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第二章後半【いざ東方へ】

2-37.蒼薔薇騎士団、完全敗北(1)

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 商工ギルドを退出した時には雨は一旦止んでいて、でも空模様は怪しいままだ。再び降り出す前にさっさと〈女神の真珠〉亭に戻った方がいいだろう。
 ということでレギーナ、ミカエラ、ヴィオレは徒歩、アルベルトはスズの背の鞍上の人である。

 そしてアルベルトの後ろに何故かクレアがちょこんと座ってその背に抱きついている。いやまあ何故かって言うまでもなさそうな気はするし、誂えた鞍は二人乗りタンデム可能な作りになっていたから全然問題ないのだが。

 ………問題ないか?ホントに?
 クレア以外の全員の顔がそう言ってないぞ?

 ちなみにレギーナは「私も乗りたい」と駄々をこねなかった。彼女だけでなくミカエラもヴィオレも。
 だって3人ともお腹周りが気になるのだ。今はまだ目に見える影響はないが、アルベルトの作る飯を食い続けたら絶対ヤバいと全員が既に理解していて、少しでも運動しなければという焦燥感に駆られていたのだった。
 これが旅の途中でなければいくらでも鍛練の時間は取れるし、そもそも勇者パーティなんだから討伐の仕事もいくらでも回ってくるし身体を動かしてエネルギーを消費する手段には事欠かないのだが、今は移動を優先しなくてはならず鍛練もままならない。
 街から街までの移動距離が短ければ鍛練の時間も作れるが、街に入ってしまえば人目があるのでそれも難しく、何よりブルナム~サライボスナ間みたいに一日かけて長距離を移動する場合にはそもそも不可能である。

 というわけで真剣な表情でスズに負けないようにズンズン歩いていく3人にアルベルトは不思議そうな顔を向けていたが、彼女たちにはそれにツッコむ余裕もない。そして文句を言う根拠も正当性も薄弱なのであった。


 ともあれ雨が再び降り出す前に一行は宿まで帰り着いて、今日はアルベルトの手料理で昼食である。
 食べたい、でも食べたくない。けど食材を無駄にしたくないとわざわざアプローズ号から持ってきたのだからそもそもアルベルトが作るしかない。そしてそれを食べるのはレギーナたちしかいないのだ。

「ちょっとあなた、作り過ぎないでよね!作り過ぎて私たちがおかわりしたいって言っても絶対渡しちゃダメだからね!」

 ということでさすがに学習したレギーナが早速アルベルトに釘を刺す。

「えっでも、美味しかったらもっと食べたくなるでしょ?」
「なるけど!なるからダメなの!」
「でっでも、美味しいものをお腹いっぱい食べられたら幸せになるでしょ?」
「なるけど!!なるからダメなの!!」

 レギーナの決意は固い。
 頑として、断固拒否の姿勢である。

「そうかぁ…。でも痛みそうな食材はデザートにしようと思ってたんだけど…」

「「「「…デザート!? 」」」」

 乙女心に刺さりすぎるワードが出てきてしまいました。

「おいちゃん今デザートて言うた?」
「ちょっと待って聞き捨てならないわね」
「デザート…食べたい…」

「い、一応念のために仕方なく聞いてあげるけど、何のデザート作るつもりなのよ?」

 問われたのでアルベルトは既に仕込み始めている手元のボウルを見せた。
 てかもう作り始めとるんかいっ。

「「「「食べる!! 」」」」

 そして見せられた乙女たちは、いともあっさりと陥落したのであった。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 アルベルトが昼食に出したのは先日食べて覚えたばかりのシーフードピッツァである。具材に自由度が利いて鮮度のいい材料が揃えられて簡単に作れてしかも美味いということで、ラグシウム滞在中に覚えたからには出てきて当然の料理だった。それもエトルリア料理なので彼女たちにも馴染みの味である。
 〈女神の真珠〉亭のコテージにはオーブンはないが、移動式のピッツァ窯が借りられたのでアルベルトはそれを借りてきている。またオーブン自体はフロントに行けば宿の厨房のものを借りられる。ついでに言うとアプローズ号には調理台の下にオーブンが備え付けられているのでピッツァも焼ける。

 なおこの料理はピッツァである。ブロイスやガリオンやアルヴァイオンなどではピザと呼ばれる方が一般的だが、本場のエトルリアやマグナ・グラエキアでは断じてピッツァである。ピザなどと呼ぼうものなら必ず訂正されるので覚えておいた方がいい。

「くっ…相変わらず料理上手ね…」
こらいかんこれはダメ。油断しとったら二枚目頼んでしまいそうやん」
「そもそもピッツァなんて、一枚で足りるわけないわ…」
「足らないよぅ…もっと欲しい…」

「足らない分はデザートでどうかな?」

 苦しみ悶えている4人の元へフロントの厨房へ行っていたアルベルトが帰ってくる。その手にある大皿を見て全員が思わず悲鳴を上げた。



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