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聖女の日々15

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 もし、兄様を。そして両親を失ったら。
 私は、彼のようになるのだろうか。
 ただ、ただ、また再び相見えることを望んで。
 数千年の時を生き続けることを選ぶ狂気を、抱くようになるのだろうか。

 ……多分、父様と母様に関して言えば、きっと私はそうはならないだろう。
 年齢を考えても、親は順当に行けばいつかは必ず先に旅立つものだし、きっと二人も自分達がいなくなった世界で、私が強く生きていくことを望んでくれている。
 私は、きっとその死を、乗り越えることができるだろう。

 ーーでも、兄様は? 

 兄様が、私より先に亡くなったとしたら、私は耐えられるのだろうか。
 予言者と同じ狂気を抱かずにいられるのだろうか。

 兄さんがいてくれたから、私は「ディアナ」になれた。
 アシュリナとして生きた悲惨な記憶も、私の物じゃないと割り切れることができた。
 「ディアナ」である私の人生は、いつだって兄様が隣で私の手を引いていてくれたのに。

 兄様がいたから、私は私でいれたのに。……兄様を失った自分が、果たしてどうなってしまうのか、自分でもよく分からない。

「ーー本当に、貴女は初代聖女様によく似ている。今まで出会った聖女の、誰よりも」

 切なげに告げられた予言者の言葉に、ゆっくりと首を横に振る。

「……私は、貴女の聖女ではありませんよ」

「知っております。……それでも、ディアナ様。私は貴女の中に、あの御方の面影を見出さずにはいられないのです」 

 自嘲の笑みを浮かべながら、予言者は目を伏せた。

「……私は、初代聖女様が亡くなった時に味わった、やるせなさを、もう二度と抱きたくはない。だから私にとっては、貴女の命の安全こそが最優先で、その結果、貴女が苦しむことは仕方ないことだと思っています」

「……はい」

「だけど、もし真実を語ることが、少しでも貴女の気持ちを楽にしてくれるのなら……敢えてお伝えしましょう。貴女が救えない、否、救わない患者から憎まれることすら、王や貴女のお兄様が、必要だと判断したことなのですよ。ーー全てはただ、【災厄の魔女】を打ち倒す為に」
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