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レオニール様はパンを使い、お皿のソースを最後の一滴まで拭い取りました。
そして満足したように、一つため息をもらします。
「アニエス」
「はい」
「お前は天才だ、こんな料理は王宮の食事会でも出ないぞ」
彼がそんな風に、人を褒めるのを初めて聞きました。
ゲルトさんも隣で、何度も頷いています。
「誠に、アニエス様は食の女神様に違いありません。このゲルト、一生ついて参ります」
「そ、そんな、大げさですよ」
二人の素晴らしい賞賛に、私は少し照れてしまいました。
でも自分の料理でこうして人が喜んでくれるのは、やはり何よりの喜びです。
霜降りトロールの飼育場の建設は、とても順調に進んでいきました。
職人たちは私の設計図に忠実に、そしてそれ以上の工夫をして素晴らしい施設を作ってくれます。
私も毎日現場に顔を出し、作業の進み具合を確認しました。
時には職人たちと、一緒にお昼ご飯を食べたりもします。
メニューは、もちろん私が作った賄い料理です。
カブとジャガイモの炒め物や、干し肉のスープなどでした。
特別なものでは、決してありません。
でも皆で一緒に食べると、不思議と美味しく感じられました。
「親方の飯は、本当に最高だな」
「ああ、これを食べるために仕事に来ているようなものだ」
最初は私を遠くから見ていた職人たちも、だんだんと私に心を開いてくれます。
彼らは私のことを「奥様」ではなく、「アニエス親方」と呼ぶようになりました。
なんだか、少しくすぐったい気持ちです。
飼育場の建設と同時に、私はもう一つの計画を始めていました。
それは、この領地の農業を根本から変えることです。
飼育するトロールの餌となるカブを、安定して大量に生産する必要がありました。
そのためには、今の痩せた畑をもっと豊かにしなければなりません。
私は領地に住む農家の人たちを、お城の広場に集めてもらいました。
突然の呼び出しに、彼らは不安そうな顔をしています。
それも、無理はありません。
これまで領主様が、直接農家の人に話しかけることなどほとんどなかったのですから。
私は彼らの前に立つと、にっこりと微笑みかけました。
「皆さん、こんにちは。アニエス・ド・ヴェルフォールです。今日は皆さんと一緒に、このヴァインベルクの畑をもっと元気にする方法を考えたいと思います」
私の言葉に、農家の人たちはきょとんとしています。
私は彼らに分かりやすい言葉で、連作障害の危険性と土壌改良の大切さを説明しました。
そして具体的な方法として、「輪作」と「堆肥作り」を提案します。
「輪作、でございますか」
年配の農家の人が、不思議そうに尋ねました。
「はい。毎年同じ作物を作るのではなく、カブ、ジャガイモ、そして私が新しく持ってきた寒さに強い麦や豆を順番に植えるのです。そうすることで、土の中の栄養が偏るのを防げます」
「堆肥、というのは」
「城の馬小屋から出る馬糞や、厨房から出る野菜くず、そして森の落ち葉などを混ぜて発酵させるのです。それは、畑にとって最高のごちそうになります」
私の説明に、農家の人たちはざわざわとささやき合いました。
彼らにとってそれは、聞いたこともないような新しい農法だったのです。
信じられない、という顔をしている人もいました。
「ですが奥様、我々は昔からこのやり方でやってきました。今さら変えるなど」
一人の農家の人が、不安そうに言いました。
私は、その気持ちがよく分かります。
長年続けてきたやり方を、変えるのは勇気がいることです。
「もちろん、無理にお願いはしません。ですが試しに畑のほんの一部だけでも、私に任せてはいただけないでしょうか。必ず今よりも、たくさんの作物を収穫させてみせますから」
私は、深々と頭を下げました。
私の真剣な態度に、農家の人たちは心を動かされたようです。
彼らはしばらく話し合った後、代表の老人が私の前に進み出ました。
