俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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エドワード17歳、二重猫かぶり王子期⑤

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『僕らは運命共同体なんだ。三人でいる時は敬語なんか使わず、素のままの君で話して欲しい』

 初めて学校でクリスとジェフに直接対峙した時。
 可憐な笑顔と共に言われたこの台詞に、ゾクリと鳥肌が立った。
 言っていること自体は、剣じじいと同じ。けれど、希望の体で発せられたこの命令は、ただの感情論から来る発言なんかじゃないと、嫌でも理解してしまった。

『敬語は武装だ。だからこそ、アダムが何と言おうが師と仰ぐに値するくらい優秀な相手には必ず使え。じゃなければ、良いように操られるぞ。あいつのような脳みそまで筋肉が詰まったような奴でない限りな』

 Wじじいの敬語論争の後、魔法じじいから諭された言葉が脳裏に過ぎる。
 敬語を解くということは、素の自分に近づくということ。
 そして俺が素の自分に近づけば近づくほど、クリスみたいに頭が良い奴にとって恰好の駒になる。
 素を引きずり出して、共感して寄り添い、心を開かせ。さり気なく思想を誘導し、クリスにとって都合の良い行動を、「自らの意志で選択した」と思わせて、自発的に動くようにする。
 クリスなら、そんなマインドコントロールを呼吸するくらいに簡単にできるはず。まだ直接対峙してから数時間の時点で、そう確信できるだけの支配者のオーラが、13歳のクリスにはあった。
 少しでも、クリスにつけ込める隙は与えたくない。
 けれどここで命令を拒否すれば、クリスから一線を引かれ、共同戦線が張れなくなる。……なら、どうすればいいか。

『……いいぜ。俺がどんな無礼な態度を取っても、お前が気にしねぇならな』

 標準装備の柔らかい笑みを消し、嘲るように口角を上げる。ここまでの思考に有した時間、約1秒。できればもっと間髪入れず反応したかったが、まあ許容範囲だろう。
 ならば、俺は演じよう。こいつが対等な協力者として認めるような、不遜で優秀人物を。
 口調はできるだけ汚い方がいい。第一王子にそんな口を利く奴は珍しいだろうから興味をひけるだろうし、王族相手でも物怖じしない豪胆さを演出できる。
 口数はそこそこ。寡黙過ぎると建設的な話ができない。でも、つけ込めるようなよけいな話はせず、あくまで話題は必要最小限に留める必要がある。
 感情はあまり表に出さず、クールで合理主義過ぎるくらいな方が、クリスは気にいるだろう。不機嫌さと嘲りは、適度ならクリスと円滑な関係を築くためのスパイスになる。不快感を抱かせない範囲で調整しよう。
 頭の中で組み立て人物像を、素早く態度に反映させる。
 前世の世界のイメージで例えるなら、クレバーな裏番。頭が良くて喧嘩も強く、カリスマ性もあるが、基本的には一匹狼な不良。王子然とした普段の姿とは正反対な感じが、切り替えるうえでは逆にやりやすい。
 最悪、クリスからこれが素ではないと気づかれても構わなかった。要はどれだけ徹底させられるかだ。クリスの前で上手く別の自分を演じることができればできるほど、それが俺の評価になる。
 がらりと雰囲気を変えた俺に、クリスは一瞬つぶらな瞳を一層真ん丸にした後、すぐに楽しげに笑ったのだった。

『もちろん、気にしないよ! よろしくね。エディ。僕のことも、気軽にクリスと呼んでね。君となら楽しい時間を過ごせそうだ』



 ……というわけで、俺の猫かぶり第二モード……というか犬かぶり? 狼かぶり? モードができたわけです。
 別々にすんのが面倒だったから、対剣じじいもこっちのモードで統一したら、『反抗期か……』と何故か少し嬉しそうでムカついたのはここだけの話。ちげぇわ。キャラを混同しない為の処世術だわ。精神年齢少なくとも2倍以上で、今さら反抗期なんか来るかよ。来てたら、回復魔法一切使わずにクソ親父半殺しにして放置してるっつーの。

「……んなどうでもいい話よりも、王宮のことだよ。セネーバへの留学の件が通って、鬼ババアは荒れてなかった? どうせこの学校にもまた刺客を送って来たんだろ」



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