俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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獣人国セネーバ②

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「種族も性別も問わず孕ませられると言っても、獣人には知性も理性もあるのでしょう? それが原因で人に害を加えるわけではないでしょうに……」

「まあ、国交があった頃は相性が良い人間を見つけて、さらって無理やり妻にした事件もあったらしいので、一概に害を加えないとは言いきれませんが」

 言いきれないのかよ。それじゃあ、擁護しようがねぇわ。人間側の被害者意識が強すぎるから何とかしてそのあたりの意識の改善を……って方向にしたかったのに。

『倫理が違う他種族による誘拐婚もロマン……誘拐・強姦・孕ませから芽生える愛……萌』

 そして、脳内の謎の声も黙っておけよ。さっきから何なんだよ。お前は。

「てっきり私は……隣国との貧富の差が、獣人への差別心を産んでいると思っていたのですが……」

「それも否定はできませんね。かつて肥沃な隣国の土地は我が国の所有地でしたが、半世紀前の戦争で今の痩せた土地に追いやられました。土魔法の使い手を駆使して土壌を改良し、今まで騙し騙し作物を生産してきましたが、ご存じの通り、現在我が国では土魔法を使える魔術師が減少しています。年々農作物の生産量は落ち、民の食卓も貧しくなってきている。当然不満は、かつて自分たちから豊かな土地を奪った獣人に向けられるでしょう」

「しかし、どれほど獣人を忌避したところで、今の人間の力じゃ獣人には敵わないでしょう」

「その為に辺境伯様は、身体強化を弱体化できる魔法を開発しようとしているのですよ。そしてその期待が、王族に並ぶほどに魔力量が多く、魔法にも剣術にも適正が高いエドワード様に一心に向けられているのです」

「私一人だけが強くても、どうしようもないと思うのですけどね」

 思わず乾いた笑みが口から洩れた。
 身体構造の違いに対する生理的な嫌悪に、宗教的迫害要因。豊かな土地を奪われた過去因縁に、それを起因とした現在の貧困。
 獣人に対する人間の忌避意識は俺が思っていた以上に根深い。……それでも。

「たとえ身体強化を弱体化できる魔法が開発できたとしても……私は隣国の獣人たちと戦争はしたくありません。戦争が始まって真っ先に戦場になるのは、国境に位置する我が辺境伯領です。民の為に命を捧げる覚悟はありますが、それはあくまでこの地を守るためならば。中央の様子見の為だけに、無駄に命は捧げたくはありません」

 獣人の国である隣国セネーバは、リシス王国に対してもレンリネドに対しても不干渉を貫いている。ゆえに戦争を起こすとしたら、こちら側からだ。
 そして獣人を嫌っているレンリネドはその癖自分からセネーバを仕掛ける気はなく、ただただ我が国をそそのかしてセネーバを攻めさせようとしている。熱心なドリフィス教徒である王女が我が国の正妃として嫁いできたのも、それが目的だろう。
 戦争を起こしたところで、現段階では人間が獣人に勝てる見込みなどさらさらない。しかし国交が断絶し、かつての戦争を知る世代もほとんどいなくなった今、そのことを正確に判断できる人間はどれくらい存在しているのか。
 辺境伯である父親がどれだけ無謀だと訴えたところで、美しい年下の正妃に骨抜きにされ、尻に敷かれている現国王陛下がはたして聞き入れるかどうか。……いや、あのクソ親父はそもそも反対すらしないかもしれないのが憎い。何だかんだで開戦を待ち望んでいる節があるからな。
 辺境伯領が滅びれば、陛下も停戦を考えるかもしれないが、あくまでそれはこの領地の犠牲を前提とした選択だ。
「ごめんね~☆ 奥さんにせっつかれて戦争しかけたけど、やっぱ無謀だったみたいだね~。でもそれがわかっただけでも、十分な成果だよ~。君達の犠牲が多くの国民を救ったんだ」と、謝られたところで、死んだ人間は帰ってこない。クソ親父からは常々「辺境伯領が滅びる時は、共に死ね」と言われ続けているので、当然俺も死んでいるか、生きていても敗戦の責任を追及されて殺されるのだろう。くそったれ。
 ……ごほん。また、思考がお下品になった。

「ダンテ先生。どうすれば戦争を避けられるでしょうか」

「……残念ながら、私にもわかりません」

 そう言ってダンテは悲しそうに笑った。

「エドワード様……あなたは8歳とは思えないほど、とても聡明なお方です。色々な生徒を見てきましたが、今まであなたほど優秀な生徒は見たことはありません。どうかどうか、戦争を止めたいという気持ちを捨てずに、どうすればいいのか考え続けてください。きっとあなたならば、最適な方法を見出せるはずです」

「…………」

「それでは、今日の講義はこれくらいで」
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