罰ゲームから始まる陰キャ卒業

negi

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 今日からテスト期間だ。うちの高校はまあまあ進学校だからテストがはじまる五日前からテスト期間として部活動が禁止になる。僕はまだ一年だけど希望する大学に受かるためには今から頑張っておかないとって思っている。


 お昼休み、また佐藤君とご飯を食べる為に中庭に来た。既にほとんどのベンチが埋まっていて、少し歩いて空いているベンチを見つけて座ることになった。
 今日はコロッケパンとメロンパン、そしていつものミルクティーを買った。メロンパンは売り切れている事が多い人気商品なので買えてラッキーだった。ここのメロンパンは中身がフワフワで外側のクッキー部分との相性も抜群なんだ。コロッケパンを食べ終えて早速噛り付く。フワフワで美味しい! ミルクティーとも合う。

「今日から部活が無いから一緒に帰れるようになるな」

「えっ? …うん、そうだね」

 つい食べる事に集中していたら佐藤君に嬉しそうに言われて複雑な気持ちが湧いてきた。嘘の告白に嘘で答えてちょっと庇ってもらったら何故だかいじめが無くなった。この関係はいつまで続ければいいのかがわからない。

 そんなことを考えながらモソモソと食べていた僕の隣にいきなり座って来た人がいて、びっくりして横を見たら生徒会長の高橋さんだった。手にはパンと飲み物を持っている。ここのベンチは大きいから確かに幅は余っていたけど、他に空いているところが無かったんだろうか? 何故か僕の事を知っているらしい高橋さんが食べながら話しかけてきた。

「昼休みに小林君をここで見たのは初めてだ。いつもは教室で食べているのかな?」

「あ、はい。昨日からここでお昼を食べてます。高橋先輩はいつもここで?」

「昨日? そうか、昨日は風が強かったからここに来るのをやめたんだよな…。それより俺の名前知ってるんだ。嬉しいな」

「もちろん知っています。生徒会長ですから」

 こちらを見ている高橋さんは笑顔で凄く嬉しそうだ。生徒会長で有名人だと思うのに、一生徒が名前を知っているだけでそんなに嬉しいものなのかな? 頭に疑問符が浮かぶ僕を何故か高橋さんが誘ってきた。

「これからもお昼はここで食べるならこのベンチで待ち合わせしないか? 小林君と色々話してみたいんだ。どうかな?」

「待ち合わせ? あの…」

 なんでそうなるのか戸惑っている僕の肩を佐藤君が掴んで自分の方に引っ張るから持っていたメロンパンを落としそうになった。慌てて握ってしまったからせっかくのフワフワが少しつぶれちゃったよ。何するんだって佐藤君を見上げたら強張った顔で高橋さんの事を睨んでいた。

「小林は俺と付き合っているんで! そういうのは駄目ですっ」

 佐藤君っ、何言ってんの!? 罰ゲームなんだからそんな事までする必要ないだろ? パニックになっている僕に眉を顰めた高橋さんが聞いてきた。

「付き合っている? 小林君、それは本当かい?」

「違います! いや、違わないのか? でも、罰ゲームだから本当じゃ無くってっ、」

「罰ゲーム?」

 ……あ、言ってしまった。うわぁぁ、どうしよう!!

 恐る恐る佐藤君を見たら愕然としていて、余程バレない自身があったみたいだ。まあ演技上手かったもんな。えええ、これもうどうしたらいいのぉぉ!

