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第一話 も、ももももげ
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東方にある大国の現皇帝には、正室と複数の側室がいて皇子は何人も生まれたが、望む声が大きかったにもかかわらず姫は一人も生まれなかった。
原因を突き止めよ、と命じられた歴史家たちは、埋もれかけていた古く分厚い史料を紐解いて、はるか昔、皇室に同じ現象が起こっていたことをようやく突き止めた。
歴史家たちは皇帝に奏上する。姫はいずれ時が満ちれば、誕生するだろうと。
奏上の内容に皇室の皆は驚いたが、姫が生まれるまでに、そして生まれてから出来る限りのことをしようと、何度も話し合いながら姫の誕生を待ちわびる。
奏上がおこなわれた日から時は流れ、とうとう正室が姫を産んだ。一人目の子は皇太子となっており、年の離れた二人目の子である。
皇室のたった一人の姫を、それはもう皆が目に入れても痛くないほどに可愛がった。
姫には乳母がつきっきりである。
決して誇張ではなく常に寄り添い、姫が一人になることは決してなかった。
乳母だけでなく、お付きの護衛や侍女、皇宮世話係、数多くいる兄たちや、父である皇帝、母である皇后からの大きな愛情に包まれて、姫はすくすくと成長した。
「さすがに……その…っ! 恥ずかしいのでございますっ!これだけは譲れませんの! 兄さまたちと一緒にしようとしたら、みながびっくりして止めますしっ!」
顔を真っ赤にした姫が、珍しく大きな声を上げていた。
ニカっと笑うと乳歯が抜けているのが分かるお年頃である。周囲が男の子ばかりだったため、少々やんちゃに育った気がしなくもない。おしとやかに育つにはこれからの教育次第だろう。
姫の世話係たちは、(珍しいこともあるものだ)と仕事の手を止めて耳をすませた。皆、姫の言ったことが気になってしょうがない。
(一緒にしようとした? 何を?)
「兄さまたちにはついてるものが、わたくしにはついてないのです! ふりょうひん、というやつではありませんの!? も、ももも、もげっ、ももももげもげっ………もげちゃっ、てて………見られてしまうのは恥ずかしいのですっ。だから一人でしたいのですっ!」
(…あ~、それ男女の違いってやつ)
乳母はこの答にどう反応するのだろう? 皆が予想した通りの受け答えが返って来る。
「男女で差異があるのは当然のことで、姫さまは不良品などではありませんよ。もげてもいません。(むしろそんな醜悪なモノを見せた奴らのほうが不良品……というよりも欠陥品……今も息をしていると思うだけでこの世から消してしまいたい……)ただ、一人にするなどもってのほか。湯あみは平気なのにどうしてです?」
「わたくしはふりょうひん、とかではないのね? (そして、兄さまたちは消しちゃわないでね?)」
大きく息を吐いて姫はもげてないことが分かってほっとした。だけどね、と続ける。
「湯あみはよいのです。皆がしてくれる着替えと同じですし。……けれど御不浄は……御不浄だけはイヤでございます……っ」
それを聞いた世話係たちは『さすがに御不浄はそうだよねえ』と、姫に大変同情的だった。
(姫さま可愛い──我儘を言う姫さまは大変可愛らしい──)
心配する皆をよそに、一人だけ乳母は頬を紅潮させている。
「ようやく自我に目覚められたのですね……ご褒美として、御不浄だけは一人で入れるように配慮致しましょう」
「ふええ……」
姫は希望が叶ったけれど、ご褒美として、というのはどういうことだろうと思った。
原因を突き止めよ、と命じられた歴史家たちは、埋もれかけていた古く分厚い史料を紐解いて、はるか昔、皇室に同じ現象が起こっていたことをようやく突き止めた。
歴史家たちは皇帝に奏上する。姫はいずれ時が満ちれば、誕生するだろうと。
奏上の内容に皇室の皆は驚いたが、姫が生まれるまでに、そして生まれてから出来る限りのことをしようと、何度も話し合いながら姫の誕生を待ちわびる。
奏上がおこなわれた日から時は流れ、とうとう正室が姫を産んだ。一人目の子は皇太子となっており、年の離れた二人目の子である。
皇室のたった一人の姫を、それはもう皆が目に入れても痛くないほどに可愛がった。
姫には乳母がつきっきりである。
決して誇張ではなく常に寄り添い、姫が一人になることは決してなかった。
乳母だけでなく、お付きの護衛や侍女、皇宮世話係、数多くいる兄たちや、父である皇帝、母である皇后からの大きな愛情に包まれて、姫はすくすくと成長した。
「さすがに……その…っ! 恥ずかしいのでございますっ!これだけは譲れませんの! 兄さまたちと一緒にしようとしたら、みながびっくりして止めますしっ!」
顔を真っ赤にした姫が、珍しく大きな声を上げていた。
ニカっと笑うと乳歯が抜けているのが分かるお年頃である。周囲が男の子ばかりだったため、少々やんちゃに育った気がしなくもない。おしとやかに育つにはこれからの教育次第だろう。
姫の世話係たちは、(珍しいこともあるものだ)と仕事の手を止めて耳をすませた。皆、姫の言ったことが気になってしょうがない。
(一緒にしようとした? 何を?)
「兄さまたちにはついてるものが、わたくしにはついてないのです! ふりょうひん、というやつではありませんの!? も、ももも、もげっ、ももももげもげっ………もげちゃっ、てて………見られてしまうのは恥ずかしいのですっ。だから一人でしたいのですっ!」
(…あ~、それ男女の違いってやつ)
乳母はこの答にどう反応するのだろう? 皆が予想した通りの受け答えが返って来る。
「男女で差異があるのは当然のことで、姫さまは不良品などではありませんよ。もげてもいません。(むしろそんな醜悪なモノを見せた奴らのほうが不良品……というよりも欠陥品……今も息をしていると思うだけでこの世から消してしまいたい……)ただ、一人にするなどもってのほか。湯あみは平気なのにどうしてです?」
「わたくしはふりょうひん、とかではないのね? (そして、兄さまたちは消しちゃわないでね?)」
大きく息を吐いて姫はもげてないことが分かってほっとした。だけどね、と続ける。
「湯あみはよいのです。皆がしてくれる着替えと同じですし。……けれど御不浄は……御不浄だけはイヤでございます……っ」
それを聞いた世話係たちは『さすがに御不浄はそうだよねえ』と、姫に大変同情的だった。
(姫さま可愛い──我儘を言う姫さまは大変可愛らしい──)
心配する皆をよそに、一人だけ乳母は頬を紅潮させている。
「ようやく自我に目覚められたのですね……ご褒美として、御不浄だけは一人で入れるように配慮致しましょう」
「ふええ……」
姫は希望が叶ったけれど、ご褒美として、というのはどういうことだろうと思った。
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