俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
12 / 311

グッバイ、俺の癒し

しおりを挟む
 亜空間収納していたテントと調理器具を取り出し、夕飯の準備を始めようとする俺をお犬様はちょこんと座って興味深そうに眺めていた。きゃわわ。お犬様が大丈夫そうなら、一緒に俺の料理食べてね? この場合は味付け控えた方がいいかしらん?
 ソバはまだ実がついていない状態だったので、それ以外の収穫物を使って調理することに。仮に実がついてたとしても、手持ちの道具じゃソバの実挽くの大変だしね。
 まずはぶつ切りにした青色のトマトとネーバ芋、ネーバ豆を、干し肉やら香草やら塩やらと一緒に鍋にぶっこみ、三脚で焚火の上に吊るして煮込みスープを作る。
 ネーバ豆は大豆に近いと言っても、まだ若い状態なので実質枝豆だ。茹でても良かったけど、別に鍋や三脚が必要となるので、さやごと焚火に突っ込んだ。黒くなるまで焼くと、さやのお陰で勝手に蒸し焼きになるらしい。

「これだけじゃ、ちょっと簡単すぎるから、後は魔法に頼って、と」

 鍋に入れた水を火魔法で沸かして、洗浄して切れ目を入れたネーバ芋を皮ごと茹でる。
 魔物肉を叩いてミンチにして、別に火魔法で熱したフライパンで炒める。玉ねぎはお犬様があかんかもだから、今回は省略。茹で上がったネーバ芋の茶色い皮を剥くと、カボチャのように鮮やかなオレンジ色の中身が現れる。ほくほくのこれをつぶして、炒めたミンチ肉と混ぜて塩コショウをかけたら、コロッケの中身の出来上がりだ。

「……本当。コロッケって、自分で作ると手間がかかる贅沢料理よな……」

 前世と違って、便利な材料が市販されてないからなおさらだ。ちなみに前世の実家では、何故かマヨネーズとすりおろしニンニクを混ぜるのが定番だったが、お犬様にはニンニクも心配だし、手作りマヨとか面倒くさ過ぎるうえ、この世界の生卵の衛生面が気になるので同じく省略。裸の赤ちゃんのロゴが恋しい。
 カチカチのパンをすりおろしてパン粉を作り、小麦粉を水で溶いて卵と混ぜて、バッター液を作る。卵と別付けは手間だし、なんかこっちの方が衣がサクサクになるらしい。

「おっと、豆は焦げすぎてないかな?」

 焚火に突っ込んだネーバ豆がいい感じったので、取り出してお味見。
 香ばしい香りがするアツアツの鞘を剥いてやると、鮮やかな緑の豆が現れる。塩をつけて食べるとほくほくして美味い。うーん、ちょっとソラマメっぽい香りもする。人によっては臭く感じるみたいだけど、俺は結構好きよ。春の香り。

「あ、神獣様も食べますか? 熱いのでやけどないように気をつけてくださいね」

 ふんふん鼻を鳴らして近づいて来た神獣様に鞘を剥いて皿に乗せて渡すと、興味深そうな顔で食べていた。……あ、気に入ったみたい。え、皿に乗せた分がなくなったから自分で焼きあがった奴の鞘を千切って、肉球ついた手で器用に食べだしたけど、どこまで賢いの。味なしで渡したいせいか、今度は目線と鳴き声で塩までリクエストしだしたよ。変なとこ人間臭いな。
 取り合えずお犬様に小皿に乗せた塩を献上して、コロッケ作成に戻る。肉を炒めたフライパンを拭いて、持参した油をたっぷり入れて火魔法で熱する。……植物油がちゃんと流通してる世界で良かったぜ。自分でゴマとかオリーブとか菜種とかツバキとかから油を抽出するの、面倒くさそうだもんな。揚げ物に獣の脂使うのは、なんか臭そう&カロリーやばそうで抵抗あるし。
 コロッケの中身を丸めて、バッター液にくぐらせて、パン粉をつけて、熱した油の中に置く。火が通ってるし、あまり油を使いたくないので、今回は揚げ焼きです。流通しているといっても、やっぱり食用油は手間がかかるからか、それなりの値段するし。

「よしよし、衣も剥がれずに上手に揚がったな」

 スープもいい感じに煮えたようなので、これにて夕飯の出来上がりです。

「はいはい、ちゃんと神獣様の分も盛りますから」

 催促するように足をたしたししてくる激きゃわお犬様の分のスープとコロッケを別に皿に盛り、地面に置く。焼いたネーバ豆はいつの間にかお犬様に全て食いつくされていたので、追加分はない。

「熱いから気をつけてくださいねー」

 くんくんと臭いを嗅いでから、おそるおそるコロッケに口をつけたお犬様は、ちょっと目を見開いて固まった後、なかなかの勢いでがっつきだした。
 そかそかー。お犬様の口に合ったかー。おかわりもあるから、たくさんお食べ。
 自分の分にフォークで突きさして二つに割ると、切断面からは美しいオレンジ色が覗く。中身はほっくほく、外はさっくさくで、シンプルな味付けだけど十分美味しい。

「真っ青な食欲減退カラーだけど、スープも美味いな。普通のトマトスープ」

 浮かんでいる芋にまでトマトの青が沁み込んでいる見た目は、おどろおどろしいとしか言いようがないが、こっちの世界の人はこの見かけを受け入れられるだろうか? お犬様は気にせず食べてるし、意外と余裕かもしれない。
 残ってたコロッケを生の青トマトと一緒にパンに挟んで、コロッケパン的なのも作ってみると、お犬様はこれも喜んで食べてくれた。……うーん。悪くないけど、俺的には物足りない。やっぱコロッケパンにはソースが欲しいな。あとキャベツ。油とソースの沁みたシャクシャクキャベツと一緒に、ちょっと潰したほかほかコロッケを……あ、なんかめちゃくちゃ食べたくなってきた。開発するか。酢と玉ねぎとトマトピューレを香辛料と煮込んだらできるかな?
 今世では揚げ物とはあまり縁がない食卓だったので、俺は結構すぐにお腹いっぱいになってしまったのだけど、残りのコロッケは全てお犬様の胃の中に収まった。……この小さな体の、どこにあの量が入ってんだ? 神獣は胃に亜空間があるのか? 不思議だ。

 食事を終えた後も、お犬様はずっとそばにいてくれて、夜はテントで一緒に眠った。ふわっふわの生きた毛皮と寄り添って眠る夜はすごく幸せだったけど。

 朝起きた時にはお犬様がいなくなってて、俺は泣いた。結構ガチで。


 もふもふという癒しはなしでも、使命は果たさねばならぬ。
 いや、ド本命の目的は果たしたんだけど、クソ親父を丸め込むには別の成果が必要になってくるので……。
 お犬様という癒しがない悲しい環境に、俺はそれから二日耐え抜き、下山した。……まあ、ソロキャンも楽しーわな。クソ親父に監視されている家よか。ずっと。

しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...