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第二章後半【いざ東方へ】

2-38.蒼薔薇騎士団、完全敗北(2)

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 彼が持ってきたのは、そう。
 ケーキだったのだ。
 それもたっぷりの生クリームを使った、上に旬の果物であるフラーグムを並べた、堂々たるサイズ感の純白のホールケーキだ。
 作りかけのボウルの中身生クリームを見せられた時に何となく予想はしていたが、まさかここまで美味しそうなモノが出てくるとは!

「ちょっとあなた、なんてものを…!」
「おいちゃんまさか持ってきた食材て…!?」
「えっ?卵とクリームと苺だけど?」
「では、放っておいてもいつかコレがデザートで出てきたっていうの!?」
「えっ、まあ…そうだね。ていうか今までデザートのひとつも出してなかったから、ちょっと申し訳なくてさ」

 そう、今までは普通に昼食としての料理しかアルベルトは出していない。だがデザートを作れないなんて一言も言ってないのだ。
 というか考えればすぐ分かることである。[調理]と[下拵え]をともにレベル5で持っていて、デザートを作れないわけがないのだ。

「えーっと、もしかして要らなかったかな?要らないのならお礼も兼ねて宿の従業員スタッフさんたちに食べてもらうけど…」
「「「「食べるわよくさ!! 」」」」
         よう
 天下無敵の勇者パーティが一介のおっさん冒険者にした瞬間であった。


 しかもこのケーキ、切ってみてからがまた凶悪であった。一見するとなんの飾りもないただの苺のショートケーキだったのに、切り分けてみるとスポンジケーキと生クリーム+カット苺の詰まった層が交互に折り重なる重層仕立てである。
 そして食べてみて初めて分かったことだが、中のカット苺はあらかじめ砂糖水で煮込んであって、スポンジケーキの生地にはチーズが練りこめられている。それが2層×3層の5層にも及ぶ手の込んだ作りで、こんなんもう美味しくないわけがない。

「「「「美味しいけど!! 」」」」

 心なしか全員が泣いてる気がする。
 いやもちろんアルベルトは泣いてないが。

「「「「太る!! 」」」」

 蒼薔薇騎士団、ダイエット開始決定。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「くっ…食べ尽くしてしまったわ…」

 悔しそうにレギーナが唸る。

「デザートまで込みで満腹になる計算なんて、なんて憎らしい…」

 ヴィオレも白旗を上げている。

「美味しかった…また食べたい…」

 育ち盛りの食べ盛りはまだまだ満足できないようだ。
 普段は少食、のはずなのだが。

「東方の料理にエトルリア料理、このケーキに至っちゃアルヴァイオンの伝統的デザートやし。
こらぁまだまだ隠し玉のあるごたるばい気がする

 底知れぬ実力にミカエラが戦慄する。

「まさか…まだこれからも色々出てくるっていうの!?」
「だってこの分やとイヴェリアスやらブロイスやらの料理まで知っとってもおかしくなかろないでしょ?」
「それは…確かに…」
「そのうち出てくると思っておいた方がいいわね…」

 実際、彼はそれらの国の料理も知っているし作れる。まだこの旅では作ってないだけなので、ほぼ確実に出てくるだろう。
 ちなみにイヴェリアス王国は西方十王国のひとつ、竜頭半島の過半を占める海洋国家で、同じ西方十王国のアルヴァイオン大公国と並ぶ精強な海軍戦力を誇る国である。北海と南海のふたつの外海に面しており、海の幸の伝統料理が多い。
 ブロイス帝国は北方にある軍事大国で質実剛健かつ勤勉な国民性で知られる。好まれる料理は肉料理がメインで、合理的かつしっかりと加工調理されたものが好まれる傾向にある。ただそれはそれとしてブロイス国民は酒好きが多く、黒麦の変種である金麦を原料にした発酵酒ビールを大量に飲むことでも知られている。

「楽しみ…」
「楽しんどる場合やなかろうもんて!」

「いやいや、レパートリー自体はそんなに多くはないよ?」

 などとは供述しているが、もちろん誰ひとりとして信じない。まあ冷静になって考えればピッツァのレパートリーが無かった時点で分かりそうなものではあるのだが。
 実際問題、アルベルトは各国料理を一通り覚えてはいる。種類をたくさん覚えていないだけで、あとは覚えた料理を中心にアレンジを加えてバリエーションを増やしているだけなのだった。

「とっとにかく!チェックアウトして宿替えよ!みんな荷物をまとめなさい!」

 これ以上犯人と料理の話をしても食べたくなるだけだ。そうと気付いて被害者Rことレギーナが振り切るように強引に立ち上がる。食後の休憩など挟むつもりはなさそうだ。
 いや被害者っていうか、この状況を作り出したのは雇い主の貴女なんですがね。

 被害者Rに続いて、被害者Mも被害者Vも被害者Cも立ち上がってそそくさと寝室に戻ってしまい、それを苦笑しつつ見送ったアルベルトはチェックアウト手続きのためにフロントへと歩いて行ったのだった。



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