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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

228 気まぐれな猫メイド

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 クリスパは満面の笑みを浮かべたままギルドへと行き、見送ったカズは開いたままのゲートを通って、王都の倉庫街にある家に戻った。

「ふぁ~誰か来てたの? あれ、なんで顔赤いの?」

「な、なんでもない」

「ふ~ん。それより小腹空いたから、プリンちょうだい」

「はいはい。あ、残り3個しかないや」

「なんですって! 明日には無くなっちゃうじゃない。切らさないで作ってといてよ」

「明日って(全部自分で食べるつもりか。しかも一日2個計算で)」

 カズが【アイテムボックス】からプリンをテーブルの上に出し、それをレラが食べていると、庭から話し声が聞きた。
 すると大きな声で挨拶し、家に入ってきた。

「にゃにゃ~ん。キウイちゃんがやって来たにゃ。にゃ! レラにゃんは一人でプリンを食べてるのかにゃ」

 キウイはレラの食べるプリンとカズを見る。

「キウイも食べ…」

「良いのかにゃ! 催促したみたいで、なんか悪いにゃ」

「よく言うわね。1個だけよ。あちしのプリンが無くなっちゃうから」

「分かってるにゃ」

 カズはキウイ用に、プリンを1個出した。
 キウイがプリンを食べ始めると、次にビワが部屋に入ってきた。

「もうキウイ、一人で走って行かないでよ」

「にゃはは。ごめんにゃ」

 カズはビワの分のプリンも出す。

「ビワも座ってプリン食べるといいよ。おっと、その前に飲み物の方がいいか」

「いえ、私は…」

「遠慮しなくていいよ。キウイだけ食べさせるのはズルいでしょ」

「あの…はい。ありがとう」

「待ってカズ」

「なに? レラ」

「それ最後のプリンでしょ」

「そうだけど」

「そうだけどじゃないでしょ! あちしのプリン!」

「あの…私…いいです」

「あとで材料買って作るつもりだから、ビワは気にしないで食べていいよ。そういうことだから、分かったレラ(この欲張り妖精め)」

「そ、それなら良いけど」

 ビワはレラに申し訳なさそうにして、プリンを食べる。

「カズにゃんがそう言ってるから、ビワは気にしなくていいにゃ」

「う…うん」

 キウイの言葉で、プリンを食べるビワの表情も少し和らいだ。
 お前こそたまには遠慮したらどうだと、キウイに対してカズは思っていた。

「あ、そうだ。なぁレラ、さっき何か違和感なかった? ほら言ってたでしょ。周りのマナがどうとか」

「あちし寝てたし、それに障壁を強くしたんでしょ。分からないよ」

「それもそうか。キウイとビワは何か感じなかった? 三、四十分くらい前なんだけど」

「そうだにゃ~。あッ! レラにゃん、なにしてるにゃ」

「いーじゃないの」

 キウイがよそ見をした隙に、プリンをこっそり食べようとするレラ。

「レラにゃんはもう食べたにゃ。これはにゃちきのプリンにゃ!」

「あと少し食べたいの」

「食べたければ、カズにゃんに言えばいいにゃ」

「今あるので最後だって言ったでしょ」

「そうだったかにゃ? う~ん、プリンは最高にゃ」

「もう終わっちゃう! 一口だけでいいから!」

「ダメにゃ! レラにゃんは毎日食べれるけど、にゃちき達はたまにしか食べられないにゃ」

 カズの質問を無視して、キウイの残ってるプリンをめぐり、二人は言い争っていた。

「あの…キウイ、カズさんが聞いて」

「ハァ。あの二人は放っておけばいいよ。それとビワのプリンも分けなくていいから」

「え…あ…うん」

「それで話は戻るけど、何か感じた?」

「私は少し目眩(めまい)が……キウイは先に走って行っちゃったから、分からないの」

「今はもう大丈夫?」

「平気…です。プリン食べたから…元気出た」

「そう。良かった(なんだろう。クリスパはボーッとして、ビワは目眩か。あとはキウイだけと)」

 カズがレラとキウイに視線を向けると、プリンの最後の一口を、キウイが口に運んだところだった。
 それを見たレラが、キウイの耳を引っ張り騒いでいた。

「いつまでやってるのさ」

「だってキウイが!」

「レラは自分の分を食べたんだから文句言わないの。キウイは俺の話し聞いてた?」

「なんにゃ?」

「二人には暫くプリンはお預けだな」

「えぇー! なんでよカズ!」

「カズにゃんヒドいにゃ! にゃちきが何か悪いことしたのかにゃ?」

「レラは欲張り過ぎだし、キウイはビワを置いてきぼりにして、話しも聞かないから」

 レラとキウイは言い返せずに、しょんぼりとしていた。

「カズさん…私もキウイを…止められなかったから、だから……」

 ビワがカズを見て、二人の許しを請う。

「でもビワだって置いてき……分かった。今回はビワに免じて」

「ビワありがとうにゃ!」

 ビワに抱き付くキウイ。

「変な話し方だけど、感謝するわ」

「レラは反省なしと」

「してるしてる。反省してるわ! ありがとうビワ。その話し方とってもかわいくて、とても良いと思う」

「現金な奴だな」

「カズにゃん。もう生クリームの仕入れは行ってきたかにゃ?」

「行ってきたよ。ってやっと本題か。とりあえず最初は試食用で、お屋敷で使う分を渡すから、販売先が分かったら連絡するように、ルータさんに言っておいてよ。今回は三割ほど多くあるからって。あと報酬は現品を2ビンでと」

