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1 プニカメ大作戦
008 この魔王めんどくさい
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あれから、レインの腕の中で組長が寝てしまい、レインは組長のことを離すに離せなくなっていた。そうでなくとも、レインは組長のことを離さなかったかもしれないけれど。
「レインくん――」
「いやです」
私は別にレインと組長を引き離そうとして話しかけたわけではないのだが、レインは警戒心をむき出しにして組長をぎゅっと抱きしめた。
レインの腕の中で安心しきって寝ている組長も可愛いが、プニカメを抱きしめながらむすっとしているレインも可愛い。
普段は表情があまり変わらないレインがこういう表情をするとは珍しい。
ぜひとも写真に収めたいが、あいにくカメラは持っていない。私はこれでも人質だから、生きていくのに必要なものしか持っていないのだ。
「そうじゃなくてね……」
名残惜しいが、可愛いがあふれている空間から視線を動かし――どんよりとした空気が漂う方向へ目を向けた。
「あれ、どうしたらいいの?」
「放っておけばいいです」
レインの一言で、さらに向こうの空気が暗くなった。
少しだけ開いた扉の向こうからレインのことを見ている魔王コスモは、私とレインに気づかれても部屋には入ってこようとしない。
「あんな暗いひとを部屋にいれたら、プニカメにストレスがかかってしまいます」
それはそうだ。向こうに漂う空気は、プニカメだけではなく人間にも悪影響を及ぼしそうなほどに重く曇っている。
「それに、魔王様はぼくの執務室を出禁になっています」
そういえば、そんなことを言っていたような気もする。
コスモはそれを聞いて、ゆっくりと扉を閉めた。
「……あのひと魔王だけど、大丈夫?」
「知りません」
コスモが大丈夫か、ではなく、レインの立場的に大丈夫なのか聞いたのだが。勘違いしたのか、それともコスモに怒っていてそれどころではないのか。
コスモだし、まあいっか。となるのもわかるが、あれでも一応、魔界を治める王なのだ。
コスモを出禁にするのは不敬罪みたいなものに当たらないのだろうか。しかも、魔王軍四天王であるレインがそれをやってしまうのはまずいと思う。
「ちょっと様子を見てくるね」
カオスに怒られて沈んでいるのか、レインに追い出されて沈んでいるのか――どうも気になってしまうため、私は廊下に出て話を聞くことにした。
「コスモさん……えっ、コスモさん!?」
魔王コスモは、まるで魂が抜けたようにへたりと座り込んでいた。
「大丈夫ですか……?」
顔の前で手を振ってみたり、肩を叩いたりしてみたが、反応はない。
「返事がない。ただの屍のようだ」
そう言うと、コスモはふっと顔を動かした。
よかった、生きていた。勇者に倒される前に魔王が死んだなんてことがあったら、どうしようかと思った。
「それ、久しぶりに聞いた」
前にコスモが言っていた、何かの創作物のセリフ。なぜか今でも耳に残っている。
いつものコスモなら笑い転げそうなのに、今はその余裕がないのか少し笑顔を浮かべる程度だった。
「どうしたんですか?」
「僕、絶対レインに嫌われた……」
コスモは泣き出しそうな声でそう言うと、文字通り頭を抱えた。
「今までも嫌われるようなことはしてきたと思うよ? 急に勇者にちょっかいかけようとか言い出したり、全然話を聞いてなかったり、あげるときりがないけど。でもさ、今までは何とかうまくやれてたじゃん。だもんで、さっきのやつであんなに怒るとは思わなくて」
「元気そうですね、戻ります」
私はレインの執務室の扉に触れた。
「シエル? 待って、待って!」
服を掴まれ引き戻される。首が閉まって苦しいし、伸びるからやめてほしい。そんなことを言う間もなく、コスモはまた話し始める。
「もう、どうすればいいんだろう。どうしたら許してもらえると思う? 謝るって言ったって、レインに? 違くない? でもプニカメに謝るってどうすりゃいいの? ごめんなさいって言っても伝わらんら?」
この魔王めんどくさい。
早く癒される空間に戻ろうと、私はコスモにアドバイスをする。
「プニカメちゃんたち、意外と言葉わかるみたいですよ」
「そうなの?」
コスモは、私が言った言葉に食いつくように反応した。
さっきは何をしても返事がない、ただの屍だったのに。レインの言う通り、放っておけばよかった。
「でも、プニカメに謝るにはレインの執務室にいれてもらわんといかんじゃん。なんて言ったらいい?」
「普通に、プニカメに謝りに来たって言えばいいんじゃないかな」
「それでもし聞いてくれんかったら、シエルからもなんか言ってよ。レインはシエルの言うことなら聞いてくれると思うから」
魔王軍四天王が、魔王の言うことを聞かず人質の言うことは聞くって、普通は逆では。
「なんて謝ろう。ごめんなさい、だけでいい?」
「プニカメちゃんたちにごはんあげたり、水槽の掃除をしたりとかもいいんじゃないですか?」