「分かりました、奥様。あなたの言う通りに、やってみましょう」
「本当ですか」
「はい。あなたは我々に、美味しい食事を与えてくださった。あなたを、信じてみます」
その言葉が、本当に嬉しかったです。
私は農家の人たちと一緒に、早速堆肥作りを始めました。
最初は汚い作業を嫌がっていた人もいましたが、私が進んで馬糞を運んだり野菜くずを混ぜたりするのを見ていました。
すると、彼らの態度も変わっていきます。
子供たちも、面白がって手伝ってくれるようになりました。
彼らは、私にとても懐いてくれています。
「アニエス様、見て。大きなミミズを見つけたよ」
「まあ、すごいわね。ミミズさんは、土をふかふかにしてくれる大切なお友達よ」
そんな風に子供たちと笑い合っていると、遠くからレオニール様がその様子をじっと見ていることに気づきました。
目が合うと彼は、少し気まずそうに顔をそらしてしまいます。
なんだか、可愛らしい人だなと思ってしまいました。
ある日の夕方、私が厨房で夕食の準備をしているとレオニール様がやってきました。
「少し、良いか」
「はい、もちろんです。どうかしましたか」
「いや、お前が、農家の人たちと楽しそうに話しているのを見てな」
彼は、少し言葉に詰まっています。
「あの者たちが、あんなに笑っているのを俺は初めて見た」
「そうですか」
「ああ。この領地は、いつも冬のように凍てついていた。だがお前が来てから、少しずつ氷が溶け始めたような気がする」
彼はそう言うと、私の隣に並んで鍋の中をのぞき込みました。
今日のメニューは、カブの葉と干し肉の炒め物です。
「美味そうな、匂いだ」
「ふふ、もうすぐできますから待っていてくださいね」
そんな穏やかな時間が、私はとても好きでした。
数週間後、トロールの飼育場と堆肥を寝かせておく小屋が見事に完成します。
そして私の指導のもと、領地の農業改革が本格的に始まりました。
そんなある夜のことです。
私は夜食のスープを持って、レオニール様の仕事部屋を訪れました。
彼は机の上に山と積まれた羊皮紙を前に、難しい顔でうなっています。
「レオニール様、お夜食です。少し休憩してはいかがですか」
「ああ、すまない」
彼は私が差し出したスープを受け取ると、こくりと一口飲みました。
そして、ほうと深いため息をつきます。
「何か、お悩み事ですか」
私が尋ねると、彼は困ったように頭をかきました。
「いや、大したことではない。ただ、この領地の財政が昔から大変でな」
彼はそう言って、目の前の羊皮紙の束を指差しました。
それは、このヴァインベルク辺境領の会計帳簿のようでした。
私は興味がわいて、その帳簿を少しのぞかせてもらいます。
そこには収入と支出の項目が、ただ長々と書き並べてあるだけでした。
いつどこからいくらお金が入り、いつ何にいくら使ったのか。
その流れが、非常に分かりにくいです。
これでは、経営の状態を正確に知ることなど到底できません。
前世で遊んだ経営シミュレーションゲームでは、まずこの会計の仕組みを改善することから始まりました。
「あの、レオニール様」
「なんだ」
「この帳簿の付け方なのですが、少しだけ分かりにくいかもしれません」
私の言葉に、彼は不思議そうな顔をしました。
「そうか、俺はずっとこのやり方だが」
「もしよろしければ私が、もっと効率的な記録の方法をお教えしましょうか。お金の流れを二つの面から記録するのです。そうすれば、何にどれだけのお金が動いているのか一目で分かるようになりますよ」
私は、新しいお金の管理方法の基本的な考えを彼に説明し始めました。
資産、負債、資本、収益、費用。
それらの関係性を図に描きながら、示していきます。
レオニール様は最初こそ、全く分からないという顔をしていました。
しかし私の説明を聞くうちに、その青い瞳がだんだんと知的な輝きを帯びていくのが分かりました。
彼は私が当たり前のように使っている経営の知識に、驚きを隠せないようでした。
そして満足したように、一つため息をもらします。
