竜焔の騎士

時雨青葉

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第2章 だだ、生きているだけなのに……

好きだからこその選択肢

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きびずを返し、ドラゴンたちに背を向けてシェルターを立ち去るサーシャ。


 ドアをくぐり、できるだけ音を立てないようにドアを閉めて―――


「き、緊張したぁー…」


 ドアにもたれかかって、ずるずるとその場にへたり込んだ。


「緊張したのはこっちよ!?」


 慌てた様子のカレンがひざまずき、心配そうにサーシャの顔を覗き込む。


「大丈夫!? 怪我とかない!?」


 相当焦っているのか、カレンは早口にまくし立てながらサーシャの体中を触りまくっている。
 そんなカレンの反応がなんだか間抜けに見えてしまい、サーシャはくすくすと笑い声を漏らした。


「大丈夫だよ。なんともない。」
「ほんとに!?」
「うん、ほんと。」


 こくんとサーシャが首を縦に振ると、カレンは大きく溜め息を吐きながら肩を落とした。


「あー、もう…。びっくりさせるんじゃないわよ。」
「ごめんね。」


「まったく…。なんで、あんな突拍子もないことを……」
「だって、キリハが風邪引かないか心配だったんだもん。あとは―――」


 サーシャはまっすぐにカレンにを見つめる。


「キリハが大丈夫って言うなら、大丈夫だと思ったから。」


 実際にドラゴンに触れてみるまでは、とても怖かった。
 今も、緊張で体が少し震えている。
 でも、あの行動を後悔はしていない。


 知っている。
 キリハは嘘をつかない。
 自分の行動を他人に押しつけもしない。


 皆を説得する時も、皆に変わってほしい時も、いつも行動は自分から。
 大丈夫だからと笑って、皆に変化を受け入れるきっかけを作ってくれる。


 それは、理屈っぽい言葉で説き伏せられるよりも、ずっとずっと信頼できると思うのだ。
 だから、大丈夫だと思った。


「……サーシャのすごいとこって、そこよね。」


 パチパチと目をしばたたかせていたカレンは、ふとそんなことを言った。
 それにサーシャが問うような視線で首をひねると、彼女は少し大袈裟に肩をすくめる。


「だって、好きって気持ちだけで、こんなことまでできちゃうんだよ? ……あたしには、できない…かな。」
「………」
「あ! 別に、自分のことを卑下ひげしてるってわけじゃなくてね!」


 サーシャの無言から気まずさを感じ取ったのだろう。
 カレンは慌てて両手を振る。


「あたしなら、絶対にやめてって言うと思うの。好きだから。失いたくないから。傷ついてほしくないから。だからこそ、きっと全力で止める。それが相手の望むことじゃないとしても、多分止める。信じて寄り添うことも大事だけど、引き際を教えてあげることも、大事なことだと思うから。」


「それは……」
「だから、サーシャのこと、すごいと思うよ。」


 カレンは笑う。


「あたしには、大事な人が追い詰められてるって知ってて、それでも信じて見守ってあげることなんてできないもん。そんでね、きっとキリハには、そんな風に傍にいてくれる人が必要なんだと思う。お似合いじゃない、サーシャたち。」


「ふぇっ!?」


 突然そんなことを言われ、サーシャは瞬く間に頬を紅潮させる。
 そんなサーシャに、カレンはからかうような表情を浮かべた。


「なによー、照れちゃってー。こんな可愛い子が見守って背中を押してくれるってなれば、キリハだって百人力でしょ。なんなら、キリハにサーシャの勇姿を教えてあげてもいいのよ?」


「そ、それはだめ! 私なんてまだまだだし、恥ずかしいし…っ」


「えええ~、どうしよっかなぁ?」


「カレンちゃん!」


 声を荒げるサーシャに、カレンは明るい声で笑う。
 顔を真っ赤にしながらも、サーシャはカレンにつられて、同じように笑い声をあげるのだった。

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