追放された雑草取りの俺、実は世界中の植物を支配する神樹の守護者だった

旅する書斎(☆ほしい)

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聖域の北側にそびえる、巨大な岩山。
そこはかつて、帝国でも有数の鉄鉱石の産地だった場所だが、今では毒々しい紫色の霧が立ち込め、鳥一羽近寄らない禁足地となっている。

「あそこも、一度綺麗にしておいたほうが良さそうだな」

俺はコロの背に揺られながら、その岩山を見上げた。
岩肌を覆っているのは、鉄を喰らい、毒ガスを吐き出す『錆の苔』だ。
こいつのせいで、山全体が腐食し、中の鉱脈が窒息している。

「カイル様、あそこの毒は強力ですわ。私たち精霊でも、長時間滞在するのは骨が折れます」

リーフィアが少し顔をしかめながら言った。
確かに、漂ってくる空気には金属を腐らせるような嫌な感覚がある。

「大丈夫だ。マスク代わりのこれがあるからな」

俺は、そこらへんに生えていた清浄のハーブを数枚、口に含んだ。
それだけで、俺の周りの空気は常に森の奥のような爽やかさに保たれる。
ついでにコロの鼻先にも、特性のポーションを塗ってやった。

「さて、大掃除だ」

俺は岩山に手を触れた。
瞬間、紫色の霧が俺を飲み込もうと襲いかかってくる。
だが、そんなものは俺の魔力の前では無力だ。

真理の雑草取り、広域モード。

意識を山の表面全体に広げる。
数万、数億という苔の根っこを、一つの『巨大な雑草』として定義する。
そして、その根源となる種子を、山の心臓部で見つけ出した。

「そこだ。引っこ抜いてやるよ」

俺が地面を強く踏みしめると、山全体が激しく震動した。
岩盤を突き破り、俺の右手が地下深くにある、巨大な紫の核を掴み取る。

バキバキバキッ!

ガラスが砕けるような轟音が山中に響き渡り、山の表面を覆っていた紫色の苔が、一瞬で灰となって崩れ落ちた。
それと同時に、俺が掴んだ核は、黄金に輝く巨大な魔石へと姿を変える。

「ふむ。これは……オリハルコンの原石か?」

苔が消えた後の岩肌からは、目も眩むような白銀の輝きが溢れ出していた。
最高級の魔導金属が、山全体に剥き出しの状態で露出している。
帝国の採掘師たちが血眼になって探しても一生見つからないような伝説の鉱脈が、今や俺の庭の一部になったわけだ。

「ありえません……! 伝説の『白銀の鉄山』が、一瞬で復活するなんて……。これだけの鉱石があれば、世界を変えるほどの武具が作れてしまいますわ!」

リーフィアが驚愕で声を震わせている。
まあ、武器を作る気はないが、聖域の建物の補強には使えるかもしれない。

その時だ。
空から、一羽の伝書鳥が舞い降りてきた。
その足には、帝国の最高機密を示す、赤い封蝋がされた手紙がついている。

俺はそれを手に取り、ざっと目を通した。

『カイル・フォン・ロード。貴公の追放を取り消し、帝国筆頭聖導師として迎え入れる。直ちに帝都に戻り、蔓延する呪いを除去せよ。これは皇帝の命令である』

送り主は、第一皇子ユリウス。
命令、ね。
あんなに威勢よく俺を追い出しておいて、都合が悪くなればこれだ。

「カイル様、どうなさるのですか?」

「どうもこうもない。ゴミ箱行きだ」

俺は手紙を丸めると、先ほど復活したばかりの、浄化の炎を宿す花壇の中に放り込んだ。
手紙は一瞬で青い炎に包まれ、塵一つ残さず消え去った。

「命令される筋合いはない。俺は今、忙しいんだ。午後はコロと川遊びをする約束があるし、明日は新しい精霊たちの歓迎会がある」

俺は鼻歌を歌いながら、オリハルコンの塊を一つ拾い上げ、コロに放ってやった。
コロはそれを骨のようにガリガリと噛み砕き、嬉しそうに尻尾を振っている。
伝説の金属を犬の餌にする男なんて、世界中探しても俺くらいだろうな。

一方で、帝都の王宮。
ユリウスは、返信のない伝書鳥の帰還を、震える指を組みながら待っていた。

彼の背後では、王宮の壁を突き破った巨大な黒い蔦が、ゆっくりと玉座を締め付けている。
もはや、帝国の魔導師たちでは太刀打ちできないほど、アビス・ヴァインは肥大化していた。

「なぜだ! なぜカイルは戻ってこない! 皇帝の命令だぞ! 平民の分際で、この私を無視するとは……!」

「殿下……報告によりますと、死の大地は今、神話に出てくるような聖域と化しているそうです。カイルはそこで、精霊たちを従え、王のような暮らしをしているとか……」

側近の報告に、ユリウスの顔が怒りと嫉妬で真っ赤に染まる。

「ふざけるな! あんな無能が、そんな贅沢をしているはずがない! 騎士団を差し向けろ! 力ずくでも連れ戻すのだ! あの力は、帝国の……いや、私の所有物だ!」

ユリウスの狂ったような叫びが、崩れゆく王宮の中に響き渡る。
しかし、彼らはまだ知らない。
カイルの住む聖域が、すでにいかなる軍隊も足を踏み入れることのできない、不可侵の領域と化していることを。

俺は、コロの毛並みに顔を埋めながら、心地よい風に目を細めた。

「さて、次はどんな草を抜こうかな」

聖域の広がりは、止まらない。
俺の、のんびりとした『雑草取り』の生活は、まだ始まったばかり……なんて言うつもりはない。
俺はただ、今この瞬間の贅沢を、全力で楽しむだけだ。

リーフィアが差し出してきた、キンキンに冷えた霊水のソーダ。
それを一気に飲み干すと、爽快な刺激が喉を駆け抜けた。
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