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思い出した記憶①
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去って行くダンテの背中を見送って、ため息を吐く。
「……結局、お前も全部丸投げかーい。どいつもこいつも八歳のガキに、重い期待押しつけ過ぎだろ」
まあ、自分でも精神年齢が10歳くらい上な、魔法も剣術もめちゃくちゃ優れた、超天才児な自覚はあるが。それでもどれほど頑張ったところで、そう簡単に戦争を回避できる策が思いつけるとも思えない。
大の大人でも無理なこと、ガキに押し付けんなや。こっちは遊びたいのも我慢して、日々涙を呑んで学問やら剣術の訓練やらに明け暮れてんだぞ? 小学生の年齢でだぞ? ああん?
「……ん? ショーガクセーってなんだ?」
さっきの謎の声といい、時々こういうことがある。まあ、魔力が高い子どもは、時に神だか精霊だかの声が聞こえることもあるらしいから、多分そういう現象の何かだろう。にしては少女の声は随分俗物的なものだった気もするが、あまり深く考えたら負けだ。そんなことに貴重な脳内メモリはさけない。
「前からずっと魔法の師匠からは身体強化を何とかする魔法陣を考えろって言われてるうえに、最近は剣の師匠まで獣人に有用な戦術組み立てろとか言い出して、フル回転で脳みそ使ってんのに、さらに戦争回避のことまで考えるとか完全にキャパオーバーだわ……あー、もう何も考えたくねぇ。そうだ。今は来月生まれる兄弟のことを考えよう。弟かなー、妹かなー」
八歳には荷が重すぎる課題の数々に、ついつい脳が現実逃避をはじめる。
現実が過酷過ぎて、赤ちゃんという癒しが欲しい。切実に。
俺が何かあった時を考えれば次に生まれるのは弟の方がいいのだろうが、個人的には妹が欲しい。母上似の、穏やかでかわいい妹に癒されたい。ふわふわな笑顔とお菓子みたいに甘い声で「兄さま」って、呼ばれたい。んで、それをでろっでろに甘やかしたい。……いいよな。かわいい妹。男のロマンだ。
『――あー! 何で俺の妹はこんなんなんだ⁉』
不意に脳内に響いた声に、ぎょっとする。
先ほどまでの少女の声ではない。少し低いけど……なんか俺の声に似ている気がするのは、気のせいか?
『えー。このうえなくかわいい妹でしょ。こーんなに、兄を慕っている妹、二次元じゃないかぎりなかなかいないよ?』
『慕ってくれることは純粋にうれしいが。かわいい妹は、兄に近親相姦鬼畜エロありの自作BL小説を添削させたりしねぇ』
『家族ばれが怖くて暗黒腐女子がやってられるかー』
『ばれたんじゃなくて、ばらしたんだろうが、お前は! 俺はお前がこんな嗜好があるなんて知りたくなかったわ』
頭の中に鳴り響く会話。どこからか流れこんでくる多量の情報に、思わず頭を抱えて、その場にしゃがみこむ。
『…くっそ、知らなきゃ、昔の通り純粋にかわいいかわいいできてたのに……俺の天使を返せ。堕天使め』
『何だかんだ言って、私のこと大好きなお兄が好きよ』
眼鏡をかけた十五歳くらいの少女が、記憶の中で笑う。
8年間の人生は絶対に存在しないはずの、この記憶は……。
「……やっべ。これあいつが言ってた悪役転生って奴? にしてもあいつが書いた小説にだけは転生したくなかったわ……」
だって最愛の妹だったあいつは、近親相姦や鬼畜凌辱物が大好きな、暗黒腐女子だったから。
思い出した記憶はごくごく限定的で。他の家族のことはもちろん、前世の俺がどう生きてどう死んだかも思い出せない。何なら、俺とあいつの名前さえも。
『お兄―。小説の校正のアルバイトしたことあるんでしょ? 自作小説を賞に応募したいから、添削してよ。今度の休みにお昼おごるから』
『労力のわりに、報酬が安いな。本一冊分添削すんの、結構時間かかんだぞ』
『だめ?』
『……まあ他でもないかわいい妹の頼みだ。引き受けてやるよ』
『ありがとうー! やっぱりお兄大好きー』
『ったく、相変わらず調子いい奴だ。……しかしお前が小説家志望だとは知らなかったな。ジャンル何?』
『BL』
『…………は?』
『だから、BLだって。ちなみに今回は弟×兄の監禁レイプからはじまる洗脳物です☆』
『…………………は?』
思い出せるは、前世の俺が、妹が書いたBL小説の校正を頼まれてやってやってたということ。
『な、なんつーもの読ませるんだ、お前は! こんなエロ小説よく実の兄に読ませる気になったな!』
『はい、お兄の赤面顔いただきましたー。照れるイケメン、大変おいしいでーす。お兄ってイケメンけどリバ感あるってか、受けに振られて傷心しているところをスーパー攻め様にぱっくり食べられる元当て馬って感じだよね』
『頼むから日本語で話せ』
かわいい妹の中身が、残念過ぎる変態だったことだ。
「……結局、お前も全部丸投げかーい。どいつもこいつも八歳のガキに、重い期待押しつけ過ぎだろ」
まあ、自分でも精神年齢が10歳くらい上な、魔法も剣術もめちゃくちゃ優れた、超天才児な自覚はあるが。それでもどれほど頑張ったところで、そう簡単に戦争を回避できる策が思いつけるとも思えない。
大の大人でも無理なこと、ガキに押し付けんなや。こっちは遊びたいのも我慢して、日々涙を呑んで学問やら剣術の訓練やらに明け暮れてんだぞ? 小学生の年齢でだぞ? ああん?
