俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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建国祭②

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 何故か何も言わず固まっているアストルディアの目の前で、ひらひら手を振ってみるが、やはり反応はない。
 ……自分では結構自信作のつもりだったんだが、どこかおかしかっただろうか? 耳の長さのバランスが悪いのか?
 鎖骨のあたりに垂れるうさ耳を指先で引っ張ってみても、髪の根元に固定したクリップは外れる様子はない。これなら走り回っても取れそうにないし、素人が自作したにしてはかなり良い出来だと思うんだけど。アストルディアのこの反応をみると、使えなさそうだな。

「……やっぱ、外した方が」

「ーーそのままでいい」

 ようやく硬直が解けたらしいアストルディアが、真剣な眼差しで首を横に振った。

「あまりにも兎獣人の再現度が高くて、驚いただけだ。その上からさらにフードをかぶれば、誰もお前を人間だとは思わないだろう。そのままつけておけ」

「そう? じゃあ、このままにしとくか」 

「しかし、兎獣人か……本当は犬科の耳で見たかったが、これはこれで悪くない……では、なく。兎獣人だと認識されると、嫌な態度を取ってくるものもいるから、それだけは気をつけてくれ。小型の草食獣人は魔力が少なくて力が弱い分、舐められやすい」

「わかった」

「……もっとも、舐められた方が、セネーバの現状をより正確に把握できるかもしれないがな」

 ……それは一体、どういう意味なのだろう。

「それじゃあ、行くぞ。エディ」

「え? ベランダから出るの?」

「他の生徒から変装した姿を見られたくはないからな。お前なら、これくらいの高さ問題ないだろう」

「……まあ、余裕は余裕だけど」

 ……一応この部屋、三階なんだけどなー。
 一切躊躇する様子もなく、ベランダから軽やかに飛び降りるアストルディアの背中に、思わずため息をもらしながら、すぐに俺も後に続いた。



「……すごいな」

 右を見たら、ケモミミイケメン。
 左を見たら、ケモミミ美女。
 ケモミミ美形が、通りを溢れかえる圧巻の光景に、自然と口元が引き攣った。
 何だこの、ケモミミ美形フェスティバル。

「驚いたか? 独立の英雄である狼獣人の初代国王アルデフィア・セネバは、愛する人間の妻エレナを孤独にさせない為に、彼女と共に人前に出る際は常に人化した状態を保っていたらしい。それにあやかり、一年に一度の建国祭の時は、人化できるものは人化した状態で過ごすことが風習になっているんだ。もっともアルデフィアを知らない世代からすれば、彼に敬意を払う為と言うよりと、その名目で非日常を味わいたいと言うのが第一な気もするがな」

 ……なるほど。建国祭で人化するというのは、獣人からすればハロウィンで仮想するようなものなんだな。納得。
 確かにこれなら、人間である俺が混ざっても、気づかれにくい。

「しかし、獣人の人化した姿がみんな美形って本当だったんだな……」

「安心しろ。お前が一番綺麗だ」

 いや、何も心配してねぇから。てか、アストルディアさん、人間の美醜よくわからないって言ってたでしょうが。

「……なんか、このお祭りに魔力が高いイケメン好きの独身令嬢達を連れて来たら、それだけで婚姻に関する問題が解決するような気がしてきた」

 セネーバの王都周辺は、リシス王国より文化的水準が思いっきり低いってわけでもないし、親の言いつけでハゲデブ親爺の第二夫人にされそうな貴族令嬢なんかは、イケメン獣人貴族とのロマンスを泣いて喜ぶ気がして来たぞ? さすがに同性はキツイだろうが、美人な獣人女性と結婚したいって言う婚期逃した魔法士なら、普通にいそうだし。
 あれ、何か取引材料がどうとか、あまり悩まないでいい気もしてきた。

「なら、お前の悩みも解決だな」

「いや……やっぱり魔力の高い優秀な人材の流出の問題もあるし、顔だけで恋ができるわけでもないと思うから、そう簡単には解決できないと思うけど……うーん?」

 

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