追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

文字の大きさ
61 / 66

第61話

しおりを挟む
 第二波侵攻の余波が静まる間もなく、わたくしは次の局面への対応に意識を集中しましたの。

 クロノス機関の意図は、もはや単なる武力侵攻ではありませんわ。都市中枢《アウローラ・ハート》に流れ込む量子情報群の解析結果から、敵が我が未来都市群の存在構造そのものを反転・吸収しようとしていることが見えてきましたの。

 「リゼ、量子干渉帯域での歪曲レベル、再確認なさい」

 「現在レベル7! これ以上進行すれば、都市座標そのものが分解されます!」

 「ならば、座標を固定するしかありませんわ」

 わたくしは魔導演算盤へと手を伸ばし、《次元重鎖固定式・グラントノード》を起動しましたの。空間の繋がりそのものを鎖で縫い止める、わたくしが開発したばかりの術式ですわ。塔の骨格が震えましたが、それでも崩壊は止まりましたの。

 「ふう、座標固定完了。とりあえず、こちらの足場は確保できましたわね」

 リゼがホログラム表示されたマップを睨みながら叫びましたの。

 「しかしお嬢様! 西部区域にて新たな歪曲が発生! しかもこれは……!」

 「何ですの?」

 「転移ゲートを複数起動……敵勢力、同時多発転送で都市内部に侵入を……!」

 「ふふ、今度は同時多面展開で来ましたのね。だとしても、こちらには都市全域に網羅された迎撃網がございますわ」

 わたくしは指を鳴らし、即座に命令を下しましたの。

 「《アウローラ・シールド》を局所解除、転移座標をエネルギーホーミングで囲い込み、敵部隊を封鎖なさい。各エリア防衛隊には即時殲滅プロトコルを」

 「了解!」

 リゼが一斉指令を発信し、都市各区画に設置された魔導演算ノードが稼働を開始しましたの。外周地区から中央中枢に至るまで、あらゆる場所が赤い警告色に染まりましたの。

 「面白くなってまいりましたわ。リゼ、わたくし自らも迎撃に参ります。中枢制御は副補佐官チームへ委譲を」

 「そんな……! お嬢様が前線へ!? 危険すぎます!」

 「それでも行かねばなりませんの。今回の敵、どうも引っかかりますわ。単なる量産機や戦術兵器の進化系ではない、何か別の“意志”を感じますもの」

 わたくしは愛用の魔導手袋を強く握り締めましたの。《プロメテウス》の心臓部に接続し、即時起動モードへと移行。

 「《戦闘装束・ミスティア・エルヴェイン》起動。適合率、百パーセント。全武装、展開完了ですわ」

 全身を覆う軽量装甲が展開し、魔力伝導体で編まれたローブがはためきましたの。視界が切り替わり、敵の存在波動が精密に浮かび上がってまいりましたわ。

 「第一接敵地点、西部第七工業区。そこに何かがございますの」

 わたくしは跳躍し、空間を飛び越えて転移いたしましたの。次元座標を跨ぐ感覚にもはや慣れておりますわ。数秒後、わたくしは現地へと到達。

 「……これは」

 そこには、見慣れた装備を纏った敵機体群ではなく、まるで生き物のように蠢く有機金属構造体――まるで、人工的に進化させられた生命体のような存在が蠢いておりましたの。

 「これはただの兵器ではありませんわね。半生命体……いえ、“時空寄生型生命機構”とでも呼ぶべきかしら」

 その一体が、わたくしを見据えるようにこちらへと向かってきましたの。

 「……言葉を理解するかしら? 貴様、どこから現れたの?」

 返答はありませんでしたが、代わりに精神波動のようなものが脳に直接届きましたの。

 ――“原初因果核ノ在処、報告ヲ要請ス。セラフィム消失確認。次ノ調律対象、エリス・フォン・グリムヴァルト。抹消優先度、最大。”

 「……あらあら。ずいぶんと失礼な挨拶ですこと」

 わたくしは即座に《虚数反射陣・イレヴン・レイヤ》を展開し、敵が放ってきた精神干渉波を跳ね返しましたの。すると、その存在が急激に体表を変化させ、巨大な刃のような触手を展開しましたの。

 「なるほど、今度は物理的手段ですのね。ですが、それではわたくしには届きませんわ」

 《反重力斥力推進・ゼフィルドシステム》を起動、重力場の支配領域から脱出しながら、わたくしは右腕に《拡張戦術武装・ヘリオスフレア》を生成しましたの。

 「この一撃、受け止めてみなさい!」

 炸裂する熱量の奔流が、敵の体表を貫きましたの。しかし、次の瞬間、奴は傷ついた箇所を自己再構成し、再び形を戻しましたの。

 「自己修復能力まで……いや、これは記憶を伴う自己適応型? まるで学習しているようですわね」

 リゼの声が通信越しに飛び込んできましたの。

 「お嬢様! 都市内に散見される同様の構造体、全てが同じ信号パターンを持っています! おそらくこの個体がコアです!」

 「コアね……ならば、ここで叩き潰すしかありませんわ」

 わたくしは剣型魔導兵装《ソル=リベリオン》を召喚し、全身の演算リソースを攻撃に特化しましたの。

 「未来を創る者の剣、見せて差し上げますわ!」

 突撃。

 刹那の交錯。

 触手が放つ時間差攻撃を《時空位相解析シールド》で受け流し、空中で剣を旋回させながらカウンターを放ちましたの。

 「滅びなさい、《断因果・ソルフレア》!」

 剣から放たれた光が敵コアに直撃し、粒子崩壊が始まりましたの。奴の精神波動が断末魔のように乱れ、周囲の従属体も次々と沈黙していきましたわ。

 「……これで一掃ですわね」

 ですが、わたくしの視界に警告が飛び込んできましたの。

 「……! リゼ、新たな波動反応、今の十倍規模。何ですの、これは?」

 「解析不能……ですが、おそらく“本体”です!」

 「まったく、次から次へと……よろしいですわ。迎えて差し上げます」

 新たなる敵の出現を前にしても、わたくしは微塵も怯えず、むしろ胸の高鳴りを抑えきれませんでしたの。敵の正体、クロノス機関の真なる切り札――それを打ち破ってこそ、未来はわたくしたちの手にございますもの。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...