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聖女の日々27

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 ……こんなこと言っても兄様を困らせるだけだって分かっているのに、一度口にしてしまったら胸のうちから押し隠そうとしていた暗い負の感情がぶわりと溢れでてきた。
 
 怖い
 さみしい
 どうか、そばにいて
 私から、離れないで

 兄様が、そばにいてくれなきゃ、だめなんだ
 どうか……どうか、私をディアナでいさせて

 そんな子どもじみたわがままを思わず口にしてしまいそうになり、慌てて言葉を飲み込んで拳を握った。
 爪が掌の肉に食い込み、じんとした痛みがはしる。

 そんな私を兄様はひどく複雑そうな表情で眺めてから、あちこちに剣ダコができた大きな手で私の拳を包み込んだ。

「会いに来る時間をもっと増やせるか、隊長に掛け合ってみるよ。……だからもう少しだけ。もう少しだけ待っていてくれ。ディアナ」

 微かに血が滲む手を、優しく開かせながら、兄様は目を伏せた。

「胸を張ってお前の騎士と名乗れるようになったら……もう二度と、お前にそんな不安な想いはさせない。ずっと傍にいて、外敵からも、【聖女】に縛られているお前自身からも、俺が必ずディアナを守ってやるから」

 ……剣では誰にも負けない兄様が、胸を張って私の騎士だと名乗れる時っていつだろう。

 そんなひねくれたことを思ってしまう自分がいないと言えば嘘になるけど。

「……うん。待ってるよ」

 強い決意を込めてまっすぐに向けられた兄様の緑色の瞳を見てたら、素直に頷くしかない。

「……よし。ディアナ。良い子だ」

 私の返事に、兄様は満足そうに笑って私の髪を一度くしゃくしゃに撫であげた。

「それじゃあ、俺は騎士団の宿舎に戻るぞ」

「え……兄様、もう帰ってしまうの」

「夜も遅いからな。……ディアナもゆっくり休むといい」 

 そう言ってそのまま私から背を向けようとした兄様の服の裾を、咄嗟に掴んだ。

「……ディアナ?」

「まだ、帰らないで。兄様。……今日はここに泊まって行って」

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