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第三章 愛・おぼえていますが
推しとの初旅行?
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力のこもった説得と子犬のフェリーチェをだしにした結果、クロム様は今もここにいる。
「クロム様、勉強の続きを教えてください。あと、これからは気軽に接してくださいね」
「……わけを聞かないのですか?」
「わけ? 必要ありませんわ」
クロム様が目を丸くする。
命を狙われた理由を尋ねないので、驚いているみたい。
「ですが……」
どうしよう?
「信じているから」と言うのは変だし、「ストーリーを知っている」では警戒されてしまう。
この先『バラミラ』に暗殺者の出番はないので、慎重に答えなくてはならない。
「あなたは優しい人でしょう? 私には、それだけで十分なの」
クロム様の焦燥や葛藤を、考えなかったわけじゃない。
でも、私があなたを幸せにする。
後悔なんてさせないわ!
もちろん、好感度を上げようと画策したことや、捕縛用の縄まで用意したことは、本人には内緒だ。
クロム様は私を穴の開くほど見つめ、やがて諦めたようにため息をつく。
「わかりました。教師の職は続けましょう。教育し直さないと、カトリーナ様は自らの命を省みない傾向にありますからね。まあ、私が言うのも変ですが」
「あの時は必死でしたもの。クロム様が残ってくださるなら、危険な行為はしませんわ」
それから十日後。
通訳をお願いしたいと言い張って、私はクロム様とともに国境沿いの視察に出かけた。
忙しい兄に代わって、橋の建設予定地を訪れることになったのだ。
ルシウス殿下も一緒なので、失敗できない……というのは言い訳で、私がクロム様と旅行したいから。
「訛りがあっても聞き取れるはず」と何度も断るクロム様を、拝むような仕草で弱々しく見つめた。
『弱々しく』――ココ重要。
秋も深まる時期なのに、今日はぽかぽか暖かい。
クロム様は、黒の上下に黒いタイ、編み上げブーツも黒だ。
推しは存在だけで尊いが、このまま二人きりで観光できたらどんなにいいかしら。
ルシウスも素敵で、金糸の入った紺色の上下に白のシャツとクラバットを合わせている。腰に下げた剣には宝石が埋め込まれ、時々当たる光で輝いて見えた。
タールは、深緑色の生地に金色の刺繍と肩章が付いたいつもの制服だ。剣も騎士団から支給されているもので、装飾よりも実用性に重きが置かれている。
私は赤紫のベロア生地にレースの襟と袖が付いた服を着て、歩きやすいように紫のブーツを履いている。公務といえども華やかなのは、これがクロム様との初旅行だから。
――大好きな推しと外にいるから、視察ではなく初旅行!
けれど浮かれる暇はなく、鄙びた土地に集まった住民と議論を交わす。
「そったな立派な橋、架けても通る者がおらん」
「いいえ。ここに橋が架かれば、交通の要所となるはずです」
「でも、あたしらになんの得がある? よそもんや川向こうの民に侵入されて、大きな顔をされるのは、好かん」
詰め寄る人々は、橋には否定的だ。
「両国の発展に大きく寄与することで、村の知名度が上がるでしょう。通行料も設定し、一部を村の収益とします」
「収益? わしらの儲けになるってことか?」
「ええ。使い途は、みなさまにお任せいたします。それに向こうだって、同じことを思っていらっしゃるかもしれませんよ?」
私は終始笑顔で、住民の反対をことごとくひっくり返していく。
ただし、村の老人は頑固だ。
「だども、よそもんは怖い」
「セイボリーの方々も、みなさまの良さを知らずに警戒するかもしれませんね」
「どうだか。セイボリーの民は、魔法で人を惑わせるに決まっちょる」
「いいえ。魔道具は平和や利便性を目的として作られていて、悪用は禁止されています。それを言うならローズマリーの方々も、素晴らしい歌声でセイボリーの民を惑わせますよね?」
困った時には、ルシウスが助け船を出してくれた。
「……む。褒められているのか?」
「ええ。そのようですね」
老人ににっこり微笑んだところ、大柄な男が声を上げる。
「そんなことはいい。漁はどうなる! 橋が架かると川魚が逃げちまう」
「ここより上流の、王家所有の土地を開放します。そこでなら、魚もたくさん獲れるでしょう?」
「いいのか?」
「もちろんですわ」
視察の前に、クロム様と一緒に資料を読み込んだ。
問題となりそうな点を洗い出して対策を練り、ハーヴィーの許可も当然得ている。
訛りは結構聞き取れたが、困った時はクロム様に尋ねた。用意した提案に自信が持てたのも、彼のおかげだ。
「ルシウス様。ご協力いただき、ありがとうございました」
住民との話し合いが終了したため、私はまずルシウスに感謝の言葉を述べた。
橋の建設計画をまとめたのは、兄とルシウスだ。
「カトリーナの活躍のおかげだよ。僕の方こそありがとう」
ルシウスの爽やかな笑みは、彼のファンでなくとも見惚れてしまう。
「クロム様にも、大変お世話になりました」
「王女殿下のお役に立てて、光栄です」
――あれ? クロム様がよそよそしい。一応公務だから、気を遣っているのかしら?
