追放された雑草取りの俺、実は世界中の植物を支配する神樹の守護者だった

旅する書斎(☆ほしい)

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帝都からガタガタと揺れる馬車に揺られること数日。
護送兵たちに突き放されるようにして降ろされた場所は、視界のすべてが灰色に染まった、文字通りの絶望だった。

「ひどいな。想像の三倍は荒れ果てている」

足元を踏みしめると、乾いた土が砂雪のように崩れた。
生命の鼓動が一切感じられない。
空気は乾燥し、肺に吸い込むたびに喉の奥をヤスリで削られるような痛みがある。
頭上には濁った雲が停滞し、太陽の光さえも届かない薄暗い世界。

俺を連れてきた兵士たちは、地面に唾を吐くと、逃げるように馬車を走らせて去っていった。
まるで、ここに一秒でも長く居れば、自分の魂まで大地に吸い取られるとでも怯えているかのように。

一人残された俺は、周囲をゆっくりと見渡した。
遮るもののない平原。
風が吹くたびに、灰色の砂煙が視界を遮る。

「さて、まずは足元の整理から始めるか」

俺はしゃがみ込み、ひび割れた大地にそっと右手を置いた。
スキル、真理の雑草取り、発動。

俺の意識が、地中深くへと潜っていく。
通常、この場所は魔力が枯渇していると言われているが、俺の見立ては違う。
枯渇しているのではない。
詰まっているのだ。

地脈の流れを阻害している、古臭い呪いの残滓。
俺の目には、それが巨大な黒いヘドロのような根となって、大地の血管を締め付けているのが鮮明に見えた。

「これを、こうして……」

指先に力を込める。
不要な要素の抽出。
俺は、地面の中に指を突き立てるようにして、その目に見えない黒い根を掴んだ。

普通の人間が触れれば、精神を汚染されて一瞬で発狂するような猛毒の魔力だ。
だが、俺にとっては、ただのしつこい雑草の根っこに過ぎない。

「ふんっ!」

俺は一気に、その見えない巨大な根を引き抜いた。
ズズズ、という大地そのものが悲鳴を上げているかのような重低音が、足元から身体を突き抜けていく。
俺の腕を通して、真っ黒な霧のようなものが噴き出した。

「これだけの密度で詰まっていれば、草の一本も生えないわけだ」

俺は、抽出したそのドス黒いエネルギーを、掌の上で凝縮させる。
通常なら捨てるだけのゴミだが、俺のスキルは変換までセットだ。
負のエネルギーを、正の成長へと強制的に反転させる。

俺が掌を強く握りしめると、黒い霧は一瞬で鮮やかなエメラルドグリーンの輝きへと変貌した。
それを、今抜いたばかりの穴へと優しく戻す。

「さあ、起きろ。ここはもう、お前の場所だ」

その瞬間。
足元のひび割れた大地から、一本の緑の芽が、爆発的な勢いで飛び出した。

それは見る間に成長し、細い茎を伸ばし、銀色の葉を大きく広げる。
わずか数秒の間に、それは俺の膝ほどの高さにまで達した。

「ほう。これは銀月草か」

銀月草。
帝国の薬師たちが一生をかけて一株見つけられるかどうかという、伝説級の霊草だ。
一葉で致命的な毒を浄化し、すり潰して飲めば欠損した肢体すら再生させると言われている。

それが、たった一杯の雑草を抜いただけで、この死の大地に芽吹いた。
しかも、その輝きは、帝国の宝物庫に厳重に保管されているという枯れかけの標本とは比較にならない。

月の雫をそのまま形にしたような、神々しいまでの銀光。
一本で大国を買い取れるほどの価値がある薬草が、俺の目の前で涼しげに風に揺れている。

だが、驚くのはまだ早かった。
銀月草が放つ清らかな波動が、波紋のように荒野を駆け抜けていく。
灰色の土が、瞬く間に黒く肥えた極上の土壌へと変質していく。

「いい感じだ。波及効果が予想以上に出ているな」

俺は立ち上がり、さらに数歩先にある、ひどくねじ曲がった岩の影に目を向けた。
あそこにも、地脈を塞ぐ悪い根っこが見える。

「次はあっちだな。一箇所ずつ丁寧に掃除してやろう」

俺は、かつて騎士団でやらされていたルーチンワークと同じように、淡々と作業を続けた。
一回引き抜くたびに、噴水のように魔力が溢れ出し、大地の色が塗り替えられていく。

二回目には、金色の花を咲かせる黄金樹の幼木が。
三回目には、周囲の気温を常に春のように保つという恒温花の群生が。

一時間もしないうちに、俺の周囲数十メートルは、死の大地の中に突如として現れた、緑の宝石箱のようなオアシスへと変貌していた。

「ふう。少しは人心地つけるようになったか」

俺は額の汗を拭い、銀月草の葉を一枚摘み取って口に含んだ。
噛み締めた瞬間、濃厚な魔力と爽やかな甘みが全身の毛細血管まで駆け巡る。
旅の疲れが霧散し、細胞の一つ一つが歓喜に震えるのがわかる。

その時だ。
俺の背後の、先ほど生えてきたばかりの茂みから、ガサリ、と大きな音がした。

この死の大地に、俺以外の生存者がいたのか?
あるいは、魔力が戻ったことで誘き寄せられた凶悪な魔獣か。

俺は冷静に、音のした方へ向き直った。

そこには、巨大な白い影が静かに立っていた。
体長は優に三メートルを超えている。
雪のように純白の毛並みに、高貴な知性を宿した真紅の瞳。
額には、王者の証である銀色に輝く一本の角が生えている。

「お前……絶滅したはずの最上位聖獣、天銀狼か?」

狼は、俺が作り出した銀月草の群生を一度見つめ、次に俺の顔をじっと見た。
そして、あろうことか、その巨大な体を子犬のように丸め、俺の足元に鼻先をこすりつけてきた。

「クゥン……」

地響きのような、だがひどく甘えた声が、かつての荒野に響き渡った。
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