「アニエス」
「はい」
「お前は天才だ、こんな料理は王宮の食事会でも出ないぞ」
彼がそんな風に、人を褒めるのを初めて聞きました。
ゲルトさんも隣で、何度も頷いています。
「誠に、アニエス様は食の女神様に違いありません。このゲルト、一生ついて参ります」
「そ、そんな、大げさですよ」
二人の素晴らしい賞賛に、私は少し照れてしまいました。
でも自分の料理でこうして人が喜んでくれるのは、やはり何よりの喜びです。
霜降りトロールの飼育場の建設は、とても順調に進んでいきました。
職人たちは私の設計図に忠実に、そしてそれ以上の工夫をして素晴らしい施設を作ってくれます。
私も毎日現場に顔を出し、作業の進み具合を確認しました。
時には職人たちと、一緒にお昼ご飯を食べたりもします。
メニューは、もちろん私が作った賄い料理です。
カブとジャガイモの炒め物や、干し肉のスープなどでした。
特別なものでは、決してありません。
でも皆で一緒に食べると、不思議と美味しく感じられました。
「親方の飯は、本当に最高だな」
「ああ、これを食べるために仕事に来ているようなものだ」
最初は私を遠くから見ていた職人たちも、だんだんと私に心を開いてくれます。
彼らは私のことを「奥様」ではなく、「アニエス親方」と呼ぶようになりました。
なんだか、少しくすぐったい気持ちです。
飼育場の建設と同時に、私はもう一つの計画を始めていました。
それは、この領地の農業を根本から変えることです。
飼育するトロールの餌となるカブを、安定して大量に生産する必要がありました。
そのためには、今の痩せた畑をもっと豊かにしなければなりません。
私は領地に住む農家の人たちを、お城の広場に集めてもらいました。
突然の呼び出しに、彼らは不安そうな顔をしています。
それも、無理はありません。
これまで領主様が、直接農家の人に話しかけることなどほとんどなかったのですから。
私は彼らの前に立つと、にっこりと微笑みかけました。
「皆さん、こんにちは。アニエス・ド・ヴェルフォールです。今日は皆さんと一緒に、このヴァインベルクの畑をもっと元気にする方法を考えたいと思います」
私の言葉に、農家の人たちはきょとんとしています。
私は彼らに分かりやすい言葉で、連作障害の危険性と土壌改良の大切さを説明しました。
そして具体的な方法として、「輪作」と「堆肥作り」を提案します。
「輪作、でございますか」
年配の農家の人が、不思議そうに尋ねました。
「はい。毎年同じ作物を作るのではなく、カブ、ジャガイモ、そして私が新しく持ってきた寒さに強い麦や豆を順番に植えるのです。そうすることで、土の中の栄養が偏るのを防げます」
「堆肥、というのは」
「城の馬小屋から出る馬糞や、厨房から出る野菜くず、そして森の落ち葉などを混ぜて発酵させるのです。それは、畑にとって最高のごちそうになります」
私の説明に、農家の人たちはざわざわとささやき合いました。
彼らにとってそれは、聞いたこともないような新しい農法だったのです。
信じられない、という顔をしている人もいました。
「ですが奥様、我々は昔からこのやり方でやってきました。今さら変えるなど」
一人の農家の人が、不安そうに言いました。
私は、その気持ちがよく分かります。
長年続けてきたやり方を、変えるのは勇気がいることです。
「もちろん、無理にお願いはしません。ですが試しに畑のほんの一部だけでも、私に任せてはいただけないでしょうか。必ず今よりも、たくさんの作物を収穫させてみせますから」
私は、深々と頭を下げました。
私の真剣な態度に、農家の人たちは心を動かされたようです。
彼らはしばらく話し合った後、代表の老人が私の前に進み出ました。
「分かりました、奥様。あなたの言う通りに、やってみましょう」
「本当ですか」
「はい。あなたは我々に、美味しい食事を与えてくださった。あなたを、信じてみます」
その言葉が、本当に嬉しかったです。
私は農家の人たちと一緒に、早速堆肥作りを始めました。
