処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
162 / 225
連載2

対決12

しおりを挟む
 ……ここでまた、ルイス王の名前が出るのか。

「何故自分の考えを曲げてまで、ルイス王に従うの? あなたは強大な力を持つ特別な存在なんだから、思うがままに生きればいいのに。私が知っているあなたとルイス王の関係は、もっと対等だったように思うけど」

 アシュリナの記憶の中のユーリアは、ルイス王を愛し狂信的に慕っていたようではあったけど、それほど従順な印象ではなかった。
 当時のユーリアは、華やかかつ奔放で、強かな野心家だった。ルイス王と組んだのも、権力者と組んで本物の聖女であるアシュリナを排除できれば、自分の立場を確固たるものにできるという打算もあったように思う。
 ルイス王に必要とされたくて常に焦燥していたからこそ、主導権はいつも彼女自身が握っていた。
 使い捨てにされず、いつまでもルイス王に必要とされ続ける為に。

 けれど、今のユーリアは違う。

「っ……何を言っているの? 私は最初から、ルイス陛下の従順なしもべよ。誰よりも美しいあの方が、私を救いあげてくださったあの日から、ずっと! 私はあの方の為なら何だってするわっ! 命だって惜しくないのっ」

 狂気じみた愛情に、盲目的な献身。

 いつか【厄】を結晶化させた時に流れ込んできた感情は、確かに今、ユーリアの中にある。

 ーーだって今目の前に立つユーリアは、あの時のユーリアとは違うから。

 カチリと、頭の中でパズルがはまった音が聞こえた気がした。
 セーヌヴェットに来てから胸の中に芽生えた疑念が、確信に変わる。

 もし、私の考えが正しいのだとすれば、ルイス王は。
 
「……もう、おしゃべりはいいわ。これ以上話しても不快になるだけだもの」

 手に集まった【厄】の塊を、槍のように細く伸ばして、ユーリアは両手でかかげた。

「もしここで囚われたとしても、死ねば転生して解放されるなんて甘い考えでいるのだとしたら、お生憎様。あなたはこの空間では、自分では死ねないようになっているの。ルイス陛下が、そう設定してくれたのよ」

「…………」

「さあ、私の【厄】をあなたに植えつけてあげる。うまく結晶化できたら、ごほうびにまた新しい【厄】をあげるわ。死ぬこともできないままに、【厄】に侵され続けて、未来永劫苦しみなさい。絶対に死んで楽になんかさせないから」

 くすくすと笑いながら、ユーリアは槍状になった【厄】を頭上に浮かせた。
 槍の先がキラリと鈍い光を発したかように見えて、口の中のつばを飲み込んだ。

「さあ。セーラ。……炎に焼かれるより、激しい苦痛をあなたにあげるわ」

 ユーリアがそう口にした途端、【厄】でできた二本の槍が、まっすぐに私へ向かって飛んできた。

しおりを挟む
感想 178

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。