「……ん? ショーガクセーってなんだ?」
さっきの謎の声といい、時々こういうことがある。まあ、魔力が高い子どもは、時に神だか精霊だかの声が聞こえることもあるらしいから、多分そういう現象の何かだろう。にしては少女の声は随分俗物的なものだった気もするが、あまり深く考えたら負けだ。そんなことに貴重な脳内メモリはさけない。
「前からずっと魔法の師匠からは身体強化を何とかする魔法陣を考えろって言われてるうえに、最近は剣の師匠まで獣人に有用な戦術組み立てろとか言い出して、フル回転で脳みそ使ってんのに、さらに戦争回避のことまで考えるとか完全にキャパオーバーだわ……あー、もう何も考えたくねぇ。そうだ。今は来月生まれる兄弟のことを考えよう。弟かなー、妹かなー」
八歳には荷が重すぎる課題の数々に、ついつい脳が現実逃避をはじめる。
現実が過酷過ぎて、赤ちゃんという癒しが欲しい。切実に。
俺が何かあった時を考えれば次に生まれるのは弟の方がいいのだろうが、個人的には妹が欲しい。母上似の、穏やかでかわいい妹に癒されたい。ふわふわな笑顔とお菓子みたいに甘い声で「兄さま」って、呼ばれたい。んで、それをでろっでろに甘やかしたい。……いいよな。かわいい妹。男のロマンだ。
『――あー! 何で俺の妹はこんなんなんだ⁉』
不意に脳内に響いた声に、ぎょっとする。
先ほどまでの少女の声ではない。少し低いけど……なんか俺の声に似ている気がするのは、気のせいか?
『えー。このうえなくかわいい妹でしょ。こーんなに、兄を慕っている妹、二次元じゃないかぎりなかなかいないよ?』
『慕ってくれることは純粋にうれしいが。かわいい妹は、兄に近親相姦鬼畜エロありの自作BL小説を添削させたりしねぇ』
『家族ばれが怖くて暗黒腐女子がやってられるかー』
『ばれたんじゃなくて、ばらしたんだろうが、お前は! 俺はお前がこんな嗜好があるなんて知りたくなかったわ』
頭の中に鳴り響く会話。どこからか流れこんでくる多量の情報に、思わず頭を抱えて、その場にしゃがみこむ。
『…くっそ、知らなきゃ、昔の通り純粋にかわいいかわいいできてたのに……俺の天使を返せ。堕天使め』
『何だかんだ言って、私のこと大好きなお兄が好きよ』
眼鏡をかけた十五歳くらいの少女が、記憶の中で笑う。
8年間の人生は絶対に存在しないはずの、この記憶は……。
「……やっべ。これあいつが言ってた悪役転生って奴? にしてもあいつが書いた小説にだけは転生したくなかったわ……」
だって最愛の妹だったあいつは、近親相姦や鬼畜凌辱物が大好きな、暗黒腐女子だったから。
思い出した記憶はごくごく限定的で。他の家族のことはもちろん、前世の俺がどう生きてどう死んだかも思い出せない。何なら、俺とあいつの名前さえも。
『お兄―。小説の校正のアルバイトしたことあるんでしょ? 自作小説を賞に応募したいから、添削してよ。今度の休みにお昼おごるから』
『労力のわりに、報酬が安いな。本一冊分添削すんの、結構時間かかんだぞ』
『だめ?』
『……まあ他でもないかわいい妹の頼みだ。引き受けてやるよ』
『ありがとうー! やっぱりお兄大好きー』
『ったく、相変わらず調子いい奴だ。……しかしお前が小説家志望だとは知らなかったな。ジャンル何?』
『BL』
『…………は?』
『だから、BLだって。ちなみに今回は弟×兄の監禁レイプからはじまる洗脳物です☆』
『…………………は?』
思い出せるは、前世の俺が、妹が書いたBL小説の校正を頼まれてやってやってたということ。
『な、なんつーもの読ませるんだ、お前は! こんなエロ小説よく実の兄に読ませる気になったな!』
『はい、お兄の赤面顔いただきましたー。照れるイケメン、大変おいしいでーす。お兄ってイケメンけどリバ感あるってか、受けに振られて傷心しているところをスーパー攻め様にぱっくり食べられる元当て馬って感じだよね』
『頼むから日本語で話せ』
かわいい妹の中身が、残念過ぎる変態だったことだ。
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