上 下
212 / 224
連載2

幸せの条件3

しおりを挟む
 兄様の連れて来た結婚相手がどれほど素晴らしい人であったとしても……いや素晴らしければ素晴らしいほど、私は祝福してあげられない。
 兄様を私から奪っていく人は、どんな素敵な人だろうと嫌いだと思ってしまう。身勝手な逆恨みだとわかっていても、感情が抑えられない。

「それは……妹としてではなく、か?」

 兄様が複雑そうな表情で、視線をさまよわせながら尋ねてきた。

「妹だったとしても……大切な家族が他の人間に取られれば嫉妬してもおかしくないだろう? お前のそれはあくまで家族愛の延長なんじゃないのか?」

 家族愛の延長かどうかなんて、そんなの……。

「そんなの、わかんないよ……っ!」

「……ディアナ」

「だって私には前世のアシュリナの記憶を含めても、兄様以上に好きになった人なんかいないから! どこまでが家族愛で、どこまでが恋愛感情かなんてわかるわけないよ!」

 生まれた時から兄様は、大切な家族だった。
 その事実は今も変わらない。
 だから、私が兄様に向ける感情に家族愛は間違いなく含まれている。
 嫉妬さえも家族愛のせいだなんて言われてしまえば、どうやって否定すればいいのかわからない。

「だけど私は……兄様を、他の誰にもあげたくない。兄様が隣にいない未来なんて考えられない。ーーだからこそ、兄様を私に縛りつける権利がある立場が欲しい」

 兄様のエメラルドの瞳をまっすぐに見据えて、思いを吐露する。

「それに私は……」

「っ」

 驚いて目を見開く兄様の頬を両手で掴み、力任せに引き寄せた。
 唇の端を掠めるキスは、何度も兄様からされてきた。なら、私には仕返しする権利があるはずだ。

 でも、私は唇の端なんかで済ませてあげない。

「兄様にもっともっと近づきたいの」

 ーー二つの人生で初めてのキスは、思っていた以上に呆気なかった。

 これが、キス。

 恋物語で読んでいたものとは、ずいぶんイメージが違う。甘くないし、蕩けてもいない。

 柔らかかった……気がするけど、恥ずかしくてすぐ離してしまったからよくわからない。
 これはもう一回仕掛けて、どんな感覚だったか確かめてみるべきだろうか。

 幸い?兄様は目を見開いたまま固まっている。今の兄様なら、何度だって確認し放題だろう。

「兄様……その、もう一回」

 再び唇を寄せた瞬間、兄様の目がカッと見開いた。

「っっっ!?!?!?!?」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:2,044pt お気に入り:2

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:37,281pt お気に入り:2,380

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:217

石女と呼ばれますが......

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,081pt お気に入り:45

ある国の王の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,477pt お気に入り:100

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,191pt お気に入り:6,132

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:134,801pt お気に入り:8,235

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。