最初は汚い作業を嫌がっていた人もいましたが、私が進んで馬糞を運んだり野菜くずを混ぜたりするのを見ていました。
すると、彼らの態度も変わっていきます。
子供たちも、面白がって手伝ってくれるようになりました。
彼らは、私にとても懐いてくれています。
「アニエス様、見て。大きなミミズを見つけたよ」
「まあ、すごいわね。ミミズさんは、土をふかふかにしてくれる大切なお友達よ」
そんな風に子供たちと笑い合っていると、遠くからレオニール様がその様子をじっと見ていることに気づきました。
目が合うと彼は、少し気まずそうに顔をそらしてしまいます。
なんだか、可愛らしい人だなと思ってしまいました。
ある日の夕方、私が厨房で夕食の準備をしているとレオニール様がやってきました。
「少し、良いか」
「はい、もちろんです。どうかしましたか」
「いや、お前が、農家の人たちと楽しそうに話しているのを見てな」
彼は、少し言葉に詰まっています。
「あの者たちが、あんなに笑っているのを俺は初めて見た」
「そうですか」
「ああ。この領地は、いつも冬のように凍てついていた。だがお前が来てから、少しずつ氷が溶け始めたような気がする」
彼はそう言うと、私の隣に並んで鍋の中をのぞき込みました。
今日のメニューは、カブの葉と干し肉の炒め物です。
「美味そうな、匂いだ」
「ふふ、もうすぐできますから待っていてくださいね」
そんな穏やかな時間が、私はとても好きでした。
数週間後、トロールの飼育場と堆肥を寝かせておく小屋が見事に完成します。
そして私の指導のもと、領地の農業改革が本格的に始まりました。
そんなある夜のことです。
私は夜食のスープを持って、レオニール様の仕事部屋を訪れました。
彼は机の上に山と積まれた羊皮紙を前に、難しい顔でうなっています。
「レオニール様、お夜食です。少し休憩してはいかがですか」
「ああ、すまない」
彼は私が差し出したスープを受け取ると、こくりと一口飲みました。
そして、ほうと深いため息をつきます。
「何か、お悩み事ですか」
私が尋ねると、彼は困ったように頭をかきました。
「いや、大したことではない。ただ、この領地の財政が昔から大変でな」
彼はそう言って、目の前の羊皮紙の束を指差しました。
それは、このヴァインベルク辺境領の会計帳簿のようでした。
私は興味がわいて、その帳簿を少しのぞかせてもらいます。
そこには収入と支出の項目が、ただ長々と書き並べてあるだけでした。
いつどこからいくらお金が入り、いつ何にいくら使ったのか。
その流れが、非常に分かりにくいです。
これでは、経営の状態を正確に知ることなど到底できません。
前世で遊んだ経営シミュレーションゲームでは、まずこの会計の仕組みを改善することから始まりました。
「あの、レオニール様」
「なんだ」
「この帳簿の付け方なのですが、少しだけ分かりにくいかもしれません」
私の言葉に、彼は不思議そうな顔をしました。
「そうか、俺はずっとこのやり方だが」
「もしよろしければ私が、もっと効率的な記録の方法をお教えしましょうか。お金の流れを二つの面から記録するのです。そうすれば、何にどれだけのお金が動いているのか一目で分かるようになりますよ」
私は、新しいお金の管理方法の基本的な考えを彼に説明し始めました。
資産、負債、資本、収益、費用。
それらの関係性を図に描きながら、示していきます。
レオニール様は最初こそ、全く分からないという顔をしていました。
しかし私の説明を聞くうちに、その青い瞳がだんだんと知的な輝きを帯びていくのが分かりました。
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ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
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