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気に入ってもらえて良かったわ

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「ということで、全員さっさと荷物をまとめて出ていくように。この邸は伯爵家の財産で、伯爵家の人間はこの場にわたくしだけ。これは決定であり、伯爵としての命令です。直ちに従いなさい」
「まっ、待ってくれ」

「………何かしら?元婚約者さま?」
「いや言い方酷いな!?」
「だって事実でしょう?
それで?まさか今さら許してもらおうなんて思ってないわよね?」
「くっ………!」
「分かりやすいくらい浅ましいですわね、貴方。まあ貴方も侯爵家の三男で、我が家に婿ですものね?」
「わっ、分かってるなら助けてくれ!」
「何を今さら。くせに、なぜわたくしが助けなければならないのかしら?」
「そ、そんなこと言わずに!婚約者だっただろう!?」
「婚約者によ。それを蹴ったのは、あ・な・た・よ?」
「そ、そんな………!」

「ああ、それとお父様、お義母様。これをあげるわ」
「「な、なんだなによこれ!? 」」
「あなた方が今まで散財した財産の一覧よ。耳揃えて返すなら、買った分の持ち出しは許可してあげるわ」

 それは今までこの人たちが買った衣装やアクセサリー、絵画や宝飾品の購入目録。全部調べてありますから、ゆっくりご確認くださいな。

「これ、全部貴女に払わせたやつじゃない!」
「そうよ?ものだから、きっちり払ってもらいますわ」
「は、払えるわけないじゃないこんなの!」
「そう?じゃあ全部置いていくことね。
それから、これもあげるわ」

 そう言って、消耗品の目録も手渡します。こちらはお茶やお菓子、お酒や外食費などでだから、全額取り立てますわよ?

「無茶言わないで!払えるわけないじゃない!」
「無茶なものですか。伯爵家の財産を食い潰しておいて逃れようと思う方が無茶でしょう?それでも払えないというのなら、司法に告訴して裁判するだけよ?」
「「「ヒィッ!? 」」」

「くっ、こうなれば………!」
「ああ、わたくしを力づくでどうにかしようとしても無駄よ?」

 わたくしはチラリと窓の外を確認します。

「だってもう、衛兵たちがから」
「「「「なっ、なんだってですってぇ───!!?? 」」」」

 それはそうでしょう?使用人も含めて多人数をひとりで相手しようとするのだもの。保険は当然かけてあるわよ?

 と、その時。扉をノックする音が響きます。

「レベッカ、私だ。開けなさい」
「はいお祖父様、ただ今」

「「「「ゲェッ!? 」」」」

 わたくしが開けた扉から入って来られたのはお祖父様。すっかり髪も白くおなりになってしまっているけれど、若かりし頃に騎士として名を馳せた名残か、今でも逞しいお身体を保ってらっしゃる、若々しいお祖父様。唯一最初からずっとわたくしの味方でいてくれた、頼もしい先々代伯爵さま。
 衛兵と一緒に、そのお祖父様もお呼びしていたのよね。

「そろそろ頃合いかと来てみたが──いやだいぶ臭いな!?さてはレベッカ、お前ここでな!?」

 まあ匂いと、わたくしが付けたままの口帯マスク防護眼鏡ゴーグルを見れば一目瞭然ですわね。
 それにしてもお祖父様、くさやをご存知だったのね。

「まあだいたい終わりましたわ。あとは使用人たちの解雇くらいですけれど──くさや、食べます?お祖父様?」
「いや私はアレを食べるときは東方の米酒と決めておるのでな」
「まあ残念。さすがにそれは買ってませんわ」


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 結局、お父様とは、わたくしからの最後のプレゼントであるを両手につけて邸から出ていきました。わざわざ両手に嵌めるだなんて、気に入ってもらえたようで良かったわ。
 あとはまあ、冷たくて不潔な独房を気に入ってもらえるといいのだけれど。

 あの人たちが抱えた我が家への借金は、鉱山かどこかで強制労働しながら少しずつ返してくれることでしょう。別にお金には困っておりませんから、取り立ても急がないであげましょうね。

「それでだなレベッカ。次の婚約者なんだが──」
「あっ、結構です」
「なに?」

 訝しげな顔になるお祖父様。まさか断られるとは思っていなかったのでしょう。

「だってお祖父様が縁談を整えたお父様アレだったでしょう?一応は子爵家の出とはいえ伯爵家わがやの財産を食いつぶすことしか頭になかった能無しだったし、叔母様に聞いたのだけれどその前の婚約者はお母様から叔母様にだったそうね?
つまり、お祖父様にからお断りします。自分で良い人を見つけますわ」

 そう、お祖父様の唯一の欠点とも言えるのがこれ。婿なのよねえ。

「むう……」

 ご自覚がおありなのか、小さく唸ってしょげてしまわれました。何だか可哀想だけれど、わたくしも自分の人生がかかってますからね。ごめんあそばせ。



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