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二章 アヴァランチェ編

40 諭して 絡まれて 庇って 耐えて

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 ◇◆◇◆◇


 翌朝になっても、気分は晴れない。
 昨日のことを思い出し、汚れたままでギルドに入った、自分が悪いのは分かってはいたが、やはりあのように言われると、昔のことを思い出し気が沈む。
 朝からギルドに行く気になれなく、少し都市を探索してから向かうことにした。

 宿屋を出て路地をあてもなく歩き回り、頃合いをみてギルドに向かう。
 ギルドに着いたら冒険者は少なくなっていたので、掲示板に依頼書を見に行く。
 すると依頼専用の受付に居る、女性職員が話し掛けてきた。

「あのう、カズさんでしたっけ?」

「ええ、そうですが?」

 見ると、昨日水路の掃除依頼を説明してくれた女性職員だった。

「昨日は申し訳ありませんでした」

「ん? 何がですか?」

「面倒な依頼を受けてもらったのに、依頼完了の報告時に、冒険者の方々が酷いことを言っていたのを止められなくて」

 ああ、そのことか。

「そんな、汚れていたままで、ギルドに入った俺が悪いんですから」

「それでもさすがにあれは職員として、止めに入らなければ、ならなかったと思いますし」

「もう済んだことですから、良いですよ」

「そう言ってもらえると……ありがとうございます。実はサブマスに怒られまして」

「えっ! どうして?」

「昨日の出来事がサブマスの耳に入り、依頼を担当した私が、カズさんを庇わなかったからと」

 ……アレナリア!

