竜焔の騎士

時雨青葉

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第2章 だだ、生きているだけなのに……

夢間に見る姿

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「あ……き…………だん…ね…」




 ふと、誰かの声が鼓膜を叩いた。


「ふぅん、そんな……が。この子も……けない……から。」


 くすくすと、笑みを含んだ声。
 聞いていて心地よい声だ。


 すっと脳裏に染み込んでくる穏やかさと、どんなことでも包み込んでくれそうな柔らかさ。
 そして。


「ええ、そんなこと言っちゃうの? 相変わらず、素直じゃないんだから。本当は、案外気に入ってるくせにー。」


 そして、とても楽しそうな明るさ。


 久しぶりだ。
 こんな風に楽しげな声を聞くのは。


 最近は誰も―――自分ですら、楽しいという感情を忘れているから。


 誰なのだろう。
 そっと目を開けると、自分の傍ですやすやと眠るドラゴンの姿が見えた。


 声の主を探そうと、ゆっくり首を巡らせる。
 その人は、意外と近くにいた。


 自分のすぐ隣。
 眠るドラゴンの体に腰かけて、彼はもう一匹のドラゴンを見上げて笑っている。


「……だれ?」


 訊ねると、彼はゆっくりとこちらを振り返った。


 優しそうな人だった。
 綺麗な金色の髪がさらさらと揺れて、中性的な雰囲気の顔を柔らかく包んでいる。


 彼はこちらの視線に気付くと少しだけ驚いて、すぐにその紅色の瞳をなごやかに細めた。


「大丈夫だよ。」


 語りかけられる、優しい声。


 ああ、この声を知っている。
 なんとなく、そう思った。


 この声に何度も追い詰められては励まされ、背中を押されてきた。
 そんな気がする。


「大丈夫。これは夢なんだよ。だから、もう少し眠っておいで。」


 声にいざなわれるまま、意識はまた暗闇へと落ちていく。
 頬に触れてきた手は、ちょっとだけ固い感触がした。

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