付近の散策用に、張り切って日傘まで用意した。
でも、王都までは距離があるため、ゆっくりしている暇はない。
推しとのラブラブデート(?) in 大自然 は、次回に持ち越しだ。
用事を済ませた私達は、来た道を馬車で戻っていく。
私の隣に侍女がいて、その前がクロム様。
私の正面には、ルシウスが座っている。
クロム様の視線は窓の外。
横顔も素晴らしいけれど、少しくらいこっちを見てくれたっていいのに……。
行きの馬車で「彼がクロムか……」と言ったルシウスは、それきり黙り込んでしまった。視察を終えた今は安堵したのか、いつものように愛想がいい。
「セイボリー側の景色も、こちらとよく似ている。カトリーナにも見せてあげたいな」
「そうですね。橋が架かって貴国を訪問した際は、ぜひ」
「違うよ。僕が言っているのは……」
その時、馬車がガタンと揺れた。
急停止でつんのめった私を、正面のルシウスが支えてくれる。
「どうしたのかしら?」
「ダメだ!」
身体を起こして窓から顔を出そうとした私を、クロム様が一喝した。
「クロム様、勉強の続きを教えてください。あと、これからは気軽に接してくださいね」
「……わけを聞かないのですか?」
「わけ? 必要ありませんわ」
クロム様が目を丸くする。
命を狙われた理由を尋ねないので、驚いているみたい。
「ですが……」
どうしよう?
「信じているから」と言うのは変だし、「ストーリーを知っている」では警戒されてしまう。
この先『バラミラ』に暗殺者の出番はないので、慎重に答えなくてはならない。
「あなたは優しい人でしょう? 私には、それだけで十分なの」
クロム様の焦燥や葛藤を、考えなかったわけじゃない。
でも、私があなたを幸せにする。
後悔なんてさせないわ!
もちろん、好感度を上げようと画策したことや、捕縛用の縄まで用意したことは、本人には内緒だ。
クロム様は私を穴の開くほど見つめ、やがて諦めたようにため息をつく。
「わかりました。教師の職は続けましょう。教育し直さないと、カトリーナ様は自らの命を省みない傾向にありますからね。まあ、私が言うのも変ですが」
「あの時は必死でしたもの。クロム様が残ってくださるなら、危険な行為はしませんわ」
それから十日後。
通訳をお願いしたいと言い張って、私はクロム様とともに国境沿いの視察に出かけた。
忙しい兄に代わって、橋の建設予定地を訪れることになったのだ。
ルシウス殿下も一緒なので、失敗できない……というのは言い訳で、私がクロム様と旅行したいから。
「訛りがあっても聞き取れるはず」と何度も断るクロム様を、拝むような仕草で弱々しく見つめた。
『弱々しく』――ココ重要。
秋も深まる時期なのに、今日はぽかぽか暖かい。
クロム様は、黒の上下に黒いタイ、編み上げブーツも黒だ。
推しは存在だけで尊いが、このまま二人きりで観光できたらどんなにいいかしら。
ルシウスも素敵で、金糸の入った紺色の上下に白のシャツとクラバットを合わせている。腰に下げた剣には宝石が埋め込まれ、時々当たる光で輝いて見えた。
タールは、深緑色の生地に金色の刺繍と肩章が付いたいつもの制服だ。剣も騎士団から支給されているもので、装飾よりも実用性に重きが置かれている。
私は赤紫のベロア生地にレースの襟と袖が付いた服を着て、歩きやすいように紫のブーツを履いている。公務といえども華やかなのは、これがクロム様との初旅行だから。
――大好きな推しと外にいるから、視察ではなく初旅行!
