俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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兎の騎士⑥

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「お、おい! 何だ、あの兎獣人っ、犬獣人を倒しちまったぞ!」

「しかも、子どもを肩車したまま……何で弱っちい兎獣人にそんなことが」

 ざわめき出す、ギャラリー。あれ、俺何かしちゃいました? ……なんて、聞かなくてもわかってる。
 実際俺の正体がわかってて喧嘩ふっかけてきたんだったら、逃げてたもん。そっちのが面倒事が大きくならないし。
 でもさあ、ムカついたんだよ。弱い種族の獣人になら、何をしてもいいと思ってる、クズ野郎の考え方に。一発食らわせないと、気がすまないくらいにさ。
 小さくため息を吐いて、踏みつけたクズ野郎から足を離す。さて、このギャラリーの中、どうやって退散すっかね。もう堂々と転移魔法を使っちまうか。

「……う、兎獣人が僕にこんなことをして、許されると思ってんの!?」

「ーー許されるに決まってるでしょ」

「大した身分でもない癖に、何をそんな偉ぶってるの? 色だけあの御方の側にいることを許された、雑魚犬の癖に」

 無様に地面に転がって喚くクズ野郎の声を遮るように現れたのは、ヴィダルスの取り巻きをしていたまだら模様の双子。
 周囲のギャラリーがこぞって道を開けている辺り、この二人は結構な身分らしい。……チーターにしろ、ジャガーにしろ、豹にしろ、結構獰猛な肉食獣だしな。実際こいつらは、クズ野郎よりずっと強そうだし。

「ち、違う……僕は、僕は……」

「実力差もわからないくらい雑魚なうえに、この御方の正体もわからないくらい馬鹿な犬は黙ってなよ」

「あなた、あの狐女をずいぶん見下してたみたいだけど、私達からしたら大して変わらないわよ」

「「弱いうえに頭も悪い負け犬が、調子に乗らないで」」

 言葉を返すこともできずに、ボロボロで震えているクズ野郎を見てると、ちょっとかわいそうになるが騙されてはいけない。こいつはさっき、罪がない俺を弱いと思ってサンドバッグにしようとしてきたクズだ。同情は必要ない。
 ……というか、こいつらは俺の正体気づいてんのかー。まあ、服装とか変えてないしな。

「躾がなっていない馬鹿犬が失礼致しました。可愛らしい垂れ耳の御方」

「貴方が避けたいあの御方は、サーカスの特設会場の方で貴方を探してらっしゃいます。貴方は絶対サーカスを観たがるだろうからと。何故そう思われたかまでは、存じませんけど」

 ……いや、本当になんであいつが、俺がサーカス好きだって知ってんだよ。俺だって、サーカスの話聞くまで忘れてた好みなのに。怖すぎだろ。
 思わず顔を青ざめさせる俺に、双子がくすくす笑う。

「あの御方に会いたくないのなら、ここの通りを左に進んで行くことをお勧めします」

「貴方に会ったことを、僕らはあの御方には報告しませんから。……と言っても、恐らくエレナ姫の色をした兎が馬鹿犬を倒したという話を知れば、自ずとあの御方も状況は把握されるでしょうが」

「用事を済まされ次第、転移魔法を使って学校に帰られたらいかがでしょう。さすがにあの御方も部屋までは追って来られないかと」

「……なぜそれを、お前達が俺に勧めるんだ? あいつの命令で俺を探してたんだろう?」

 双子は互いの顔を見合わせると、猫のような瞳孔を細めた目で笑った。

「「だって、その方が面白そうでしょう?」」

 ……わーお。見事なユニゾン。

「自分は獅子の血を引くから大丈夫と豪語していたあの御方が、狼獣人の性に飲まれていく姿は大変滑稽で、見ていて愉しいのです」

「僕達はあの御方の側近候補なのに、今までずっと愛人候補のように扱われてきたことにも腹が立っていましたし」

「私達は親がランドルーク家に忠誠を誓っているだけで、そもそも私達個人があの御方に忠誠を誓っているわけではありませんし」

「煽てて、仰いで、どこまであの御方が増長するか眺めているのもまあまあ愉しかったのですが、貴方が来てからの方がもっと愉しい」

「あの御方の執着を受け入れるにしても、拒絶し続けるにしても。せいぜい、あの御方をたくさんかき乱して、どうか私達を愉しませてくださいませ」

 ……なんか、別の方向に性格が悪い奴らだったぞ。
 ヴィダルスはこんな奴らに囲まれてたからクソ野郎になったんだか、クソ野郎だからこんな奴らしか周りに集まらなかったんだか。
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