「なるほど。あとは何したらいいかな……」
私はしれっとコスモに仕事を押し付けた。どうやらコスモは気づいていないようだし、これで今日はもう自由だ。
「レインくん――」
「いやです」
私は別にレインと組長を引き離そうとして話しかけたわけではないのだが、レインは警戒心をむき出しにして組長をぎゅっと抱きしめた。
レインの腕の中で安心しきって寝ている組長も可愛いが、プニカメを抱きしめながらむすっとしているレインも可愛い。
普段は表情があまり変わらないレインがこういう表情をするとは珍しい。
ぜひとも写真に収めたいが、あいにくカメラは持っていない。私はこれでも人質だから、生きていくのに必要なものしか持っていないのだ。
「そうじゃなくてね……」
名残惜しいが、可愛いがあふれている空間から視線を動かし――どんよりとした空気が漂う方向へ目を向けた。
「あれ、どうしたらいいの?」
「放っておけばいいです」
レインの一言で、さらに向こうの空気が暗くなった。
少しだけ開いた扉の向こうからレインのことを見ている魔王コスモは、私とレインに気づかれても部屋には入ってこようとしない。
「あんな暗いひとを部屋にいれたら、プニカメにストレスがかかってしまいます」
それはそうだ。向こうに漂う空気は、プニカメだけではなく人間にも悪影響を及ぼしそうなほどに重く曇っている。
「それに、魔王様はぼくの執務室を出禁になっています」
そういえば、そんなことを言っていたような気もする。
コスモはそれを聞いて、ゆっくりと扉を閉めた。
「……あのひと魔王だけど、大丈夫?」
「知りません」
コスモが大丈夫か、ではなく、レインの立場的に大丈夫なのか聞いたのだが。勘違いしたのか、それともコスモに怒っていてそれどころではないのか。
コスモだし、まあいっか。となるのもわかるが、あれでも一応、魔界を治める王なのだ。
コスモを出禁にするのは不敬罪みたいなものに当たらないのだろうか。しかも、魔王軍四天王であるレインがそれをやってしまうのはまずいと思う。
「ちょっと様子を見てくるね」
カオスに怒られて沈んでいるのか、レインに追い出されて沈んでいるのか――どうも気になってしまうため、私は廊下に出て話を聞くことにした。
「コスモさん……えっ、コスモさん!?」
魔王コスモは、まるで魂が抜けたようにへたりと座り込んでいた。
「大丈夫ですか……?」
顔の前で手を振ってみたり、肩を叩いたりしてみたが、反応はない。
「返事がない。ただの屍のようだ」
そう言うと、コスモはふっと顔を動かした。
よかった、生きていた。勇者に倒される前に魔王が死んだなんてことがあったら、どうしようかと思った。
「それ、久しぶりに聞いた」
前にコスモが言っていた、何かの創作物のセリフ。なぜか今でも耳に残っている。
いつものコスモなら笑い転げそうなのに、今はその余裕がないのか少し笑顔を浮かべる程度だった。
「どうしたんですか?」
「僕、絶対レインに嫌われた……」
コスモは泣き出しそうな声でそう言うと、文字通り頭を抱えた。
「今までも嫌われるようなことはしてきたと思うよ? 急に勇者にちょっかいかけようとか言い出したり、全然話を聞いてなかったり、あげるときりがないけど。でもさ、今までは何とかうまくやれてたじゃん。だもんで、さっきのやつであんなに怒るとは思わなくて」
「元気そうですね、戻ります」
私はレインの執務室の扉に触れた。
「シエル? 待って、待って!」
服を掴まれ引き戻される。首が閉まって苦しいし、伸びるからやめてほしい。そんなことを言う間もなく、コスモはまた話し始める。
「もう、どうすればいいんだろう。どうしたら許してもらえると思う? 謝るって言ったって、レインに? 違くない? でもプニカメに謝るってどうすりゃいいの? ごめんなさいって言っても伝わらんら?」
この魔王めんどくさい。
早く癒される空間に戻ろうと、私はコスモにアドバイスをする。
「プニカメちゃんたち、意外と言葉わかるみたいですよ」
「そうなの?」
コスモは、私が言った言葉に食いつくように反応した。
さっきは何をしても返事がない、ただの屍だったのに。レインの言う通り、放っておけばよかった。
「でも、プニカメに謝るにはレインの執務室にいれてもらわんといかんじゃん。なんて言ったらいい?」
「普通に、プニカメに謝りに来たって言えばいいんじゃないかな」
「それでもし聞いてくれんかったら、シエルからもなんか言ってよ。レインはシエルの言うことなら聞いてくれると思うから」
魔王軍四天王が、魔王の言うことを聞かず人質の言うことは聞くって、普通は逆では。
「なんて謝ろう。ごめんなさい、だけでいい?」
「プニカメちゃんたちにごはんあげたり、水槽の掃除をしたりとかもいいんじゃないですか?」
「なるほど。あとは何したらいいかな……」
私はしれっとコスモに仕事を押し付けた。どうやらコスモは気づいていないようだし、これで今日はもう自由だ。
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