1985年空は蒼かった 青春の1ページ

1984年、中3

謎が解けた～っ！

夏休みがスタートした。

しかし、僕の頭の中はバタフライをマスターする事しか無かった。

他の事を考える余裕なんて、全くと言っていい程無い。

期間は1ヶ月半…
その間にバタフライをマスターして、ぶっちぎりで一位になって、クラスのヤロー達を土下座させる！

…ホント、どうしてこうもバカだったんだろ、僕は。

初日から、区営プールに行って夕方まで泳いだ。

ドルフィンキックと同時に上体を反らし、両腕で水をかく。

言葉では簡単に見えるけど、やってみると、全然上手くいかない！

ドルフィンキックも膝を曲げ、足首を伸ばしたまま、両足で蹴るようにして泳ぐ…ここまでは知っていた。

いつどのタイミングで、上体を起こして両腕で水をかくのかが解らなかった…

ドルフィンキック→上体反らして両腕で水をかく→またドルフィンキック→上体反らして両腕で水をかく…

「なんだ、こりゃ！10㍍も進まねぇじゃねぇかっ！」

ゼイゼイ、ハァハァしながら、ドルフィンキックと同時に上体を…

あ"ぁ～っ、やってらんねぇ！

何だ、何でこんなに進まないんだ？

水の中でゴボゴボと泡を出したながら、バカヤロー！って叫んでいた…

結局、夕方まで水に浸かり、何一つ収穫の無いまま初日は過ぎていった…

あの頃、平均で6時間から7時間はプールにいたような気がしたんだよね。

身体がふやけて、バタフライは全然上達しない…

今みたいにネットなんて無いから、どうやって泳ぐ事すら解らない…

僕は皆の前であれだけの啖呵切ったから、区営プールもわざわざ隣の学区域までチャリで通って、何時間もプールに入った。

でも、どうやっても上手く泳げない。

いや、泳げるんだけど、25㍍は無理で途中までしか泳げない。

何がいけないんだ…何がダメなんだ…
寝ても覚めてもバタフライの事ばかり。

ドルフィンキックは何とか出来た。
だが、肝心の上体を反らして両腕で水をかく事が難しい…

腰を支点にして、足と上体を反らす。

端から見ればバタフライというより、溺れているみたいな泳ぎ方だった。

いつまで経っても全く進歩が無い
イライラは頂点に達した…

(何でだよ、この泳ぎ方じゃねえのか？だったらどうやって泳ぐんだよ！)

水の中で１人、声を上げて悔しがった…そりゃ誰からも教わらないんだから、泳げるワケないしね。

8月に突入しても、相変わらず泳ぎはサッパリ。

誰か教えてくれる人はいないのか？水泳経験者はいないのか？

僕は焦った…
これで全く泳げなかったら、いい笑い者だ。

そんな恥さらしにはなりたくない、あぁ～っ！バックレてぇ！

毎日毎日プールに通って、何時間も水の中にいて、全く進歩が無い…

ダメだ、オレは才能無いんだ、もういいや！

ヤケになっていた…

プールの帰り、本屋に立ち寄った。

確か今日はジャンプの発売日のはず…

近所の本屋に入ると、ジャンプともう一冊マンガを買おうと店内を彷徨いた。

(あぁ、そういやこの本屋、前にエロ本見て追い返されたっけな…)

店主の隙を見ては、よくエロ本を見ていた。

まぁ、すぐにバレて追い返されるんだけど、また懲りずにエロ本を読んで…その繰り返しで、まともに本を買った記憶が無かった。

でも、今はエロ本どころじゃない。

頭の中はバタフライだらけ…

(…ん？そうか、水泳に関する本はあるはずだ)

僕はマンガが並ぶ棚から、参考書や資格書等がある棚に移った。

(…あった！水泳入門書！)

僕はバタフライが載ってあるページをめくった。

解りやすく図になって解説してある！

それだと頭に入りやすいからね。

そのページを隅から隅まで読んだ。

…一気に身体の力が抜けた。

だって、今まで僕がやってたバタフライは、ドルフィンキックと上体を反らし、水をかくのを毎回同時に行っていた。

本では、ドルフィンキック2回に上体を反らして、水をかくのが1回と書いてあった…

しかも、最初はドルフィンキック5回、もしくは3回に1回の割合で、上体を反らす練習をして、慣れてきたらドルフィンキック2回に上体起こしを1回、とチャレンジしてみよう！そんな事が書いてあった…

通りでか…コロンブスの卵？目から鱗？よく解んないんだけど、例えるならそんな感じで…

そうか！これで泳ぎ方が理解できた！

また明日から、水の中でひたすら泳ぐのみ！

このやり方が解るまで、半月以上かかった…何でもっと前から調べなかったんだ、僕は？

家に帰ると、ベッドの上でドルフィンキックと上体を反らすような体勢を何度もして、いつの間にか寝ていた…

もし今、バタフライやれって言われたら、断固拒否するけどね。

それだけ腰に負担がかかる泳ぎだし…