「佐藤君ごめん! 僕、告白が罰ゲームなの知ってたんだ! 佐藤君が恋人のふりをしてくれる間はあの三人から庇ってもらえるかなって思ってOKしちゃったんだ。もうこれからは無理しなくていいよ。色々と本当にごめん!」

 テンパった僕は全部ぶちまけて謝りたおした。もうそれしかないと思ったから。

「知っていた…、恋人のふり…」

 相当ショックっだったようで呆然と呟いている佐藤君の様子に申し訳なくてオロオロしていたら、高橋さんの吹出す声が聞こえた。

「ふふ、そうか、罰ゲームの告白だったのか。なら恋人でも何でもないね。じゃあ、俺とここで待ち合わせしても問題ないんじゃない?」

 え? なんでそうなるんだ? 僕の頭にまた疑問符が浮かぶ。


「「「「 ちょっと待ったぁぁ!! 」」」」


 いきなりの叫び声と共にわらわらとクラスメイト達がベンチの周りにやって来た。
一体どこに隠れていたんだ? あれ? 他のクラスも混ざってるな。そして口々に良くわからない事を言い出した。

「小林にちょっかいをかけないで下さい!」

「横から攫うなんて酷いです!」

「俺達が見守っているんだからそっとしておいて下さい!」

「上級生だからって俺達の姫に手を出すなんて!」

「「「「 馬鹿! それは言うなっ! 」」」」


「………姫?」


 まだ立ち直れていない佐藤君以外の全員がしまったって顔をして僕を見ている。


「姫…」

 姫ってあれだよね? 男子校の中で可愛い人がそう呼ばれてるんだっけ? 姫ポジ?
確か同じ学年にも凄く可愛くてそう呼ばれている人がいたはず。陰キャの僕と違っていつも友達に囲まれててニコニコしてる人。

「それって、B組の牧野君のことじゃないの?」

 僕の言葉に周りがお互い目配せしてどうしようって顔になっているなか、隣の高橋さんが大きく息を吐き出したのが解った。

「小林君も姫なんだよ。それも隠れ姫って言われてる」

「ちょっ、生徒会長!?」

「もう隠しておくの無理でしょ。オープンにした方がお前たちも良いだろ?」

 混乱している僕をおいてなんか勝手に話が進んでいるけど、ちょっと待って欲しい。

「僕が姫って、おかしいよ。そういうのは牧野君みたいな可愛い人が…」

 僕の発言に一斉に皆がこっちを見た。ちょっ、コワ…

「「「「「 小林は可愛いよ! 」」」」」

「同じクラスでどれだけ嬉しかったか!」

「制服やジャージが萌え袖なのも良い!」

「佐藤と付き合うことになった時は本当に悲しかった!」

「「「「 嘘で良かった! 」」」」

 なに? なんなの? 僕の身長が低いから可愛いって勘違いしているんじゃないの? 萌え袖って言われても、Sサイズだとピッタリすぎるし高校に入って成長するのを見越して一つ大きなサイズで揃えたからちょっと長いだけだよ。それに罰ゲームの告白をみんな知ってたって事?
 再びパニックになりかけてる僕に高橋さんが追い打ちをかける。

「小林君は入学して直ぐに俺達上級生の間でも可愛い子がいるって噂になってたんだけど、物静かなタイプだったから隠れ姫だって事になったんだ」

 物静か……陰キャを最上級に言い換えるとそうなるのか? それに、隠れ姫ってなんか余計に恥ずかしい気がする。いたたまれない気持ちになっていたらさっきとは反対側の肩を掴んだ手に引き寄せられて耳のすぐ側で声がした。

「そんな君に、どうやら良くない絡み方をしてるのがいるって知って心配してたんだ。そしたらこんな所で再会出来た。だから声をかけたんだよ」

 あの時助けてくれただけじゃなくてそんな心配までしてくれていたんだ。これは、かなり嬉しいかも。

「高橋先輩…ありがとうございます、うわっ⁉」

「あああ、可愛い! 癒されるっ!」

 ぎゅっと抱きしめられてちょっと苦しい。なんか、従兄の優兄を思い出す。優兄もよくこんな風に抱きしめて「こんな弟欲しい!」って言ってくれたなぁ。

「ちょっ、生徒会長⁉」

「小林を離せ!」

「俺達の姫が!!」

 クラスメイト達が騒ぎ出したら予鈴が鳴った。昼休みが終わっちゃうよ?! 
僕はちょっと潰れたメロンパンを残りのミルクティーで流し込んで急いで食事を済ませ、他の皆も似たり寄ったりで慌てて教室に戻ることになってしまった。



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