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第40話 中立都市シルダでの決戦
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「フランツ皇子が、我々を試しているというのか」
アーノルド殿下は、白薔薇の間の執務机で私の報告を聞くと、面白そうに眉を上げた。
その青い瞳には、焦りではなく純粋な好奇心が浮かんでいる。
彼もまた、この複雑な駆け引きを楽しんでいるようだった。
「はい、殿下、彼は、私が二人の皇子に接触した意図を正確に見抜きました」
「そして、兄たちに最後の選択を迫ると同時に、私にも揺さぶりをかけてきたのです」
「帝国の問題は帝国人で解決するという大義名分を掲げて、民衆の支持を固めようとしています」
私は、王宮の執務室で冷静に分析の結果を報告していた。
ゼロ兄様からの報告を受け、私はすぐに殿下との面会を取り付けていたのだ。
「なるほどな、二人の皇子が、フランツの誘いに乗れば我々は立場を失う」
「だが、我々を選べば、フランツは彼らを裏切り者として処刑する名分を得る。どちらに転んでも、彼は主導権を握るつもりなのだな」
アーノルド殿下は、指でテーブルを叩きながら感心したように言った。
「君が選んだ狼は、思った以上に賢くて、牙が鋭いようだな」
「はい、だからこそ、彼は皇帝にふさわしいのです。そして、だからこそ私たちは彼に、本当の力の差を教えなければなりません」
私の言葉に、殿下の目が鋭く光った。
「ほう、具体的に、どのような方法でだ」
「フランツ皇子は、まだ大きな勘違いをしています。それは、民衆の支持さえ手に入れれば、私たちと対等になれると思い込んでいることです」
「ですが、実際に国を動かすのは名分だけではありません。実利こそが、最も重要なのです」
「そして、その実利は、今すべて私たちの手の中にあります」
私は、立ち上がると白薔薇の間に置かれた大きな地図の前に立った。
「殿下、協力者たちには、すでに最後の指示を送ってあります」
「ゲオルグ皇子には、フランツはお前を罠にはめようとしていると伝えました。王国だけが、あなたの武力を正当に評価すると念を押したのです」
「ルドヴィーク皇子には、フランツはあなたの財産を没収するつもりだと伝えました。王国だけが、あなたの財産を守ると約束したのです」
「疑心暗鬼の二人に、フランツへの不信感を植え付けたわけだな」
殿下が、面白そうに笑った。
「はい、そしてゲオルグ皇子の残存兵力は、今この瞬間にも我が国の国境警備隊に投降しているはずです」
「な、なんだと、それは本当か」
さすがの殿下も、これには驚きの声を上げた。
「いつの間に、そのような手を打ったのだ」
「ここへ来る馬車の中で、兄を通じて指示を出しました。ゲオルグ皇子は、私の提案を受け入れる道を選んだのです」
「これで、帝国最強と言われた軍事力は、私たちの管理下に入りました。もはや、フランツ皇子の脅威ではありません」
「……君は、本当に底知れないな」
殿下は、ため息まじりに呟いた。
「では、ルドヴィーク皇子の財力は、どうするつもりだ」
「そちらも、すでに手配済みでございますわ」
私は、不敵ににやりと笑った。
「協力者が、預かった財産目録を使い、彼の隠し財産を次々と押さえています。それらの財産は、我が国の銀行口座へと送金され続けています」
「ルドヴィーク皇子も、フランツ皇子に奪われるより、安全な亡命を選んだのです」
アーノルド殿下は、もう何も言えなかった。
ただ、驚いた表情で私を見つめている。
四歳の少女が、ほんの数日で二人の皇子を無力化してしまったのだ。
その事実は、彼の想像を遥かに超えていた。
「フランツ皇子は、まだ気づいていないでしょう。彼が取り込もうとしていた兄たちが、すでに中身のない抜け殻になっていることに」
