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昇降口を出ていつもの帰り道から少しそれて学校の近くにあるショッピングセンターに向かう。姉から予約していた本を受け取って欲しいと頼まれたからだ。バイトがあって閉店時間に間に合わないからお願いって言われて引き受けたけど、まさかBL漫画じゃないよね? もしそうなら滅茶苦茶恥ずかしいんだけど…。
書店のレジで姉から渡されたレシートの貼ってある受取証を渡して本を受け取った。袋に入れられてて中身は見えない。うーん、怪しいけどこれじゃあわからない。
せっかく立ち寄ったし店内を少しだけ見て回ってから書店を出た。家に向かって歩き始めてすぐに後ろから手首を掴まれてびっくりして振り向いたら井上君だった。眉がよっていて怒っているように見える。なんだろう? まさか山田君を手伝わずに帰ったから怒ってやって来たとかじゃないよね?
「井上君? えっと、なに?」
手を離さないまま怒った顔の井上君が目を合わせずに言ってきた。
「俺はずっと友達付き合いしてるつもりだったんだ。…そんなに、嫌だったのかよ」
……なに、それ。いじめてる側は悪気が無い事があるって聞いたことあるけど、そういう事なのか? なんか、凄くムカムカする。だから、初めて言い返してしまった。
「…嫌だった。当たり前だろ」
「なら、そう言えばいいだろ! なんでっ」
言いながら強い力で握った腕を引かれてちょっと足がもつれる。
「痛っ! 離せ!」
腕を離して欲しくて力を入れてもひ弱な僕じゃ敵わない。やっぱり陰キャが慣れない事をしても駄目だったって思っていたら、そんな僕達に気付いて声をかけてくれた人がいた。
「おい、通学路で喧嘩はダメだぞ」
「お前はまずその手を離せ。痛がってるだろ?」
声をかけてくれた二人は同じ男子校の上級生だった。しかもこの二人、生徒会長の高橋さんと副会長の渡辺さんじゃないか。そんな二人の登場に井上君も手を離して黙り込んだ。
「ありがとうございます。助かりました」
僕が二人にお礼を言ったら井上君が俯いていた顔を上げてこっちを見た。その顔は傷ついたような表情をしていて、それにもなんだかムカムカした。なんで? 傷ついていたのは僕の方だ。もやもやしながら掴まれて痛かった手首をさすっていたら高橋さんが僕の顔を覗き込んできた。
「君は一年の小林くんだよね? 隠れひ、っと、あぶな。言っちゃうとこだった」
「隠れ…ひ?」
「なんでもないよ。それより大丈夫? 握られたところが痛むの?」
高橋さんは僕の事を知っているみたいだけど身に覚えが無い。戸惑っていたら心配そうに僕の手を取って少し赤くなっている手首を見た。そうしたら井上君が「触るなっ」ってちょっと大きな声を出したからビクッと身体が跳ねてしまった。そんな僕を庇うように上級生二人が間に入ってくれる。
「怖がってるじゃないか。それに君が強く握ったから小林君の手首、赤くなってる。まず謝るのが先なんじゃないのか?」
「大方抜け駆けしようとして嫌がられたんだろう?」
「ち、違う! 俺はわかってなかったから確かめてただけで、……悪かった」
渡辺さんが言った抜け駆けって言うのが良く解らなかったけど、井上君が反論して最後は多分僕に向かって謝ってから走って離れて行ってしまった。
でもこれでいつも僕に絡んできてた三人全員が謝ってきた事になる。佐藤君と恋人になってちょっと庇って貰っただけなのにこんなに変わるものなのか?
「もしかして、今までもこういう事があったのかい?」
ぼんやり考えていたら高橋さんに聞かれて、渡辺さんも僕の事を見ている。
「いえ、いつもは、購買に買いに行かされたりとか、揶揄われたり、とかで…」
どう説明したらいいのかわからない。さっき井上君に言われたように僕が拒否したり言い返していれば済んだことなのかなって思えてきた。でも陰キャにはハードルが高くて出来なかったんだ。
「あ~、これは…」
「ああ、大体想像がつくな」
落ち込んでいたら高橋さんと渡辺さんが妙に納得したような様子で頷き合っている。
「想像がつくん、ですか?」
「小林君、さっき彼も謝っていたし明日からはそういうの無くなると思うよ」
「まだ何か言って来たりトラブルがあるようなら生徒会に相談においで」
「…はい、ありがとうございます」
笑顔で去って行く二人になんだかはぐらかされた気がする。
***
翌日教室に行くといつもなら「鞄がやたらでかく見えるな」とか「寝ぐせ笑える」とかって揶揄って来る三人が何も言ってこない。まあ、確かに僕はチビでガリだし、くせっ毛なんだけどさ。
「小林、おはよう。…昨日、大丈夫だったのか?」
「佐藤君、おはよう。昨日?」
机に鞄を置いたら佐藤君が席まで来て、チラッと例の三人の方を見てから小声で聞いて来た。それって井上君に絡まれた事だと思うけど、なんで知ってるんだろう。僕も他の人に聞こえない様に佐藤君の耳の側に手を添えて小声で話した。
「…井上君の事? 偶然通りかかった上級生が間に入ってくれたから平気だよ」
僕が佐藤君に話しかけたら教室内がざわついたのを感じた。え? 何があったの?
