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連載2

決戦の時19

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「なんでそんなこと言いきれるの?」

 私の疑問に兄様は、ばつが悪そうに目をそらした。

「……兄様?」

「……既に俺が、想定できるあらゆる破壊方法は、実験済みだ」

「!? そんなの私、聞いてないよ!」

 弱ってなお、あれだけの力を持つ神の神体を、一人で破壊しようとするなんて、危な過ぎる。
 万が一呪われたりして、兄様が危険な目に遭ってたらと思うと、ぞっとした。

「だってお前に相談したら、絶対にその場に居合わせようとしただろ? 力の封印だけであれほど疲弊していたのに、これ以上お前に負担をかけさせちゃまずいだろ」

「だとしても、最初に私に相談してよ! 護符を作ったりして、兄様の役に立てたかもしれないのに」

「護符は念のため母さんに作ってもらったから。言い訳になるかもしれないけど、これでも一応考えられる自営手段は全て備えた上で、実験に臨んだんだぞ。俺が無事じゃなければ、騎士としてセーヌヴェットに同行できなくなるからな。残念ながら、反動は皆無だった代わりに、剣に傷一つつけることは叶わなかったが」

 そうか。母様の護符をちゃんと準備してたのか。
 ホッとする反面、胸の奥がなんだかモヤモヤした。
 兄様を守るのは私でありたかったし、兄様に真っ先に頼られるのも私であって欲しかった。
 自分自身が色々未熟であることを考えると、ただの子どものわがままだと言うのはわかっているけど。

「……それで、どうするの。トリアスの神体は置いていくの?」

「今、剣を置いていったら、誰に奪われるか分からないからな。責任持って俺が持って行くことにするよ。俺が倒れれば剣がトリアスに渡りかねないリスクはあるが、剣を封印できるお前の近くに置いた方がまだ安心できる」

「それもそうだね」

「もしかしたら、何かの役に立つかもしれないしな」  

 鞘に収まったままのトリアスの神体を、二人でじっと見つめる。
 古びているが、とても美しい剣だ。
 誰にも手入れされないまま長い長い時を経て、なお美しいその姿が、私は少し怖い。

「ねえ、兄様。兄様は、かつて神と讃えられた存在と敵対するかもしれないことが、怖くはないの?」

 私の問いかけに、兄様は迷いのない笑みを浮かべた。

「前に言わなかったか? ディアナ。ーー俺はお前の為なら、神だって切り捨ててやるさ」
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