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俺の師匠②
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「魔力譲渡することで魔物の体内魔力バランス崩して、魔法発動できないようにしたんだよ。常に身体強化は無意識で発動されてっから、自発的に魔法を再構築すんのは難しいだろうと踏んで」
「魔力譲渡って、セックスだろ。お前、獣姦したのか」
「するか、ぼけ! 体液交換以外にもいくらでも方法あんだよ! 魔法使うとか!」
体液交換が魔力譲渡になるというエロファンタジーのお約束はこの世界でも踏襲されているが、戦場でそんなこといちいちしてられるはずもないので、魔法で魔力譲渡する方法はいくらでも確立されている。もっとも、魔法の才能0で、剣や体術のみを極めてきたこのじじいがそれを知らなくてもおかしくはないっちゃ、おかしくはないのだが。
「魔力譲渡は魔力が枯渇した味方を補助する為に行われるもの。だから敵に魔力譲渡を使用しようするという考え自体がはなからなかったが、確かに理にかなっている。さすが、私の弟子だ」
「あ……ありがとうございます。師匠」
めったに褒めない魔法じじいにストレートに褒められて、ちょっと照れる。
おそらく赤くなっているであろう頬をぽりぽり掻く俺を、魔法じじいは微笑ましそうな、剣じじいはどこかつまらなそうな目を向けた。
「よくわかんねぇけど、その魔力譲渡ってのは俺にもできんのか?」
「そういう魔法具を使えばできっけど、師匠の場合は元々の所有魔力自体が少なくて、身体強化の弱体化はおそらく無理だな」
「は? じゃあ、魔力量が少ねぇ奴は獣人に対抗できねぇじゃねぇか!」
「そうでもないぞ。アダム。魔力譲渡で身体強化の弱体化に成功すれば、物理攻撃は通るようになる。魔法士と二人一組で連携すればいい」
普段は冷静な魔法じじいが、興奮を隠しきれない様子でにやりと笑う。
「身体強化の弱体化さえ成功できれば、もう五十年前とは違う……隷属の首輪なんぞなくても、あいつらを屈服させることができる」
「そうか……あの獣人どもを切り刻むことができるようになるのか! もう、無様に逃亡する必要はねぇ!」
「ああ……山を越え、海流を変え。逃げのびた荒れた土地を必死に開墾するだけの半世紀だったが、ようやくこの時がやって来たな」
「ああ、屈辱に耐え、今まで生き延びたかいがあった……」
普段の険悪な雰囲気はどこへやら。肩を叩きあって、喜び合うじじい共を前に俺はようやく理解する。
……ああ、そういうことな。
優秀過ぎるほど優秀なじじい共が、何故こんな辺境の土地で安月給と思われる俺の家庭教師なんかしているのか、謎が解けた。
70越えのじじい共は、半世紀前の獣人との戦争の時は二十そこそこ。その身で敗北を知っているからこそ、二人はかつての雪辱を果たすことができる後継者を探して、人類最強のポテンシャルがある俺に辿り着いたのだろう。
すげぇ、納得。謎が解けて、すっきり。……それなのに、何でだろうな。
「よし、じゃあ魔力譲渡を前提にした剣術考えるぞ、エド坊! 魔法士と剣士のうまい連携法の案あったら、教えてくれ!」
「いや、その前に魔法だ。できるかぎり少ない魔力の消費量で、簡単に獣人に魔力譲渡ができる方法を確立しなければ」
「……まあ、まずはそっちが優先か。しゃあねぇ譲ってやるよ。しっかし。お前のような優秀な弟子を持てて、俺は幸せだよ。エド坊! お陰で対獣人戦に光明が見えた!」
「本当にな。エド。お前は私たちの誇りだ」
褒められているのに……さっきと違って嬉しくない。
だって俺は、どれほど努力したところで獣人王アストルディアには勝てない未来を知っているから。
二人の期待に絶対に応えられないことを知っているから。
クソったれな両親の代わりに、身の回りの世話をしてくれたのはクソ親父が雇ったメイドたちだけど、精神年齢が高すぎる幼い俺を不気味がった彼女たちは、必要以上に俺に近づくことはなかった。成長するにつれて、その目は畏怖から崇拝に変わっていったが、そうなったらそうなったで謎の不可侵条約のようなものが掲げられるようになった。
子どもだと思って最初は親しげに接してくれた辺境伯領の私兵たちも、幼い俺が自分よりも強いことがわかると化け物か神をみるような目を向けて、距離を置くようになって。
スパルタではあったけど、温かく愛情を持って、孫か何かのように親身に俺に接してくれたのは、このじじい共だけだった。そのことに感謝こそしても、その思惑を責めるつもりはない。
ないのだけど。
