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連載2

決戦の時23

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 だけど結局その日の宿は、三人寝られる広い部屋が一つしか空いてなくて。
 兄様が間に挟まるようにして、三人並んで一緒に寝た。

「ふふふ、結局また私の願った通りになりました」

 そう言ってしてやったりの笑みを浮かべるシャルル王子に、兄様は怒鳴りつけていたけど、私は何だか少し楽しくて、思わず笑いながらしまった。
 セーヌヴェットへ行くのは、本当は怖い。
 今でもふとした時、生きたまま体を焼かれるあの苦しみが鮮明に蘇る。
 蔑むルイス王の目も、甲高いユーリアの嘲笑の声も、そしてあの獲物を狙う猟犬のような視線も、まるで自分の身に降りかかるた出来事のように脳裏に思い浮かぶ。
 私とアシュリナは、魂を共有するだけの別人で、アシュリナに起こったことは、私の身に起こったわけじゃない。
 そう割り切ったはずなのに、セーヌヴェットに近づくにつれて、簡単に心は揺らいでしまう。
 だからこそ、どこか緊張感がないシャルル王子が傍にいてくれることはありがたかった。
 心が少し、軽くなる。

「シャルル王子。……ありがとうございます」

「え? 何がですか?」

 すっとぼけているのか、素なのかが分からない言葉が返ってきたけど、私は敢えて詳細は語らなかった。

「ーーおやすみなさい」

 隣で横になっている兄様の背中に額を埋めるようにして、目を閉じる。
 瞼の裏に、あの日の炎は見えなかった。



「……よし。蹴散らした」

 兄様が【黎明】を鞘に納めながら、御者台に座る。

「これだけ格の違いを見せつけてやったら、もうこの馬車を襲う気にはならないだろ。……個人的には、ああいう輩は殺した方が世のためだと思うけどな」

「お兄様の気持ちも分からないでもないですが、ああなったのには色々理由があるのですよ。ルシトリアの王家の立場からすると、どんな悪人も正当防衛じゃない限りは法に乗っとって裁かれるべきだと思います」

「武器持って襲いかかってくるんだから、それだけで十分正当防衛だろ」

 兄様はヒースの手綱を取りながら、ため息を吐いた。

「……しかし王都から離れるにつれて、増えたな。盗賊。以前この辺りを遠った時より、明らかに治安が悪くなっているな」

「ルシトリアはまだましな方ですよ。常人なら近づかないマーナアハの森で遮れてますから。治安悪化は近隣諸国の方が深刻です」

 シャルル王子の言葉に、思わず唇を噛んだ。

「……それだけセーヌヴェットから近隣諸国に逃れた難民がいるということですね」
 
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