「彼の手元に残ったのは、民衆の支持という、実体のない言葉だけですわ」
私は、冷ややかに言い切った。
「……リリア、君は、彼をどうするつもりだ。ここで、切り捨てるのか」
「いいえ、殿下、彼こそが、私たちの最高のパートナーになります」
私は、首を横に振った。
「だからこそ、彼には厳しい現実を教えなければなりません。国を治めるということが、どのようなことなのかを」
「彼が自分の勘違いに気づき、心から協力を望んだ時、私たちは彼に本当の力を与えます」
「本当の力か、それは、君が開発している例の薬のことか」
「はい、虹色の涙の、量産化に成功いたしました」
私の言葉に、殿下の目が大きく見開かれた。
「この奇跡の薬の供給権、それと、王国からの無限の資金援助。この二つを武器に、彼と最後の交渉を行います」
「なるほど、彼から武力と財力を奪い、代わりに医療と経済を与えるわけか」
「その通りですわ、彼が私たちの手のひらで踊るしかない、完璧な仕組みを作るのです」
「……素晴らしい、実に見事だ」
アーノルド殿下は、心からの称賛の声を上げた。
「君というパートナーを得て、私は本当に幸運だ。それで、最後の交渉の場所はどこにする」
「城でも王都でもありません、中立都市シルダです」
私は、地図上の小さな街を指差した。
「ゲオルグ皇子が破壊し、フランツ皇子が救世主として現れた、あの街で交渉をします」
「なぜ、わざわざその街を選ぶのだ」
「彼が、名分を得た場所だからです。その場所で、名分が実利なしには成り立たないことを、彼自身に理解させるのですわ」
「彼が集めた民衆の前で、私に頭を下げる。それこそが、私の試験の本当の答えになります」
私の計画の全貌を聞き、アーノルド殿下は満足そうに頷いた。
「分かった、全権を君に委ねよう。すぐに、シルダへ向かうがいい、私の護衛騎士団の中から、最強の者たちを君につけよう」
「ありがとうございます、殿下、ですが、護衛は最小限で結構です。これは戦ではなく、ただの交渉ですので」
「それと、殿下にも一つ、大切なお仕事をお願いしたいのですが」
「ほう、私に、何をしてほしいのだ」
「はい、殿下の名で、帝国全土に布告を出していただきたいのです」
「帝国を救うため、我が国は三男のフランツ皇子を正当な後継者として全面的に支援するという内容です」
「フランツを、今この時に支援するのか」
「ええ、兄たちが降伏したことは、しばらく秘密にします。表向きは、フランツ皇子が兄を説得して内乱を終わらせたという筋書きにするのです」
「その功績を、我が王国が称賛し支援する形を作ります。これで、彼の名分は完璧なものになりますわ」
「彼は英雄となり、王国の後ろ盾も得た、民衆も貴族も彼以外の皇帝を望まなくなるでしょう」
「……リリア、君は、恐ろしいな」
アーノルド殿下は、言葉を失っていた。
「彼から全てを奪い、同時に全てを与えるというのか。君は、まさに天使か悪魔のようだ」
「私は、ただの計算が得意な子供ですよ」
私は、にっこりと微笑んだ。
「全ては、費用対効果の計算の上での行動ですわ」
殿下の全面的な支援を取り付けた私は、すぐに屋敷へと戻った。
司令室には、すでにゼロ兄様が待機していた。
「兄様、次の仕事です、フランツ皇子に、私がシルダへ向かうことを伝えてください。王国の友好の使者として、彼に会いに行くと」
「フン、友好の使者とは、よく言ったものだ」
ゼロ兄様は、面白そうに鼻を鳴らした。
「それと、仲間たちにも連絡をしてください。アークライト領から、薬の試作品と大量の食料をシルダへ運び込む準備を。私たちが到着するのと同時に、街に物資が届くように手配してください」
「分かった、急いで手配を済ませよう」
ゼロ兄様は、再び影の中へと消えていった。
私は、すぐにセバスチャンを呼んだ。
