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アディ(偽名)くん、13歳の無双③
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ディックが持ってきたのは、クラッシュゼリーが入ったジュースだった。
爽やかな柑橘の風味とぷるぷるがマッチしててなかなか美味いが、ちと甘みが物足りない気もする。
「とても美味しかったです。でもゼリーの存在感を出す為にももう少しゼリーに砂糖を入れて甘みを増した方が良いかもと、お礼と共にニックさんにお伝えください」
にこりと子どもらしく微笑んで、カップを置く。
と言っても、ほとんど俺が介入してないのにも関わらずここまでの新商品を開発したなら、もはや俺のアドバイスは必要なさそうだ。今のとこコラーゲン生成は俺しかできないが、ちょうど良さげな容器に付与魔法で細工すればコラーゲン生成魔道具を作成するのはそれほど難しくはない。自力でこのレベル作り出せるようになったお祝いに、今度プレゼントしてやるか。もう少ししたら、俺はあまり関われなくなることだし。
「ディックさん……以前もお話ししましたが、今春以降、私はほとんどこちらに足を運べなくなると思います。いつでも手紙で相談には乗りますが、経営のほとんどをディックさんにお任せすることになるでしょう。この養殖場を頼みます」
この五年間、俺は「修行」と称してクソ親父の目を盗んではあちこちを歩き回り、辺境伯領が豊かになるよう暗躍してきた。
名を偽り、ローブで姿を隠しながら、自身のチート能力や前世の記憶、鑑定さんを生かしながら、思いつく限りのことはやってきた。
危険な魔物が出たと聞けば、クソ親父の私兵が出ばる前に単独で倒し。鉱山で崩落事故があったと聞けばチート魔法で埋まった人々を救出し、ついでに各鉱山全てを定期的に回っては土魔法で天井が崩れないように強化して。
つまり俺は正体を隠して、辺境伯領の民の為に戦う正義のヒーローアディマンなのだ……! 我が領の民達よ、ファンクラブ作ってくれてもいーのよ? もうすぐ引退が確定してるけど。
じじい共は当然俺が修行以外のことをしていることも気づいていたが、剣も魔法もきっちり成果を出してたから目こぼししてくれていた……というか指導せずとも勝手に強くなる俺の教育よりも、辺境伯領の私兵や城から派遣された兵士を訓練した方がいいと気づいたようで、最近では俺の「修行」を待ち望んでる節すらある。……クソ親父の許可はちゃんと取ってるんだろうか。あのWじじいにクソ親父が勝てるはずもないから、許可がなくても同じことか。
まあ、そんなわけで五年間必死に頑張ってきたし、その成果も出てる。
ネルドゥース芋やネルドゥース豆、ネルドゥースソバやネルの実も、すっかり安定して収穫できるようになったし、最近ではクソ親父と交渉したクリストファー殿下によって他領にまで広められた。
冬の餓死者は年々減少し、民の生活はどんどん豊かになってきている。相変わらず大した娯楽もない田舎であることは間違いないが、それでももう誰もうちの領の人々を「貧しい」とは言わないだろう。
しかし、そうやって暗躍する時間も、この春までだ。春から、俺は王都の貴族学校へ行かないといけない。学校では授業以外では魔法の使用ができないようになってるらしいから、気楽に転移魔法で戻ってくることもできないだろう。
彗星の如く現れた正義のヒーローが、正体を隠したまま民達を救って、彗星の如く去って行く……まさに王道展開。
とりあえず、立つ鳥跡を濁さずで色々俺がいなくても大丈夫なようにして、格好良く姿を消すぜ。俺には新しい使命が待ってるからな。
深々と頭を下げると、ディックは厳つい太眉を悲しげに八の字にして残念そうに頷いた。
「……残念ですけど、仕方ありません。辺境伯家のご嫡男様が、王都の貴族学校に進学しないわけにはいかないですもんね」
…………ん?
「ですが学校の長期休みには領にお戻りになられるんですよね! その時は是非とも顔を出してください! お忍びでも、そうでなくても」
んんんん???
