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【序】
002.騎士アンドレ・ブザンソン(2)
しおりを挟む16歳になって無事に卒業できたアンドレは、かつてスカウトされた通りに騎士団入隊を志願した。だが配属された先は、同じ地方騎士団でも故郷を守る東方騎士団ではなく、遠く離れた西方騎士団であった。
こうして彼は、ひとり故郷を離れて西方騎士団の本拠であるブレイズ地域圏、その圏都ロアゾンに旅立つことになった。
ロアゾンは一言で言えば大都会であった。人口およそ15万、アンドレの生まれ育った東ブルグント地域圏のアブロリカの街が人口1万6千余りだから、ほぼ10倍である。
とはいえ3年間通った国立学園のある首都ルテティアと較べればささやかなものだったが、学園の寮で暮らしていたアンドレは煌びやかな首都ではほとんど出歩かなかったため、ロアゾンの先進的な街並みには圧倒されるばかりだった。
それでも何とか道を訊ねて西方騎士団本部にたどり着き、彼は無事に辞令を受け取ることができた。任地はといえば、ブルグント地域圏の北にあるノルマンド地域圏の片田舎、セーの街であった。
セーは人口およそ5千の小さな街であり、ロアゾンとルテティアのちょうど中間あたりに位置する。海からは離れているが平地しかないこの街は故郷アブロリカとは似ても似つかなかったが、小ぢんまりとした街の素朴な佇まいはアンドレを大いに安心させて、彼はすっかりこの街が気に入ってしまった。
こうして、彼は地方騎士団の騎士としての第一歩を踏み出した。
アンドレは真面目に実直に職務に励んだ。会う人会う人皆に驚かれ怯えられるのはいつもの事だったからそれで腐ることもなかったし、穏やかに丁寧な応対を心掛けていれば同僚も街の人も少しずつ慣れていってくれた。真面目で心優しいアンドレがセーの街に溶け込むのもそう難しいことではなく、2年もすればすっかり馴染んで“名物騎士”として定着した。
相変わらず初対面では百発百中で怯えられる彼だったが、それも笑いのネタに変わるほどだった。
アンドレの体格は騎士団に入隊してもモリモリ成長を続けた。そして20歳になる頃には並ぶもののないほどの巨体に鋼のような筋肉を備えた、巌のような大男になっていた。
なんと身長が111.5デジ。
そして体重が236リブラ。
人間の成人男性の平均が90デジ、80リブラほどのこの西方世界にあって、間違いなく一、二を争う巨躯であろう。
殺しても死ななそうだ、巨人族とのハーフではないか、あの男なら灰熊でも格闘で絞め殺せそうだ、いやもう何頭か仕留めたと聞いているぞ。
様々に噂されたが、反応するのも面倒なので彼は否定も肯定もしなかった。
だって下手に反応したら、怯えられ怖れられまた噂になるだけだったから。彼に怯えないのは故郷の家族や友人たちを除けば、付き合いの長い街の人たちや小隊の仲間、上司など、ごく僅かに過ぎなかった。
入隊4年目にして、アンドレは小隊長に昇進した。街は平和でこれといった事件もなかったが、近隣の森や湖沼にたまに出る獣や魔物の討伐で地道に実績を挙げたことが認められたのだ。
西方騎士団ノルマンド分団セー支部所属、騎士アンドレ。小隊長に昇進した時、彼は20歳になっていた。
そんなアンドレも一応は子爵家の令息である。ほとんど平民と変わらぬ暮らしではあったが、貴族に生まれた者の務めとして他家のご令嬢と婚約を結んでいたのだ。
婚約者の名はロラ。ブザンソン子爵家に計吏として仕える男爵家のひとり娘で、アンドレたち兄弟にとっては幼馴染と言ってよい娘だ。
そのロラが亡くなったと故郷から報せが届いたのが、アンドレが小隊長に昇進したまさにその日のことだった。
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