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連載2

神との戦い25

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 ガシャンと、何かが割れる音がした。
 剣が振り下ろされた衝撃で、割れた破片がきらきら光りながら、舞い散らばる。

「……鏡?」

 兄様の剣で縦二つに分けられた聖女の像の中は空洞になっていて、中では豪奢な装飾が施された鏡が、聖女像同様に縦一直線に切り捨てられ、散らばっていた。
 そして次の瞬間、体を押さえつけていた力がなくなり、自由に動けるようになった。

「っ兄様!」

 腕から逃れ、すぐさま兄様のもとに駆け寄った私を、予言者は引き止めなかった。
 子どものように兄様の首もとに抱きつき、すすり泣く。
 兄様は【黎明】を握っていない方の手で、優しく私の頭をなでてくれた。

「……全く。自分の妹とそっくりな像を躊躇いなく切り捨てるなんて、情のない男ですね」

 兄様はかばうように私の体を抱き込みながら、呆れたようにため息を吐く予言者を、睨みつけた。

「全然似てないだろう。ディアナの方がずっと美人だ」

「……兄馬鹿にも、程がありますね。誰がどう見ても瓜二つじゃないですか」

 賭けに負けたはずなのに、動じない予言者の反応に、段々と不安になる。
 聖女像の中にあった鏡は、本当にルトーの神体だったんだろうか。

「何故、聖女像の中に私の神体があると思ったんですか?」 

「だってお前は、初代聖女を愛していると言っただろう?」

 兄様も同じ不安を抱いているのか、予言者の質問に答える声はどこか固かった。

「神体は、お前の分身。ならば、愛した女の一番傍に置くことを望むのは当然の心理だろう。たとえそれが、形を似せた模造品に過ぎなかったとしてもな」

「ずいぶんと的外れな解答ですね」

 ーーやっぱりあれは、神体ではなかった?

 身構える私達を嘲るように、予言者は歪つな笑みを浮かべた。……いや、違う。

「神体を聖女像に隠したのは、聖女に対する信仰を自分の力に変換する際に、その方が都合よかったからですよ。聖女信仰の信徒の多くは、この像に向かって祈りを捧げますから。ただそれだけの理由です。……それだけの理由のはずだったんです」

 予言者が嘲っているのは私達ではなく、自分自身だ。

 この笑みは、選択を間違えた私達に対する嘲笑ではなく、神体を聖女像の中に隠した時ですら初代聖女を愛していることに気づけなかった過去の自分に対する自嘲の笑みだったんだ。

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