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公女さまが殿下に婚約破棄された
無事確保
しおりを挟む結局、公女さまは本当に国境近くの森に捨てられ放置された。時には魔獣も出る、近隣住民だってなかなか近寄らない危険な森に、それも会場から連れ出されたままのドレス姿で。彼女は公爵家に連絡を入れることも、会場の控室で待機していた公爵家の侍女や護衛たちと合流することさえも許されなかったそうだ。
そんなんだから後追いさせたうちの使用人も人を集める時間なんて取れなくて、自分ひとりで後を追わざるを得なかったそうだ。男爵家の馬車を使えばよかったのに、人を集められなかったものだから御者を公爵家の使者に立たせるしかなくて、自分は走って追いかけたんだと。
いやいやどんだけ健脚なんだお前。そりゃ学園が休みの日にはソロ冒険者として森やダンジョンに潜ってるのは知ってるし、暑季の休暇には期間限定でパーティ組んで遠征に出てるのも知ってるけどさあ、それでも強すぎだろうがよ。
………え?魔術で身体機能を[強化]したから大丈夫?あと[遮界]で姿隠しながら追いかけたからバッチリバレてないって?あー、まあ、そういうこともできんのか。それならまあ、いいけど。
で、今俺の目の前には公女さまが座ってらっしゃる。場所は男爵家の応接室、テーブルを挟んだ彼女の向かいには俺と親父が座ってて、他には誰もいない。
使用人のアイツは今風呂に入ってる。[強化]の効果時間が切れて全身筋肉痛になってるから、湯に入れて強制的にほぐしてる最中だ。ひとりで入れないから同僚たちがよってたかって世話してるはず。
パーティーは当然のように中座してきた。そもそも在校生が出席するのは卒業する先輩たちに顔繋いで、自分の卒業後に拾ってもらう目的が強いからなあ。でも会場になってた王城から男爵家の王都公邸まで歩いて帰ってくるのは結構堪えたんだけど。俺も身体鍛えないとダメかねえ?
公女さまはうちの使用人が合流して保護したあと、“通信鏡”で連絡して男爵家から迎えを寄越させて無事に我が家へお越し頂いた。同時に公爵家にも無事保護したとご注進に向かわせていて、公爵閣下にも我が家へ来ていただける手はずになっている。
「この度は危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございます」
公女さまはそう言って深々と頭を下げられた。普段は男爵家に頭なんて下げないだろうに、そんなプライドの高さなんて微塵も感じさせない。だけどやっぱり心労がキツいんだろう、ちょっとため息をついて、顔色もよろしくない。
「今夜は色々あり過ぎてお疲れでしょうから、まずは軽食でもお召し上がり下さい。じきにお父上も来られますから、詳しい話はその時にでも致しましょう」
「助けて頂いた上にお心遣いまで、本当にありがたく思います。ヨロズヤ男爵家の皆様には、本当になんと御礼をしてよいやら」
うわ知ってたのか男爵家のこと。
「ふふ、もちろん存じておりますとも。我が国の貴族家は全て頭に入っておりますから」
公女さまはそう言って少しだけ微笑った。笑顔が出たってことは安心してるってことだし、少なくとも敵ではないと分かっておいでなんだろう。
本当に聡明な方だなあ。こんな人をああも悪しざまに罵って追放するとか、ホント馬鹿だなああの王太子。
公女さまには食事室で軽く腹拵えをしていただいて、お疲れが出たのか眠気を催されたため別室でお休みいただいた。彼女は男爵家の粗末で不味い食事にも茶にも文句ひとつ仰らなかった。そんな人が、嫉妬から男爵家の娘をイジメてたなんて、やっぱり冤罪にしか思えない。
ちょうど公女さまがお休みになったくらいのタイミングで公爵閣下がお見えになり、うちの親父と応接室で夜更けまで話し込んでいらした。その辺りのことはもう当主同士のやり取りだから、俺は同席しなかった。聞いてても何もできんしな。
どんな話し合いがされたのかは分からんけど、公女さまは一晩うちで過ごされて、早朝のまだ夜も明けきらないうちから男爵領の我らが本邸へ出発された。王都にいちゃまずいだろうって判断だ。
俺はまだ学生だし、何食わぬ顔で王都に残った。公爵閣下も表向きは多少の抗議だけで引き下がり、その後は大人しくしているらしい。まあ閣下が動くのは陛下がお戻りになってからだろう。
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