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退学届け

姉貴という存在

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喫茶店は公園から数分の所にある。

姉は普段と変わらない様子に戻っていた。

僕と違って、成績優秀でバレー部のキャプテンを務め、波多野や他の後輩達から絶大な信頼を集める。

卒業後は都立の進学校に入学。

学年トップに入る程の頭脳に加え、ショートカットでボーイッシュ。

明るい性格は皆からの人気者として、常に注目を浴びる。

出来の良い姉と、素行不良で無気力無関心な僕。

何をしても中途半端な僕は、姉とウマが合わなかった。

オフクロが二人いるんじゃないかと思うぐらい、うるさい存在だ。

「何でアンタが、アタシの弟なの!こんな出来の悪い弟なんていらないわよ!」

「うるせー!ちょっと勉強出来るからってイイ気になってんじゃねぇ、この大根足が!」

バレーのせいか、筋肉質でやや太めな脚がコンプレックスだった。

いつも脚の太さを弄られる。

「うるさいっ!これは真面目にバレーやった証拠でしょ!アンタこそ、いつも青白くて病人みたいな顔じゃない!」

僕は色白に加え、いつも寝不足。

傍から見ると、病人の様な顔色をしていた。

寝不足なのは、深夜のラジオ放送を聴いていたから。


僕の一挙手一投足に一々口を挟む。

「皆は受験勉強してるのに、アンタだけフラフラしてたら高校なんて行けないよ!いつまでも遊んでないで、さっさと勉強しなさい!」

「イチイチうるせーヤツだな!オレはやりたいようにやるだけだ、バカヤローがっ!」

僕が康司の部屋にしょっちゅう行く理由は、姉がウザいからだ。

康司も説教を食らった事が何度かあった。

「いつまでも家の中に居ないで、学校に行きなさい!彼女だって、学校に行かないとダメなんだから!」

姉はサユリにもガンガン言う。

最初は「ウゼーんだよ、テメーは!」なんてアネキに突っかかって行ったが、今では姉の事を
「お姉ちゃん」と呼んで慕っている。

姉もサユリを可愛がり、素直で明るいサユリを妹の様に思えたらしい。

「サユリ、アタシの妹になんなよ。こんなバカ弟より、サユリが妹になって欲しいのに」

僕にとって姉は口うるさく、面倒臭い相手だった。

「あんなんじゃ、絶対に彼氏出来ないな。ましてや大根足なんか、相手にしないよ!なぁ、サユリ?」

「お姉ちゃんはしっかりしてるから、変な男なんか相手にしないよ~!アタシ、お姉ちゃん大好きだもん!」

サユリまで手懐けるんだから大したもんだ。

康司もアネキに言われると「ハイッ、ハイ」としか言えなくなる。

「お前の姉ちゃん、おっかねーよ!」

康司がよく口にしていた。

気の強い性格で、正しいと思った事は相手が誰でも貫き通す。

いわゆる優等生というヤツだが、僕はそんな姉が嫌いだった。

「偉そうに説教してんじゃねーよ!たかが一つ上なのに、センパイぶってんじゃねえよ極太が!」


この言葉で何度もケンカした。


頭が良くて口が達者な姉はその何倍にも返してくるので、最近は言われてもスルーする事にした。

そんな姉が、波多野によく相談していたらしい。

僕が理由らしいが、何の相談だったんだ?

「いらっしゃいませ~」

喫茶店のドアを開けると、元気のいいオバサンの声が店内に響く。

この時間帯は客がいない。


「オバサン、こんばんは。今日は3人でご飯食べに来たの。あ、この人は小野くんのお姉さん。祐実センパイ。
この人は店のオーナーさんで、アタシはここで手伝いしてます」

「あ…はじめまして。私は小野 祐実といって、貴久の姉です」

波多野に紹介され、挨拶した。

「あら、この彼氏のお姉ちゃん?随分とカワイイわね」


「えっ…いや、その…カワイイ…ですか?」


ガラにもなく、下を向いて真っ赤にしてる。

「さて、何を頼もうか…腹減ったよ」

「そうだ、オバサン!ハンバーグセットとナポリタンとカレーにして~!あ、後ビールを…」

「こっちはまだ決めてねぇぞ!」

「えぇ~っ、慶子アンタお酒飲むの?」

姉の声が裏返る程、驚いた表情をしている。

「えっと、少しだけです…祐実センパイもちょっと飲んでみませんか?」

「止めた方がいいよ。アネキはまだ飲めないんだから」

「えっ、何っ?貴久も飲んでるの?」

「多少ね。アネキはまだ早いから、コーラとかの方がいいんじゃん?」

「アタシを子供扱いするんじゃないわよ!慶子、アタシにもビールちょうだい!」

姉は子供扱いされたのが癪だったのか、ムキになっている。

「止めとけ止めとけ!酔っぱらって帰ったら、オヤジやオフクロに怒られるぞ」

「アンタや慶子が飲めるんだもん、アタシが飲めないワケないでしょ!」

くだらない事で意地張るな…

テーブルに料理とビールが運ばれてきた。

「慶子ちゃん、今日はビール一本だけにしなさい」

そう言うと、オーナーは瓶ビールとグラスを3つ用意した。

「じゃあ、祐実センパイ」

波多野は姉のグラスにビールを注いだ。

恐る恐るビールを見て、匂いを嗅いでいる。

「じゃあ、カンパイしよ!」

「何のカンパイよ?」

「んー、小野っちが学校辞めるのを止めた事にカンパイ!」

「いらねーよ、そんなカンパイは!」

「もう、とにかくカンパイ!」

波多野はグラスを合わせると、一気に飲み干した。

「あぁ~美味しいっ!早く食べよっ!オバサンの作る料理はどれも美味しいから」

波多野はナポリタン、アネキはハンバーグセット、僕はカレーを食べた。

「アネキ、顔赤いぞ。もう、ビール飲むな」

ビールをちょっと口にしただけで、姉の顔が真っ赤になった。


「らいじょーぶ!このぐらいじゃ、酔っぱらわないもんれ~」

既に酔いが回ってる。

いくら何でも、弱すぎだろ…

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