「分かったにゃ」

「伝えます」

「じゃあ、あの手提げ袋(アイテムポケット付与した)貸して、そっちに移すから。いつも通り冷却するソーサリーカードも、一緒に入れておくから」

「えーっと、ここに入れて……あれ? ビワが持ってるにゃ?」

「キウイが持ってくって、確かにアキレアから受け取ってたわよ」

「……しまったにゃ! お屋敷に忘れてきたにゃ」

「どうしよう。メイド長に怒られてしまうわよ」

「それはまずいにゃ! 一昨日の買い出しの時も、買い忘れで怒られたにゃ。次忘れたら罰として、一人で広間の掃除をしないといけないにゃ」

「私も…謝るわ。掃除も手伝うから」

「この前もビワに迷惑かけたにゃ。だから今回は、にゃちき一人で怒られるにゃ」

「でも…キウイが手提げ袋を忘れたの、私も気付けなかったから……私も怒られる」

「ビワは優しいにゃ。でもそんなの悪いにゃ。だから……」

 ニヤリと笑ったキウイが、カズをじっと見る。
 キウイのニヤついた顔を見たカズは、目線を反らした。

「カ~ズにゃん! にゃちき、お願いがあるにゃ」

「できれば聞きたくないなぁ」

「今日は暇かにゃ? 暇にゃよね! 一緒に来てくれるなんて、カズにゃんは優しいにゃ」

「何勝手に話を進めてるんだよ」

「カズにゃんなら、にゃちきとビワが怒られるのを不憫に思って、きっと来てくれるにゃ。それとも、ダメかにゃ?」

「……そうだね『ビワ』が怒られるのは、かわいそうだね」

「そうにゃ。ビワが怒られるのは……!? にゃちきは?」

「キウイは自業自得だから」

「そんにゃ~。ビワばかりに優しくして、ズルいにゃ!」

「何言ってるのさ。キウイはこれで何度目だよ。少なくともここに来るときに忘れたのは、今年に入って三回はあるぞ」

「そ、そう言わずに、カズにゃ~ん」

 キウイがカズにすり寄る。

「キウイ…カズさんに迷惑」

「ビワもお願いするにゃ。にゃちきの為に」

「え…あの……カズさん」

「分かったよ」

「やったにゃ! それでカズにゃん」

「何?」

「お屋敷に来る理由だけどにゃ、カズにゃんが皆に会いたいからってことにしておいてほしいにゃ」

「キウイ…それはダメよ」

「良いよビワ」

「でも……」

「カズにゃんが良いって言ってるにゃ」

「そんなこと俺が言っても、キウイが手提げ袋を忘れた事は変わらないから、結局怒られると思うよ」

「そうだったにゃあぁ!」

 キウイは頭を抱えて、うずくまった。

「それじゃあ、もう行こうか。急に行くわけだし、遅くなったら悪いから」

「あ…はい。キウイ行きましょう。……キウイ?」

 立ち上がったキウイが、今度はソファーで横になり、膝を抱えて丸くなった。

「にゃちきはもうダメにゃ。ビワが一人で戻って伝えてほしいにゃ。キウイは明るくてかわいいメイドだったと。おやすみにゃ」

「なになに、メイド辞めるのキウイ? だったら、あちしがなろうかな! 貴族が食べる料理は、豪華で美味しいんだろうなぁ」

「使用人のメイドが、同じ料理を食べれるわけないにゃ。レラにゃんはバカなのかにゃ?」

「なッ! バカとは何よ!」

「静かにしてほしいにゃ。にゃちきは寝るんだからにゃ」

「ほらキウイ行くぞ(まったく、気まぐれな猫娘だ)」

「キウイなんかほっといて、三人で行こう」

「レラも行くの?」

「たまには良いじゃないの。いつもいつも留守番で飽きたのよ」

「まぁ良いけどさ」

 ソファーで丸まっているキウイを放っておき、三人は家を出て行く。
 敷地内を出て、倉庫の影で立ち止まり待っていると、キウイが走って追い掛けてきた。

「にゃ!」

「あれ~、キウイはお屋敷に戻らないんじゃなかったの?」

「レラ、意地悪なこと言わないの。アキレアさんには、お仕置きしないように話してあげるからさ。でもあまり期待するなよ(怒られるのは確実だけど)」

「本当かにゃ?」

「それじゃあレラは、キウイかビワに抱えてもらって、人形のように動かないで。そうしないと大通りに出たら目立つから」

 四人は大通りを進み、貴族区に入る門を通っていく。
 以前に一度だけマーガレットの希望で、オリーブ・モチヅキ家にレラを連れていった事があった。
 最初はフローラに相談をしてから、モルトに通行書の手配をしてもらった。
 今ではカズの身内ということになっているので、カズが一緒なら貴族区に入ることができるようになっていた。
 門を警備する二人の衛兵も、フェアリーを物珍しそうに見ていた。

「ねぇねぇカズにゃん。本当に言ってくれるにゃ?」

「ちゃんと言ってあげるから」

「頼むにゃ」

 キウイの耳と尻尾は垂れ下がり、屋敷が近づくにつれて元気がなくなっていった。
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