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連載2

決戦の時25

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 シャルル王子は拳を握って力説する。

「外国出身の方に重要な立場を与えるのですから、当然国内貴族からの反発はあるでしょうが、お父様ならその反発を抑えるだけの価値があります。何せ剣聖と呼ばれ、誰もが無駄死にだと思っていたあのアニリドとの前線を生きて勝ち抜いた、救国の英雄ですから。お父様には剣の腕だけじゃなく、部下を統率し戦術を練る力もある。元々セーヌヴェットの高位貴族ですから、貴族としての知識・教養もある。人柄は精錬潔白。加えてお父様を取りこむことができれば、お父様を通してお母様に護符の依頼までできる。為政者としては喉から手が出るほど欲しい逸材ですよ。剣の腕はお父様以上でも、一匹狼の狂犬であるお兄様と違って」

「……よし、わかった。お前、俺に喧嘩を売ってるんだな。ちょうど【黎明】を研いだばかりなんだ。切れ味を試してやろう」

「ち、違いますよ! それだけお父様がすごいってことです」

「父さんがすごいのは、誰より俺が知っているが、一言よけいなんだ。お前は」

 咄嗟に私の陰に隠れたシャルル王子は、兄様の険しい視線から逃れるように明後日の方向を向きながら咳払いをした。

「……まあ、そんなわけでお父様があの森に居続ける限り、セーヌヴェットがアニリドの物になったとしてもルシトリアとしてはさして問題はないのです。セーヌヴェットの民からすれば、どうせ併合されるならかつては同じ国で、言語や文化がほとんど変わらないルシトリアに併合されたいだろうとは思いますが、国の運営は慈善事業ではない。合理主義の父上でなくても、利がなければ動きません」 

 シャルル王子の言葉は感情はさておき、理屈としては納得できるものだったから、私は何も言わなかった。

 セーヌヴェットが滅び、敵国であったアニリドに併合される。

 それがセーヌヴェットの民にとって、どれだけ酷なことか分からない。
 もしかしたら、【災厄の魔女の呪い】に守られた、現状の方がましかもしれない。

「それでも……たとえセーヌヴェットの民に恨まれることになったとしても、私は【災厄の魔女】を倒す」

 それが、私が【聖女】である意味だから。



 慣れ親しんだマーナアルハの森を抜けて、セーヌヴェットの領域に入る。
 アシュリナにとって懐かしいはずのセーヌヴェット国内の様子は、驚くほど様変わりしていた。

「……どこもかしこも、朽ち果てている」

 ここには、美しい村があったはずだった。

 あそこには、セーヌヴェットの英知を詰め込んだ、画期的な構造の建物が建てられていたはずだった。

 ヒースの手綱を握っていた兄様が、低く呟く。

「……まるで死の国だな」
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