状況がわからなくて佐藤君を見上げたら口元を手で押さえて赤くなっていてますます混乱してしまう。…ん? 今「佐藤シメル」って聞こえたような…。
色々疑問に思うことがあるのに先生が教室に入って来てしまって全部が中断してしまった。でもそろそろテストもあるから授業はちゃんと聞いておかないとまずい。
気にはなるけど集中しないと…。
そして高橋さんが言った通り休み時間になっても三人に絡まれる事が無くなった。
昼休みも声をかけてくる様子が無いから誘ってくれた佐藤君と購買に向かう。そういえば、また一緒に食べるなら教室はやめた方がいいよな。
「佐藤君、ご飯一緒に食べるなら中庭に行こう? 教室だと通行妨害になるみたいで人にぶつかるだろ?」
「え? …あ、そうだな。うん、中庭に行こう!」
今日は焼きそばパンとクリームパン、それと紙パックのミルクティーを買って佐藤君と中庭に向かった。この学校の中庭は結構広いし花壇に綺麗な花が咲いていて所々にベンチがある。購買からも近くてここでお昼ご飯を食べる人がいるのを知っていたので佐藤君を誘ってみたんだ。
空いていたベンチに座ってさっそく焼きそばパンに齧りつく。ここの焼きそばパンはキャベツがシャキシャキしてて美味しいんだよな。ボリュームもあるし紅ショウガがちょっと多めなのも好みだ。
食べながら佐藤君がゲームやドラマの話を振ってくれたけどあんまり知らないから相槌を打つことしか出来ない。
「小林はあんまドラマ見ないの?」
「そうだね、映画は見るけど、うわっ⁉」
突風に食べ終わったパンの空き袋が飛ばされそうになって慌てて押さえた。今日はちょっと風が強めに吹いていて花壇の花も揺れている。袋が飛ばされちゃうしまだ昼休み時間は残っているけど食べ終わったら教室に帰る事にした。
「佐藤。お前どこで昼飯食ってたんだよ?」
「別にどこでもいいだろっ」
教室に帰ると沢田君が佐藤君を捕まえて教室の後ろの方へ連れて行き同じバスケ部の生徒達とじゃれはじめた。佐藤君、ヘッドロックされてる。運動部のじゃれ合いは激しいな。横目で見ながら午後の授業の準備をしていたら予鈴が鳴った。
そして授業が終わっても絡まれる事が無いから直ぐに帰る事が出来た。
書店のレジで姉から渡されたレシートの貼ってある受取証を渡して本を受け取った。袋に入れられてて中身は見えない。うーん、怪しいけどこれじゃあわからない。
せっかく立ち寄ったし店内を少しだけ見て回ってから書店を出た。家に向かって歩き始めてすぐに後ろから手首を掴まれてびっくりして振り向いたら井上君だった。眉がよっていて怒っているように見える。なんだろう? まさか山田君を手伝わずに帰ったから怒ってやって来たとかじゃないよね?
「井上君? えっと、なに?」
手を離さないまま怒った顔の井上君が目を合わせずに言ってきた。
「俺はずっと友達付き合いしてるつもりだったんだ。…そんなに、嫌だったのかよ」
……なに、それ。いじめてる側は悪気が無い事があるって聞いたことあるけど、そういう事なのか? なんか、凄くムカムカする。だから、初めて言い返してしまった。
「…嫌だった。当たり前だろ」
「なら、そう言えばいいだろ! なんでっ」
言いながら強い力で握った腕を引かれてちょっと足がもつれる。
「痛っ! 離せ!」
腕を離して欲しくて力を入れてもひ弱な僕じゃ敵わない。やっぱり陰キャが慣れない事をしても駄目だったって思っていたら、そんな僕達に気付いて声をかけてくれた人がいた。
「おい、通学路で喧嘩はダメだぞ」
「お前はまずその手を離せ。痛がってるだろ?」
声をかけてくれた二人は同じ男子校の上級生だった。しかもこの二人、生徒会長の高橋さんと副会長の渡辺さんじゃないか。そんな二人の登場に井上君も手を離して黙り込んだ。
「ありがとうございます。助かりました」
僕が二人にお礼を言ったら井上君が俯いていた顔を上げてこっちを見た。その顔は傷ついたような表情をしていて、それにもなんだかムカムカした。なんで? 傷ついていたのは僕の方だ。もやもやしながら掴まれて痛かった手首をさすっていたら高橋さんが僕の顔を覗き込んできた。
「君は一年の小林くんだよね? 隠れひ、っと、あぶな。言っちゃうとこだった」
「隠れ…ひ?」
「なんでもないよ。それより大丈夫? 握られたところが痛むの?」
高橋さんは僕の事を知っているみたいだけど身に覚えが無い。戸惑っていたら心配そうに僕の手を取って少し赤くなっている手首を見た。そうしたら井上君が「触るなっ」ってちょっと大きな声を出したからビクッと身体が跳ねてしまった。そんな僕を庇うように上級生二人が間に入ってくれる。
「怖がってるじゃないか。それに君が強く握ったから小林君の手首、赤くなってる。まず謝るのが先なんじゃないのか?」
「大方抜け駆けしようとして嫌がられたんだろう?」
「ち、違う! 俺はわかってなかったから確かめてただけで、……悪かった」
渡辺さんが言った抜け駆けって言うのが良く解らなかったけど、井上君が反論して最後は多分僕に向かって謝ってから走って離れて行ってしまった。
でもこれでいつも僕に絡んできてた三人全員が謝ってきた事になる。佐藤君と恋人になってちょっと庇って貰っただけなのにこんなに変わるものなのか?