「……あー、お犬様に会いてぇな」
あの温かいもふもふの毛皮が。俺に重い期待をかけたりしない、つぶらな金色の瞳が。
ただどうしようもなく、恋しかった。
「魔力譲渡って、セックスだろ。お前、獣姦したのか」
「するか、ぼけ! 体液交換以外にもいくらでも方法あんだよ! 魔法使うとか!」
体液交換が魔力譲渡になるというエロファンタジーのお約束はこの世界でも踏襲されているが、戦場でそんなこといちいちしてられるはずもないので、魔法で魔力譲渡する方法はいくらでも確立されている。もっとも、魔法の才能0で、剣や体術のみを極めてきたこのじじいがそれを知らなくてもおかしくはないっちゃ、おかしくはないのだが。
「魔力譲渡は魔力が枯渇した味方を補助する為に行われるもの。だから敵に魔力譲渡を使用しようするという考え自体がはなからなかったが、確かに理にかなっている。さすが、私の弟子だ」
「あ……ありがとうございます。師匠」
めったに褒めない魔法じじいにストレートに褒められて、ちょっと照れる。
おそらく赤くなっているであろう頬をぽりぽり掻く俺を、魔法じじいは微笑ましそうな、剣じじいはどこかつまらなそうな目を向けた。
「よくわかんねぇけど、その魔力譲渡ってのは俺にもできんのか?」
「そういう魔法具を使えばできっけど、師匠の場合は元々の所有魔力自体が少なくて、身体強化の弱体化はおそらく無理だな」
「は? じゃあ、魔力量が少ねぇ奴は獣人に対抗できねぇじゃねぇか!」
「そうでもないぞ。アダム。魔力譲渡で身体強化の弱体化に成功すれば、物理攻撃は通るようになる。魔法士と二人一組で連携すればいい」
普段は冷静な魔法じじいが、興奮を隠しきれない様子でにやりと笑う。
「身体強化の弱体化さえ成功できれば、もう五十年前とは違う……隷属の首輪なんぞなくても、あいつらを屈服させることができる」
「そうか……あの獣人どもを切り刻むことができるようになるのか! もう、無様に逃亡する必要はねぇ!」
「ああ……山を越え、海流を変え。逃げのびた荒れた土地を必死に開墾するだけの半世紀だったが、ようやくこの時がやって来たな」
「ああ、屈辱に耐え、今まで生き延びたかいがあった……」
普段の険悪な雰囲気はどこへやら。肩を叩きあって、喜び合うじじい共を前に俺はようやく理解する。
……ああ、そういうことな。
優秀過ぎるほど優秀なじじい共が、何故こんな辺境の土地で安月給と思われる俺の家庭教師なんかしているのか、謎が解けた。
70越えのじじい共は、半世紀前の獣人との戦争の時は二十そこそこ。その身で敗北を知っているからこそ、二人はかつての雪辱を果たすことができる後継者を探して、人類最強のポテンシャルがある俺に辿り着いたのだろう。
すげぇ、納得。謎が解けて、すっきり。……それなのに、何でだろうな。
「よし、じゃあ魔力譲渡を前提にした剣術考えるぞ、エド坊! 魔法士と剣士のうまい連携法の案あったら、教えてくれ!」
「いや、その前に魔法だ。できるかぎり少ない魔力の消費量で、簡単に獣人に魔力譲渡ができる方法を確立しなければ」
「……まあ、まずはそっちが優先か。しゃあねぇ譲ってやるよ。しっかし。お前のような優秀な弟子を持てて、俺は幸せだよ。エド坊! お陰で対獣人戦に光明が見えた!」
「本当にな。エド。お前は私たちの誇りだ」
褒められているのに……さっきと違って嬉しくない。
だって俺は、どれほど努力したところで獣人王アストルディアには勝てない未来を知っているから。
二人の期待に絶対に応えられないことを知っているから。
クソったれな両親の代わりに、身の回りの世話をしてくれたのはクソ親父が雇ったメイドたちだけど、精神年齢が高すぎる幼い俺を不気味がった彼女たちは、必要以上に俺に近づくことはなかった。成長するにつれて、その目は畏怖から崇拝に変わっていったが、そうなったらそうなったで謎の不可侵条約のようなものが掲げられるようになった。
子どもだと思って最初は親しげに接してくれた辺境伯領の私兵たちも、幼い俺が自分よりも強いことがわかると化け物か神をみるような目を向けて、距離を置くようになって。
スパルタではあったけど、温かく愛情を持って、孫か何かのように親身に俺に接してくれたのは、このじじい共だけだった。そのことに感謝こそしても、その思惑を責めるつもりはない。
ないのだけど。
「……あー、お犬様に会いてぇな」
あの温かいもふもふの毛皮が。俺に重い期待をかけたりしない、つぶらな金色の瞳が。
ただどうしようもなく、恋しかった。
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