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「はい? いえ、あの……ええ」
こっちを見るクラリスの視線が痛い。
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もしかして……もしかしなくても、怒ってる!?
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それだと完全にルシウスルートだ。
ルシウスはもう、カトリーナを自国に招くつもりなの!?
口を開きかけた兄より早く、背後で声がした。
「カトリーナ様、だったら俺もカトリーナって呼んでいい? 付き合いは、俺との方が長いですよね?」
「はいいぃ!?」
タールったら、急に何?
焦って振り向く私に、彼はいたずらっぽく肩をすくめた。
「……けど、ダメか。臣下が呼び捨てなんて、不敬ですもんね。残念だなあ」
だからタール、なんでそうやって子犬のフェリーチェみたいに可愛くうなだれるのよ。
ま、あの子の方が愛らしいけれど。
「ルシウス殿下、からかうのはそこまでで。カトリーナが最も心を許す相手は、私だ。昔から、私がいないと何もできないんだからね」
何それ、何自慢?
兄はいったい、いつの時代を頭に描いているのだろう?
「湯浴みもするくらい仲のいい妹を、私がすぐに手放すとでも?」
「お、お兄様!?」
ハーヴィーがいきなり、とんでもないことを言い出した。
これにはルシウスも、呆気にとられて目を丸くしている。
「ちょっと! 一緒に湯船に浸かったのって、十年以上も前でしょう? お兄様、私の記憶にさえないものを、みんなに披露するのはやめてほしいの!」
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