「……誰ガ辺境伯家ノ嫡男デスッテ?」
俺の言葉にディックはハッとしたように口を押さえ、気まずそうに視線をそらした。
「……申し訳ありません。お父上の手前、正体は秘密にされてたんですもんね。でも俺ら領民からしたら、公然の秘密というか……正直ローブくらいじゃ、エドワード様の美貌は隠しきれないんで、関わったものにはバレバレというか」
「ちょっと待て。俺……じゃなくてエドワード様は辺境伯家の嫡男として公の前に出たことはなかったと思うのですが」
「見たことなくてもわかりますって。屋敷で働いている奴からも、飲み屋に来てる兵士達からもいくらでも噂は広がってますし。その美貌とその優秀さにくわえて、エドワード様と同じくらいの年齢で偽名も本名に近いとなれば、そりゃ、ねえ?」
やべえ。正体を隠してヒーローやってるつもりだったのに、バレバレだったとは。
これは確実にクソ親父に報告いってる……としても問題ないな。数年前にブチキレてボコボコにしたうえで、聖魔法で即全快させた後に「私が訓練を怠ってない証明になりましたか?」ってニッコリ笑って以降、クソ親父は顔を合わせるなり「お前は辺境伯家のものだということを忘れるな」とだけ言い続けるサブリミナルbotと化しているし。やはり、暴力……暴力が全てを解決する。話し合いなど野蛮だ。
爽やかな柑橘の風味とぷるぷるがマッチしててなかなか美味いが、ちと甘みが物足りない気もする。
「とても美味しかったです。でもゼリーの存在感を出す為にももう少しゼリーに砂糖を入れて甘みを増した方が良いかもと、お礼と共にニックさんにお伝えください」
にこりと子どもらしく微笑んで、カップを置く。
と言っても、ほとんど俺が介入してないのにも関わらずここまでの新商品を開発したなら、もはや俺のアドバイスは必要なさそうだ。今のとこコラーゲン生成は俺しかできないが、ちょうど良さげな容器に付与魔法で細工すればコラーゲン生成魔道具を作成するのはそれほど難しくはない。自力でこのレベル作り出せるようになったお祝いに、今度プレゼントしてやるか。もう少ししたら、俺はあまり関われなくなることだし。
「ディックさん……以前もお話ししましたが、今春以降、私はほとんどこちらに足を運べなくなると思います。いつでも手紙で相談には乗りますが、経営のほとんどをディックさんにお任せすることになるでしょう。この養殖場を頼みます」
この五年間、俺は「修行」と称してクソ親父の目を盗んではあちこちを歩き回り、辺境伯領が豊かになるよう暗躍してきた。
名を偽り、ローブで姿を隠しながら、自身のチート能力や前世の記憶、鑑定さんを生かしながら、思いつく限りのことはやってきた。
危険な魔物が出たと聞けば、クソ親父の私兵が出ばる前に単独で倒し。鉱山で崩落事故があったと聞けばチート魔法で埋まった人々を救出し、ついでに各鉱山全てを定期的に回っては土魔法で天井が崩れないように強化して。
つまり俺は正体を隠して、辺境伯領の民の為に戦う正義のヒーローアディマンなのだ……! 我が領の民達よ、ファンクラブ作ってくれてもいーのよ? もうすぐ引退が確定してるけど。
じじい共は当然俺が修行以外のことをしていることも気づいていたが、剣も魔法もきっちり成果を出してたから目こぼししてくれていた……というか指導せずとも勝手に強くなる俺の教育よりも、辺境伯領の私兵や城から派遣された兵士を訓練した方がいいと気づいたようで、最近では俺の「修行」を待ち望んでる節すらある。……クソ親父の許可はちゃんと取ってるんだろうか。あのWじじいにクソ親父が勝てるはずもないから、許可がなくても同じことか。
まあ、そんなわけで五年間必死に頑張ってきたし、その成果も出てる。
ネルドゥース芋やネルドゥース豆、ネルドゥースソバやネルの実も、すっかり安定して収穫できるようになったし、最近ではクソ親父と交渉したクリストファー殿下によって他領にまで広められた。
冬の餓死者は年々減少し、民の生活はどんどん豊かになってきている。相変わらず大した娯楽もない田舎であることは間違いないが、それでももう誰もうちの領の人々を「貧しい」とは言わないだろう。
しかし、そうやって暗躍する時間も、この春までだ。春から、俺は王都の貴族学校へ行かないといけない。学校では授業以外では魔法の使用ができないようになってるらしいから、気楽に転移魔法で戻ってくることもできないだろう。
彗星の如く現れた正義のヒーローが、正体を隠したまま民達を救って、彗星の如く去って行く……まさに王道展開。
とりあえず、立つ鳥跡を濁さずで色々俺がいなくても大丈夫なようにして、格好良く姿を消すぜ。俺には新しい使命が待ってるからな。
深々と頭を下げると、ディックは厳つい太眉を悲しげに八の字にして残念そうに頷いた。
「……残念ですけど、仕方ありません。辺境伯家のご嫡男様が、王都の貴族学校に進学しないわけにはいかないですもんね」
…………ん?
「ですが学校の長期休みには領にお戻りになられるんですよね! その時は是非とも顔を出してください! お忍びでも、そうでなくても」
んんんん???
「……誰ガ辺境伯家ノ嫡男デスッテ?」
俺の言葉にディックはハッとしたように口を押さえ、気まずそうに視線をそらした。
「……申し訳ありません。お父上の手前、正体は秘密にされてたんですもんね。でも俺ら領民からしたら、公然の秘密というか……正直ローブくらいじゃ、エドワード様の美貌は隠しきれないんで、関わったものにはバレバレというか」
「ちょっと待て。俺……じゃなくてエドワード様は辺境伯家の嫡男として公の前に出たことはなかったと思うのですが」
「見たことなくてもわかりますって。屋敷で働いている奴からも、飲み屋に来てる兵士達からもいくらでも噂は広がってますし。その美貌とその優秀さにくわえて、エドワード様と同じくらいの年齢で偽名も本名に近いとなれば、そりゃ、ねえ?」
やべえ。正体を隠してヒーローやってるつもりだったのに、バレバレだったとは。
これは確実にクソ親父に報告いってる……としても問題ないな。数年前にブチキレてボコボコにしたうえで、聖魔法で即全快させた後に「私が訓練を怠ってない証明になりましたか?」ってニッコリ笑って以降、クソ親父は顔を合わせるなり「お前は辺境伯家のものだということを忘れるな」とだけ言い続けるサブリミナルbotと化しているし。やはり、暴力……暴力が全てを解決する。話し合いなど野蛮だ。
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