「セバスチャン、シルダへ向かう準備をしてください。今回は、殿下の護衛騎士であるレオン様も同行されます。最高の馬車と、十分な食料を用意してください」
「かしこまりました、それとリリア様、姉様の工房から第一便の化粧品が到着しております」
「まあ、タイミングが良いですわね」
私は、にやりと笑った。
「では、その化粧品の一部を荷物に入れてください。フランツ皇子への、手土産として持っていきますわ」
「は、はあ、化粧品をですか」
セバスチャンが、不思議そうな顔をした。
「ええ、彼もこれから皇帝として、多くの貴婦人たちと付き合わなければなりません。外交とは、戦場だけで行うものではありませんのよ」
私の頭の中では、すでに次の計画が動き出していた。
シルダへ向かう準備が、着々と進められていく。
王都の屋敷の門前に、王国で最も速い馬車が用意された。
その隣には、騎士団の中でも最強と謳われるレオンが、部下を連れて控えている。
「リリア様、殿下より、安全を全て任されました。このレオン、命に代えても、あなた様をお守りいたします」
レオンは、馬の上から敬礼してみせた。
その真面目な顔には、四歳の少女への戸惑いと、任務への強い決意がみなぎっている。
「頼りにしていますわ、レオン様。ですが、今回は戦ではありませんから、どうかリラックスしてくださいね」
私は、笑顔で返した。
フェンとノクスを抱きかかえ、馬車に乗り込む。
セバスチャンが、静かにドアを閉めた。
「リリア様、どうか、ご武運を」
「ええ、行ってまいります、留守の間、王都のビジネスのことは任せましたわよ」
馬車が、ゆっくりと動き出す。
私たちの次なる目的地は、中立都市シルダであった。
フランツ皇子との、最後の交渉の舞台である。
馬車に揺られながら、私は窓の外の景色を眺めていた。
(フランツ皇子、あなたが、私の期待に応える本物の狼なのか。それとも、ただの犬で終わるのか、あなたの答えを楽しみにしていますわ)
私の手の中には、七色に輝く小さな瓶が、冷たい光を放っていた。
この小さな瓶一つが、帝国の運命を握っているのだ。
アーノルド殿下は、白薔薇の間の執務机で私の報告を聞くと、面白そうに眉を上げた。
その青い瞳には、焦りではなく純粋な好奇心が浮かんでいる。
彼もまた、この複雑な駆け引きを楽しんでいるようだった。
「はい、殿下、彼は、私が二人の皇子に接触した意図を正確に見抜きました」
「そして、兄たちに最後の選択を迫ると同時に、私にも揺さぶりをかけてきたのです」
「帝国の問題は帝国人で解決するという大義名分を掲げて、民衆の支持を固めようとしています」
私は、王宮の執務室で冷静に分析の結果を報告していた。
ゼロ兄様からの報告を受け、私はすぐに殿下との面会を取り付けていたのだ。
「なるほどな、二人の皇子が、フランツの誘いに乗れば我々は立場を失う」
「だが、我々を選べば、フランツは彼らを裏切り者として処刑する名分を得る。どちらに転んでも、彼は主導権を握るつもりなのだな」
アーノルド殿下は、指でテーブルを叩きながら感心したように言った。
「君が選んだ狼は、思った以上に賢くて、牙が鋭いようだな」
「はい、だからこそ、彼は皇帝にふさわしいのです。そして、だからこそ私たちは彼に、本当の力の差を教えなければなりません」
私の言葉に、殿下の目が鋭く光った。
「ほう、具体的に、どのような方法でだ」
「フランツ皇子は、まだ大きな勘違いをしています。それは、民衆の支持さえ手に入れれば、私たちと対等になれると思い込んでいることです」
「ですが、実際に国を動かすのは名分だけではありません。実利こそが、最も重要なのです」
「そして、その実利は、今すべて私たちの手の中にあります」
私は、立ち上がると白薔薇の間に置かれた大きな地図の前に立った。
「殿下、協力者たちには、すでに最後の指示を送ってあります」