「もしかして、今までもこういう事があったのかい?」
ぼんやり考えていたら高橋さんに聞かれて、渡辺さんも僕の事を見ている。
「いえ、いつもは、購買に買いに行かされたりとか、揶揄われたり、とかで…」
どう説明したらいいのかわからない。さっき井上君に言われたように僕が拒否したり言い返していれば済んだことなのかなって思えてきた。でも陰キャにはハードルが高くて出来なかったんだ。
「あ~、これは…」
「ああ、大体想像がつくな」
落ち込んでいたら高橋さんと渡辺さんが妙に納得したような様子で頷き合っている。
「想像がつくん、ですか?」
「小林君、さっき彼も謝っていたし明日からはそういうの無くなると思うよ」
「まだ何か言って来たりトラブルがあるようなら生徒会に相談においで」
「…はい、ありがとうございます」
笑顔で去って行く二人になんだかはぐらかされた気がする。
***
翌日教室に行くといつもなら「鞄がやたらでかく見えるな」とか「寝ぐせ笑える」とかって揶揄って来る三人が何も言ってこない。まあ、確かに僕はチビでガリだし、くせっ毛なんだけどさ。
「小林、おはよう。…昨日、大丈夫だったのか?」
「佐藤君、おはよう。昨日?」
机に鞄を置いたら佐藤君が席まで来て、チラッと例の三人の方を見てから小声で聞いて来た。それって井上君に絡まれた事だと思うけど、なんで知ってるんだろう。僕も他の人に聞こえない様に佐藤君の耳の側に手を添えて小声で話した。
「…井上君の事? 偶然通りかかった上級生が間に入ってくれたから平気だよ」
僕が佐藤君に話しかけたら教室内がざわついたのを感じた。え? 何があったの?
状況がわからなくて佐藤君を見上げたら口元を手で押さえて赤くなっていてますます混乱してしまう。…ん? 今「佐藤シメル」って聞こえたような…。
色々疑問に思うことがあるのに先生が教室に入って来てしまって全部が中断してしまった。でもそろそろテストもあるから授業はちゃんと聞いておかないとまずい。
気にはなるけど集中しないと…。
そして高橋さんが言った通り休み時間になっても三人に絡まれる事が無くなった。
昼休みも声をかけてくる様子が無いから誘ってくれた佐藤君と購買に向かう。そういえば、また一緒に食べるなら教室はやめた方がいいよな。
「佐藤君、ご飯一緒に食べるなら中庭に行こう? 教室だと通行妨害になるみたいで人にぶつかるだろ?」
「え? …あ、そうだな。うん、中庭に行こう!」
今日は焼きそばパンとクリームパン、それと紙パックのミルクティーを買って佐藤君と中庭に向かった。この学校の中庭は結構広いし花壇に綺麗な花が咲いていて所々にベンチがある。購買からも近くてここでお昼ご飯を食べる人がいるのを知っていたので佐藤君を誘ってみたんだ。
空いていたベンチに座ってさっそく焼きそばパンに齧りつく。ここの焼きそばパンはキャベツがシャキシャキしてて美味しいんだよな。ボリュームもあるし紅ショウガがちょっと多めなのも好みだ。
食べながら佐藤君がゲームやドラマの話を振ってくれたけどあんまり知らないから相槌を打つことしか出来ない。
「小林はあんまドラマ見ないの?」
「そうだね、映画は見るけど、うわっ⁉」
突風に食べ終わったパンの空き袋が飛ばされそうになって慌てて押さえた。今日はちょっと風が強めに吹いていて花壇の花も揺れている。袋が飛ばされちゃうしまだ昼休み時間は残っているけど食べ終わったら教室に帰る事にした。
「佐藤。お前どこで昼飯食ってたんだよ?」
「別にどこでもいいだろっ」
教室に帰ると沢田君が佐藤君を捕まえて教室の後ろの方へ連れて行き同じバスケ部の生徒達とじゃれはじめた。佐藤君、ヘッドロックされてる。運動部のじゃれ合いは激しいな。横目で見ながら午後の授業の準備をしていたら予鈴が鳴った。
そして授業が終わっても絡まれる事が無いから直ぐに帰る事が出来た。
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