乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

文字の大きさ
16 / 70
第二章 ムーンライト暗殺

国家騎士団長タール

しおりを挟む
 クロム様にしては珍しく、言葉にまっている。

『先生』と呼ぶべきところを、私がうっかり『あなた』と口走っちゃったから?
 慌てて言い直す。

「先生はここで、何をしていらっしゃったんですか?」
「いつもの散歩です。カトリーナ様は、こちらにいらしてよろしいのですか? 真剣に取り組まないと、課題は終わりませんよ」

 しまった、そうだった。

「ええっと……そうだわ! セイボリーの文化について疑問があるんです。教えてくださいますか?」
「課題にない質問は、明日まとめてしてください。せっかくですから、ご滞在中のセイボリーの王子殿下に直接伺ってみては、いかがでしょうか?」

 ――それだとマズいの! 

 一緒に過ごす時間が多いと、ルシウスの好感度だけが上がってしまう。そうなると、隣国行きはまぬかれない。ただでさえ彼の言動は、本来のストーリーの先を行く。

「いいえ。些細ささいな質問で、殿下をわずらわせるなどできません。では、明日また改めて伺いますわ。お散歩でしたら、ご一緒してもよろしくて? ちょうど子犬の様子を見に……」
「申し訳ありませんが、戻るところでしたので。王女殿下はどうぞごゆっくり」
「そんなあ……」

 推しに冷たくあしらわれ、がっかりして肩を落とした。
 すると横にいた護衛のタールが、何を思ったのか剣のつかに手をかける。

 ――もしや私がバカにされたと感じて、クロム様を威嚇いかくしているの?

「私のために、ケンカはやめて!(一度言ってみたかった)」

 クロム様は無言で、城の方へスタスタと歩き去ってしまった。

 心優しき暗殺者。
 だけど私に対しては、かなり冷たい。



 うつむく私に同情したのか、タールが話しかけてくる。

「カトリーナ様が庭園を散歩したいなら、俺がおともしますよ」
「ありがとう。ター坊は優しいのね」
「ター坊って……。カトリーナ様、その呼び方、そろそろやめていただけますか?」
「あら、どうして?」
「これでも俺、とっくに成人しています。しかも姫様より、六つも年上ですよ」

 くせのある薄茶の髪に緑の瞳、ちらりと見える八重歯やえばが可愛いタール。
 童顔の彼が男らしさを強調するなんて、これまでなかったことだ。

 ――もしかして、今はタールの好感度を上げる場面かしら?

 ゲームでは画面の下に選択肢が出てくるけれど、現実では無理だ。自分で最適解を導き出さなくてはいけないので、非常に難しい。

 だから私は間違えないよう、タールとの出会いに思いをせる。

 彼と初めて会ったのは、私が六歳で彼が十二歳の時。
 当時騎士見習いだったタールは、仲間達から離れた場所に、一人ポツンと座っていた。

「カトリーナ様、何を考えていらっしゃるんですか?」
「もちろん、あなたのことよ」
「俺っ!?」

 率直にこたえると、タールの耳が赤くなった。
 私は慌てて言葉を足す。

「いえ、あの……。あなたはあなたでも、昔のあなたなの」
「昔、ですか?」
「ええ。騎士の見習いだったあなたは、仲間から離れてふてくされていたな、と思って」
「ああ、そのことですか。確かにあの時小さな王女様に出会わなければ、俺は騎士になる夢をあきらめていたでしょう」
「まあ、大げさね」

 クスクス笑う私の横で、タールが真面目な顔をする。

「いいえ、事実です。俺はそれまで、師範しはんや他の見習い達から仲間はずれにされていましたから」
「そうだったわね。瞳に彗星すいせいの模様が浮かぶせいで恐れられ、爪弾つまはじきにされていたなんて。根も葉もない噂にまどわされていた彼らの方こそ、騎士失格よ!」

 それもこれも、この世界では彗星が凶兆とされているせいだ。
 彗星が近づくと、世界が終わるとか魂が奪われるといった迷信を、本気で信じている人もいる。

「ハハハ。姫様はあの頃もそう言って、俺をはげましてくれましたね」
「だって、本当のことですもの」

 実際の彗星は、氷やガスやちりかたまりで、死ぬなんてことはない。
 でも、この世界には精度の高い望遠鏡がなく、彗星の正体はいまだ解明されていなかった。

 そのせいで瞳に彗星の模様が浮かぶタールを、周りは当時気味悪がってけていたのだ。

 ゲームでは回想のみの場面でも、生まれ変わった私には現実の体験。タールとの出会いも昨日のことのように、はっきり覚えている。

「ですが、俺も悪いんです。メリック公爵家は由緒正しい国家騎士の家柄だからと、家名にあぐらをかいていたので」
「いいえ。タールは昔から、努力家でしょう?」
「姫様、そこまで俺のことを見て……」

 何やら感激している様子だけれど、私の知識のほとんどは、ゲームやファンブックで得たものだ。

「【彗星の瞳】を持ちながら、努力をおこたらない。周囲もそんなあなたを、心の底では認めていたと思うの。たぶん、夜空を駆ける彗星のごとき速さに、嫉妬しっとしていたのね」
「小さなカトリーナ様が真っ先に、俺の能力を認めて褒めてくださいましたね。『ター坊』という愛称をお付けになったのも、その頃でしたっけ」
「それは……」

『バラミラ』ファンが呼んでいたから。
 うっかり呼び間違えてはいけないと、六歳の私は彼をあえて「ター坊」と呼んだのだ。

「ごめんなさい。私……」
「謝らないでください。責めているのではなく、お礼を言いたくて。カトリーナ様が愛称を呼んで親しくしてくださったおかげで、仲間も俺を怖がらなくなったのですから」
「それは、あなたの側をうろちょろしていた私が、病気一つしなかったせいよね。だったら私ではなく、健康に生んでくれた両親のおかげだと思うの」

 タールがふっと微笑んだ。

「それでも俺は、あなたと出会えた奇跡に感謝したい。俺が団長になったのも、騎士として頑張っていられるのも、全てカトリーナ様のおかげです」
「まさか。全部ター坊の実力よ」

 元々タールは剣の腕だけでなく、性格も良かった。
 そんな彼の周りには、どんどん人が増えていく。
 彼を遠巻きにしていた連中も、今や彼の部下だ。
 若くして第三騎士団長の座にいたター坊は、多くの者に尊敬されている。

「感謝をしているのは、私よ。あなたは国家騎士になった後も、筋トレに付き合ってくれたでしょう? おかげで私、この通り元気だもの」

 力こぶを見せようと、ひじを曲げてみる。

「そんなこともありましたね。きたえたい、との申し出を受けた時は、本当にびっくりしました」
「思えば長い付き合いね。これからもよろしく、ター坊」
「はい。……って、結局ター坊かあ~」

 私の横で頭を抱えるタールは、可愛くって子犬みたい。
 もちろん、私のフェリーチェには負けるけど。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...