けれど浮かれる暇はなく、鄙びた土地に集まった住民と議論を交わす。
「そったな立派な橋、架けても通る者がおらん」
「いいえ。ここに橋が架かれば、交通の要所となるはずです」
「でも、あたしらになんの得がある? よそもんや川向こうの民に侵入されて、大きな顔をされるのは、好かん」
詰め寄る人々は、橋には否定的だ。
「両国の発展に大きく寄与することで、村の知名度が上がるでしょう。通行料も設定し、一部を村の収益とします」
「収益? わしらの儲けになるってことか?」
「ええ。使い途は、みなさまにお任せいたします。それに向こうだって、同じことを思っていらっしゃるかもしれませんよ?」
私は終始笑顔で、住民の反対をことごとくひっくり返していく。
ただし、村の老人は頑固だ。
「だども、よそもんは怖い」
「セイボリーの方々も、みなさまの良さを知らずに警戒するかもしれませんね」
「どうだか。セイボリーの民は、魔法で人を惑わせるに決まっちょる」
「いいえ。魔道具は平和や利便性を目的として作られていて、悪用は禁止されています。それを言うならローズマリーの方々も、素晴らしい歌声でセイボリーの民を惑わせますよね?」
困った時には、ルシウスが助け船を出してくれた。
「……む。褒められているのか?」
「ええ。そのようですね」
老人ににっこり微笑んだところ、大柄な男が声を上げる。
「そんなことはいい。漁はどうなる! 橋が架かると川魚が逃げちまう」
「ここより上流の、王家所有の土地を開放します。そこでなら、魚もたくさん獲れるでしょう?」
「いいのか?」
「もちろんですわ」
視察の前に、クロム様と一緒に資料を読み込んだ。
問題となりそうな点を洗い出して対策を練り、ハーヴィーの許可も当然得ている。
訛りは結構聞き取れたが、困った時はクロム様に尋ねた。用意した提案に自信が持てたのも、彼のおかげだ。
「ルシウス様。ご協力いただき、ありがとうございました」
住民との話し合いが終了したため、私はまずルシウスに感謝の言葉を述べた。
橋の建設計画をまとめたのは、兄とルシウスだ。
「カトリーナの活躍のおかげだよ。僕の方こそありがとう」
ルシウスの爽やかな笑みは、彼のファンでなくとも見惚れてしまう。
「クロム様にも、大変お世話になりました」
「王女殿下のお役に立てて、光栄です」
――あれ? クロム様がよそよそしい。一応公務だから、気を遣っているのかしら?
付近の散策用に、張り切って日傘まで用意した。
でも、王都までは距離があるため、ゆっくりしている暇はない。
推しとのラブラブデート(?) in 大自然 は、次回に持ち越しだ。
用事を済ませた私達は、来た道を馬車で戻っていく。
私の隣に侍女がいて、その前がクロム様。
私の正面には、ルシウスが座っている。
クロム様の視線は窓の外。
横顔も素晴らしいけれど、少しくらいこっちを見てくれたっていいのに……。
行きの馬車で「彼がクロムか……」と言ったルシウスは、それきり黙り込んでしまった。視察を終えた今は安堵したのか、いつものように愛想がいい。
「セイボリー側の景色も、こちらとよく似ている。カトリーナにも見せてあげたいな」
「そうですね。橋が架かって貴国を訪問した際は、ぜひ」
「違うよ。僕が言っているのは……」
その時、馬車がガタンと揺れた。
急停止でつんのめった私を、正面のルシウスが支えてくれる。
「どうしたのかしら?」
「ダメだ!」
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