「ゲオルグ皇子には、フランツはお前を罠にはめようとしていると伝えました。王国だけが、あなたの武力を正当に評価すると念を押したのです」
「ルドヴィーク皇子には、フランツはあなたの財産を没収するつもりだと伝えました。王国だけが、あなたの財産を守ると約束したのです」
「疑心暗鬼の二人に、フランツへの不信感を植え付けたわけだな」
殿下が、面白そうに笑った。
「はい、そしてゲオルグ皇子の残存兵力は、今この瞬間にも我が国の国境警備隊に投降しているはずです」
「な、なんだと、それは本当か」
さすがの殿下も、これには驚きの声を上げた。
「いつの間に、そのような手を打ったのだ」
「ここへ来る馬車の中で、兄を通じて指示を出しました。ゲオルグ皇子は、私の提案を受け入れる道を選んだのです」
「これで、帝国最強と言われた軍事力は、私たちの管理下に入りました。もはや、フランツ皇子の脅威ではありません」
「……君は、本当に底知れないな」
殿下は、ため息まじりに呟いた。
「では、ルドヴィーク皇子の財力は、どうするつもりだ」
「そちらも、すでに手配済みでございますわ」
私は、不敵ににやりと笑った。
「協力者が、預かった財産目録を使い、彼の隠し財産を次々と押さえています。それらの財産は、我が国の銀行口座へと送金され続けています」
「ルドヴィーク皇子も、フランツ皇子に奪われるより、安全な亡命を選んだのです」
アーノルド殿下は、もう何も言えなかった。
ただ、驚いた表情で私を見つめている。
四歳の少女が、ほんの数日で二人の皇子を無力化してしまったのだ。
その事実は、彼の想像を遥かに超えていた。
「フランツ皇子は、まだ気づいていないでしょう。彼が取り込もうとしていた兄たちが、すでに中身のない抜け殻になっていることに」
「彼の手元に残ったのは、民衆の支持という、実体のない言葉だけですわ」
私は、冷ややかに言い切った。
「……リリア、君は、彼をどうするつもりだ。ここで、切り捨てるのか」
「いいえ、殿下、彼こそが、私たちの最高のパートナーになります」
私は、首を横に振った。
「だからこそ、彼には厳しい現実を教えなければなりません。国を治めるということが、どのようなことなのかを」
「彼が自分の勘違いに気づき、心から協力を望んだ時、私たちは彼に本当の力を与えます」
「本当の力か、それは、君が開発している例の薬のことか」
「はい、虹色の涙の、量産化に成功いたしました」
私の言葉に、殿下の目が大きく見開かれた。
「この奇跡の薬の供給権、それと、王国からの無限の資金援助。この二つを武器に、彼と最後の交渉を行います」
「なるほど、彼から武力と財力を奪い、代わりに医療と経済を与えるわけか」
「その通りですわ、彼が私たちの手のひらで踊るしかない、完璧な仕組みを作るのです」
「……素晴らしい、実に見事だ」
アーノルド殿下は、心からの称賛の声を上げた。
「君というパートナーを得て、私は本当に幸運だ。それで、最後の交渉の場所はどこにする」
「城でも王都でもありません、中立都市シルダです」
私は、地図上の小さな街を指差した。
「ゲオルグ皇子が破壊し、フランツ皇子が救世主として現れた、あの街で交渉をします」
「なぜ、わざわざその街を選ぶのだ」
「彼が、名分を得た場所だからです。その場所で、名分が実利なしには成り立たないことを、彼自身に理解させるのですわ」
「彼が集めた民衆の前で、私に頭を下げる。それこそが、私の試験の本当の答えになります」
私の計画の全貌を聞き、アーノルド殿下は満足そうに頷いた。
「分かった、全権を君に委ねよう。すぐに、シルダへ向かうがいい、私の護衛騎士団の中から、最強の者たちを君につけよう」
「ありがとうございます、殿下、ですが、護衛は最小限で結構です。これは戦ではなく、ただの交渉ですので」
「それと、殿下にも一つ、大切なお仕事をお願いしたいのですが」
「ほう、私に、何をしてほしいのだ」