「それでですね……」

「まさか」

「カズさんが来たら、サブマスの所に連れて来るようにと……」

 やっぱりか! サブマスという立場をわきまえてくれ。

「……分かりました」

「場所は、昨日の部屋だと言えば分かると」

「サズマスには、貴女が悪い訳ではないと、俺からも説明しておきます」

「ありがとうございます」

 女性職員と別れて昨日の部屋に行き、ノックをして、返事があったので中に入る。
 今日は中にアレナリアが一人だった。

「待っていたぞカズ」

「アレナリア、こう立て続けて呼び出されたら、いくらなんでも……」

「カズは、私と会うのが嫌になったのか?」

「そうじゃなくて、俺はまだこの都市に来たばかりで、しかもEランクの新人なんだから、ギルマスやサブマスが頻繁に会ったら、特別扱いしてるみたいでしょ」

「カズ怒ったのか?」

「怒ってない」

「本当か?」

「本当に怒ってないよ」

「そうか良かった」

「それでアレナリア、今回の呼び出しは?」

「昨夜ギルドに居た冒険者が、カズに悪態を付いたと職員から聞いてね」

「まぁあれは、汚れてギルドに入ってきた俺が悪かったから。そう言えば、受付の女性職員を叱ったそうじゃないか」

「当然だろ。馬鹿な冒険者が、カズに酷いことを言っていたのを、止めなかったから」

「あれは止めに入らなくて良かったの」

「何故だ?」

「血気盛んな冒険者達に、ただの女性職員が止めに入ったら危険でしょ。アレナリアはサズマスなんだから、職員の安全を考えないと」

「……でもカズが……」

「分かってる。心配してくれたんでしょ」

「うん」

「受付の女性に勘違いだったって、一言謝っときな」

「え~、私が謝るのか」

「アレナリア!」

「わ、分かったわよ。その後はカズに酷いこと言った奴らを探しだし、氷漬けにしてから川に流して……」

「もしもしアレナリア、乱暴は駄目だよ」

「良いじゃないか。そんな連中なんて!」

「ダ~メ!」

「それだと、カズ一人が損ではないのか」

「俺一人が我慢すれば、済むことだからいいの」

「そんなの私は嫌だな」

「ありがとうアレナリア」

「そ、そんな誉めたって……えへへ」

 まったく、子供扱いするなって言ってたのに。

「俺はもう行くよ」

「あ、もう……でも、うん分かった」

 アレナリアと別れ一階に下り、依頼を探す為に、掲示板の所に行く途中で……

「おいお前、昨日の汚ねぇ野郎だな」

 ちらりと見て、そもまま掲示板の方に行く。

「今こっち見ただろ! 無視してんじゃねぇぞ!」

 またか。

「あの何か用ですか?」

「昨日見てたぞ。お前、アイテムボックス使えるだろ」

「なんの……」

「おっと、隠さなくてたもいいさ。お前のように、弱そうな奴がアイテムボックスを使えると、荷物持ちに利用されるから、隠してたんだろ」

 ああ、もう何が言いたいかは分かるな。

「だからよ、俺達のパーティーに入れて守ってやるよ。Bランク間近の実力があるパーティーだぞ」

 やっぱりな。こいつこそアイテムボックス目当てじゃないか。
 だいたい勧誘にしても、いきなり『汚ねぇ野郎』とか言う奴の言ってることを、信じる訳がない。

「どうだ良い話だろ。優しいだろ」

「遠慮します。そのご好意だけで結構ですから」

 穏便に済ませようと、丁寧に断ってから、その場を離れる。

「待て! せっかく優しい、このおれ様が誘ってやってるんだぞ! 今のは聞き違いと思って、もう一度聞いてやる」

「ですから、結構ですから。わざわざありがとうございます」

「チッ、雑魚が! てめぇの噂は聞いてるぞ。Dランクのクズを倒して、なんでも盗賊を二、三人を倒したらしいじゃねぇか。その程度で調子に乗るな!」

「ちょ、ちょっと、ギルド内での揉めごとは困ります」

 アレナリアに言われたのが気になったのか、今朝の女性職員が止めに入ってきた。

「別にギルド内で何かやろうとは思ってねぇ。ちょっと付き合ってもらおうか」

「遠慮します」

「なんだと! なら代わりに、この女に遊んでもらおうかな」

 なんでこんな奴ばっかり、近付いてくるんだ。

「ちょっと止めてください」

「何をしてるんですか! 職員に手を出さないでください」

 あちゃー、今度はスカレッタさんも来ちゃたよ。

「なんだ、もう一人おれ様と遊びたいのか」
 
「気安く触らないでください!」

 どんどん、ややこしくなっていくな。

「分かったから二人離をしてくれ」

「そうか分かったか!」

「それで、いったいどこに行こうと言うんだ?」

「たいした所じゃねぇ。ギルドに言って、訓練場を使わせてもらうだけさ。喜べ、おれ達がきたえてやるよ」

 その言葉を待っていたのか、どこからか、三人の冒険者が集まってきた。

「ほら離してやるよ。その代わり、訓練場を使うぞ」

 男は女性達を離して、交換条件に訓練場の使用を要求した。

「何を勝手に、貴方達のような人に……」

「ギルドは冒険者に、訓練場を使わせても、構わないはずたよな!」

「寄って集って、一人を相手にするような人なんかに」

「何を言ってやがる、低ランクの冒険者を鍛えてやるだけだろ。ギルドだって、やってるはずだよな!」

「それは冒険者の方から、要望があればの話で」

「ギルドの代わりに、おれ達がこいつを鍛えてやるって言ってるんだ!」

「でも、カズさんは望んでないじゃないですか」

「そんなことないよなぁ『カズ』わかってるだろ!」

 面倒だな。
 これ以上渋ると、スカレッタさん達に、何をするか分からないからな。

「ええ、はい。訓練希望ですね。そうします」

「スカレッタさん、訓練場を使わせてもらいますので、お願いします」

「えっ、でもカズさん……」

「ほらこいつの同意もとれたぞ!」

「わ、分かりました。どうぞ……」

 悔しく申し訳なさそうに、スカレッタが冒険者達を、ギルドの裏手にある、訓練場がある建物に案内をした。

 ギルト裏にある訓練場の内部は、幅と奥行きは30m程で、高さは10mはある。
 壁全体は防音と、衝撃軽減の魔法が使われてと言う。

 スカレッタは入口で帰されて、カズと冒険者の四人は、訓練場に入って行く。


 《 カズと冒険者達が訓練場に入ってから二十数分後…… 》


「所詮あの程度の雑魚だってことさ。盗賊を倒したのだって、ただの噂に過ぎなかったってことだな」

「しかし、頑丈でしぶとい奴だったな。こっちの手が、いかれちまうと思ったぜ」

「もう気が晴れたから、どっかで飲み直そうぜ」

「そいつぁ良いや。ガハハハッ」

 カズと訓練場に入った四人の冒険者は、スッキリした顔をして、意気揚々と出てきた。

 近くに隠れてそれを確認したスカレッタ達が、訓練場に急いで入って行き、そこで見たのは……

「カ、カズさん大丈夫ですか?」
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