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【レティシア5歳】
020.国家の中枢が現れた!
しおりを挟む翌日。
公爵家での準備は滞りなく進められた。朝から簡単な朝食のあと湯浴みさせられ騎士礼装を着込まされ、馬車に乗せられてアンドレは王宮へと連れ去られた。初めての王宮に感動する間もなく与えられた部屋へと連れ込まれ、そこにはすでにスタイリストが何人も待機していて、頭髪から礼服の着こなしから身につけるアクセサリーから全部整えられた。
顔に薄っすらと化粧まで施されたのは人生で初めてだ。
そうしてひと通り準備が終わると、椅子に座らされ放置された。周りでは使用人たちが貴族と思しき年配の男性やご夫人の指示で忙しなく動き回っているが、彼らにやることがあってもアンドレにはないということなのだろう。
ドアがノックされた。ただそれだけなのに、使用人たちの間にはっきり分かるほど緊張が走る。
入室を求める声がして、使用人を指揮していた貴族らしい男性が許可を出して扉を開けさせた。
「やあやあ、君かね命の恩人というのわ゛っ!?」
なんだかどこかで見たことのあるような反応をして、顔を引きつらせてノルマンド公や侍従たちに仰け反った身体を支えられているのは──
「へ、陛下!?」
アンドレは驚きのあまり思わず立ち上がる。
そう、入ってきたのは我らが主君、ガリオン王国第41代国王、アンリ41世その人だ。
「ああ、構わないよそのままで」
慌てて拝跪しようとするアンドレを、ノルマンド公オリヴィエが短く制する。儀式前に拝跪してはまた服装を整え直さなくてはならないからだろう。
「むしろ今大きな動きをしないでくれ。陛下が余計怖がっちゃうじゃないか」
いや全然違った。「陛下が余計怖がる」って…。だがそう言われると言い返せない。我が身の魁偉さが恨めしくなるアンドレである。
だがそれと王に対する不敬とはまた別の話だ。
「あ、いや…しかし……」
「ああ、よいよい。余が先触れもなしに来たのだから、不敬は咎めんよ」
「ていうか陛下。あれほど心の準備をしておくように言ったではないですか」
「だってオリーヴ、まさかここまで怖いなんて思わないじゃないか」
「公爵家で驚かなかったのは執事長だけだ、って言いましたよね?それ以外は使用人も護衛も全員が怯えまくって、何人かは寝込んだままだってのも先程言いましたよね?」
いやなにそれ知らないんですが。
寝込んでる!?マジで!?
「ていうか今さら愛称呼びはやめて下さい兄上。もう僕4人の子持ちなんですが?」
「いいじゃんたまには。プライベートでくらいさあ」
「だから人前だっつってんでしょうがバカ兄!」
呆然とするアンドレの前で繰り広げられる兄弟漫才。ちなみにオリヴィエは先王ルイ40世の第四王子、アンリはその6歳歳上の第三王子だ。ルイ40世の第一王子は生まれてすぐ病死し、王太子となるはずだった第二王子はブロイス帝国との戦争で戦死した。
王宮の使用人たちはアンリとオリヴィエのやり取りに慣れているのか、素知らぬ顔で脇に控えて頭を下げている。だが控室の使用人たちを仕切っていた老貴族が大仰に咳払いして、それで国王も公爵もハッと我に返った。
「ご兄弟仲がおよろしいのは我が国としても大変喜ばしいのですがね?」
「ああ、いや、済まんなモーリス」
「宰相閣下!?」
なんと老貴族は筆頭宰相モーリス・ド・フルヴィエール、フルヴィエール侯爵家のご当主でガリオン第二の都市ルグドナムを領有する大貴族だった。道理で威厳たっぷりのはずだ。
「それで、どうかねアウレリア夫人」
「ええ、つつがなく終えておりますわよ陛下」
「アウレリア侯爵夫人!?」
エマニュエル・ド・アウレリア侯爵夫人は王妃アレクサンドリーヌの筆頭侍女である。ついでに彼女の嫁いだアウレリア侯爵家は、ガリオン王国成立前に首都ルテティアのすぐ南に存在していたアウレリアーヌス王国の旧王家の血筋だ。
会ったこともない高位貴族たちが自分の叙爵式のために働いていたと知って、さすがにアンドレも青褪めた。
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