「はい、殿下の名で、帝国全土に布告を出していただきたいのです」
「帝国を救うため、我が国は三男のフランツ皇子を正当な後継者として全面的に支援するという内容です」
「フランツを、今この時に支援するのか」
「ええ、兄たちが降伏したことは、しばらく秘密にします。表向きは、フランツ皇子が兄を説得して内乱を終わらせたという筋書きにするのです」
「その功績を、我が王国が称賛し支援する形を作ります。これで、彼の名分は完璧なものになりますわ」
「彼は英雄となり、王国の後ろ盾も得た、民衆も貴族も彼以外の皇帝を望まなくなるでしょう」
「……リリア、君は、恐ろしいな」
アーノルド殿下は、言葉を失っていた。
「彼から全てを奪い、同時に全てを与えるというのか。君は、まさに天使か悪魔のようだ」
「私は、ただの計算が得意な子供ですよ」
私は、にっこりと微笑んだ。
「全ては、費用対効果の計算の上での行動ですわ」
殿下の全面的な支援を取り付けた私は、すぐに屋敷へと戻った。
司令室には、すでにゼロ兄様が待機していた。
「兄様、次の仕事です、フランツ皇子に、私がシルダへ向かうことを伝えてください。王国の友好の使者として、彼に会いに行くと」
「フン、友好の使者とは、よく言ったものだ」
ゼロ兄様は、面白そうに鼻を鳴らした。
「それと、仲間たちにも連絡をしてください。アークライト領から、薬の試作品と大量の食料をシルダへ運び込む準備を。私たちが到着するのと同時に、街に物資が届くように手配してください」
「分かった、急いで手配を済ませよう」
ゼロ兄様は、再び影の中へと消えていった。
私は、すぐにセバスチャンを呼んだ。
「セバスチャン、シルダへ向かう準備をしてください。今回は、殿下の護衛騎士であるレオン様も同行されます。最高の馬車と、十分な食料を用意してください」
「かしこまりました、それとリリア様、姉様の工房から第一便の化粧品が到着しております」
「まあ、タイミングが良いですわね」
私は、にやりと笑った。
「では、その化粧品の一部を荷物に入れてください。フランツ皇子への、手土産として持っていきますわ」
「は、はあ、化粧品をですか」
セバスチャンが、不思議そうな顔をした。
「ええ、彼もこれから皇帝として、多くの貴婦人たちと付き合わなければなりません。外交とは、戦場だけで行うものではありませんのよ」
私の頭の中では、すでに次の計画が動き出していた。
シルダへ向かう準備が、着々と進められていく。
王都の屋敷の門前に、王国で最も速い馬車が用意された。
その隣には、騎士団の中でも最強と謳われるレオンが、部下を連れて控えている。
「リリア様、殿下より、安全を全て任されました。このレオン、命に代えても、あなた様をお守りいたします」
レオンは、馬の上から敬礼してみせた。
その真面目な顔には、四歳の少女への戸惑いと、任務への強い決意がみなぎっている。
「頼りにしていますわ、レオン様。ですが、今回は戦ではありませんから、どうかリラックスしてくださいね」
私は、笑顔で返した。
フェンとノクスを抱きかかえ、馬車に乗り込む。
セバスチャンが、静かにドアを閉めた。
「リリア様、どうか、ご武運を」
「ええ、行ってまいります、留守の間、王都のビジネスのことは任せましたわよ」
馬車が、ゆっくりと動き出す。
私たちの次なる目的地は、中立都市シルダであった。
フランツ皇子との、最後の交渉の舞台である。
馬車に揺られながら、私は窓の外の景色を眺めていた。
(フランツ皇子、あなたが、私の期待に応える本物の狼なのか。それとも、ただの犬で終わるのか、あなたの答えを楽しみにしていますわ)
私の手の中には、七色に輝く小さな瓶が、冷たい光を放っていた。
この小さな瓶一つが、帝国の運命を握っているのだ。
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