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第5章:単身赴任で甲賀を調略しよう!

甲賀行った(か)ら本気出す!

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「いいか黒古。お前はここに隠れていろ。全部、この俺が倒してくるから」

 甲賀軍団100人。
 こいつらとの決闘に使われる刈り取りの終わった狭い田んぼ。
 その中央に小さな小屋がある。
 そこに黒古を待機させる。

 嫌だと言ったが強引に、ここへ連れて来た。御褒美は『信ちゃんと握手』と言ってきた。それだけは「ちょ、待てよ!」と言いたかったが、背に腹は変えられない。

 まあ、岐阜で乗馬しているキム〇クには、100万人近く会いに行きたかったらしいから、このヲタク娘には垂涎の的なのは理解できる。

 これはヲタク同士にしかわからないパトスだ!

「了解ですわ。今から手を洗って待っていますわよ~♪」

 おれは首を洗って待っていないといけないかも。「キンカン!手打ちじゃ。なぜこのような女子、連れて来た!?」とか、絶対に言われそう。

 光秀、まだ死にたくないでござる!

「では、手筈通りに」
「わかったわ」

 真面目になって目を合わせ、がっちり握手。
 俺は外に出る。


 小屋の前には3人の老人が立っている。甲賀の長老的な人なのか?

 伊賀では3家。藤林・百地・服部が合議制で国を取り仕切っているといっていい。
 だけどこの甲賀ではそれぞれの村が自治を行っているために、代表というものはいないはずだが。


「なかなか骨のある者が来ていると聞いたがお主か? まるで子供のような風体。それに面妖な髪色。ただ者では無かろうて」
「そうよの。胆力だけはあると認めようぞ」
「しかし甲賀を侮り過ぎじゃ。100人などいらぬわ。1人でもまだ余るぞ。相手はしてやろう。じゃが、まずは甲賀の若い者を倒して見せよ」


 老人がヘイトっぽいことを言う。
 あ~、もうちょっと憎まれ口叩いてくれないと盛り上がらないんですが。

 近くの畔に隠れていたのか。俺と同じくらいの背丈、若い顔の男が出て来た。ずっとそこに隠れていたのね。ご苦労様。老人はもっと若者を労わりなさい。

「この者。若手組の中でも一番の使い手。見事倒したら、脂ののっている働き手と戦わせてやっても良いぞ」

 その声と同時に、若い奴が苦無を投げてから襲ってきた。

 汚ね~。普通は「はっけよ~い」とか言わね? やっぱり忍者だね。と思っていたら、後ろから手槍。1人と見せかけて後ろから襲って来る、この攻撃。もう何でもあり。

 突いてくる手槍を右脇で抱え込み、後ろから不意打ちをしたやつを槍の遠心力でふき飛ばす。
 チッ。あの爺たち目掛けて飛ばしたけど、逃げられた。

 目の前にいた若い忍者。
 懐から二つ目の苦無を出して投げつけて来る。これで態勢を崩させてバッサリとやる手だね。

「変異抜刀、全力集中、ミスの呼吸。流槌めん!」

 別に飛ばないよ?
 刀から水も出ないし、左右にフラフラもしない。

 ただ言ってみただけは、お約束。
 ヒョイ、っと突進を避けて足を引っかけてもつれさせた。
 ズザ~、っといい効果音と共に消えていく若忍者。

 あ、落ちている忍刀、血がついてるから自分の身体のどこか斬っているね、君。きっとこれって毒塗ってあるよね。今頃、向こうで焦って毒消ししているんでしょう。


「なかなかやるではないか」
「見直したぞ。ではやり手衆のものを相手にしてみよ」
「この者はひと月前まで六角様の護衛していた猛者」


 俺は足で、落ちていた忍刀を軽く蹴りつけ、水路の畔にぶつかるほどの低空をブーメランのように回転させて飛ばした。

 グサッ。

 今度は足かな。
 隠れていた場所から出て来た大人忍者の太腿にざっくりと突き刺さる忍刀。
 悲鳴を上げないのは流石忍者。でも慌てて竹藪に走り込み手当をしている。


「や、やるではないか」
「しかしこの者は倒せぬであろう。お主のような若造には決っして」
「わ、儂もまだまだ若いから苦手よ、ジュルッ」

 風上からいい匂いが。
 いたのは分かっていたけどさ。ついついお楽しみに取って置いたんだ。振り返りそいつを見る。

 いわゆるくノ一です。
 それも一般的なリアルな正史で登場する女忍者ではなく、ぬきゲーやエロマンガで登場するスタイリッシュな装束の、あの人達。

「あなた、強いのね。気に入ったわぁ。きっと夜戦でも強いんでしょ? どう?あたしと対戦してみない? きっと昇天するわよ♪」

 戦艦並みの胸部装甲をちらつかせ、レイテ沖海戦のハルゼー艦隊をトラップにかけるような巧みさで誘って来る。

「肩が張るでしょ、おばさん。あと3年もすれば『垂れる』な」

 暗号という周りくどい方法ではなく、平文で容赦なく現実を突きつける。
 途端に、くノ一の顔が白目に。俺の発したセリフが書かれた稲妻状のとげが、胸部装甲を貫いてバイタルパートにまで突き刺さっているのが目に見える。
 仲間に引きずられて退場していった。


「や、やるではないか」
「しかし次の者は、甲賀四天王の一人。この者が倒せれば、この日ノ本で名が轟こう」
「精々気張るが良い」

 藪に隠れていたらしい大男がすっくと立ちあがり、こちらへ歩いてくる。
 あ~あ、腕が所々赤いよ。藪なんかに隠れているから。だいぶ蚊にくわれたんだね。ちゃんと虫よけスプレーしとくんだよ。

「我が名は、金剛力の運慶! この金棒に当たればどのような鎧も砕けよう!」
「つまり当たらなければ、どうということはない」

 俺はテンプレセリフを言う。
 これは一生のうちで一度は、実戦の時に使いたいセリフ。
 元の世界じゃケンカで勝ったことないからね。きもちいいいいい~~♪

 奴が振り下ろしたでっかい金棒に飛び乗り、宙返り。両刀でうなじの肉を削ぎ取る。やはり巨人を倒す時は、この場所を切り取るのはお決まりの作法です。


「!!!!」
「ま、まだまだ」
「この者は四天王の中でも最弱のもの。次は甲賀最強の……」

「たとえテンプレ儀式でも、もう飽きたよ。まとめてかかってきてよね」


 俺は加速に入るため、奥歯の横のスイッチを舌で押すイメージをした。これは大事な儀式。ルーティーンだ。

 自分が加速スキルを持っていること、色々なヲタクポーズをとっていて分かったんだよ。「へんっしん!」とか「ピンクのハートは愛あるマーク!」とかね。
 これもその一つ。

『甲賀来たから、本気だす』か!
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