動物園の飼育員さん、神様の手違いで死んだので、代わりに最強の魔物たちを育てることになりました~会話できるので、子育ては楽勝です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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別館に戻ると、三匹はちゃんとおとなしく留守番をしていた。
家の中も、特に荒らされた様子はない。
ちゃんと、約束を守ってくれたようだ。

「よしよし、いい子にしてたな。偉いぞ、みんな」

俺が三匹の頭を順番に撫でてやると、みんな嬉しそうにすり寄ってきた。
コロは尻尾をちぎれそうに振っている。
ルビは俺の足に、体を擦り付けてきた。
ぷるんは頭の上で、嬉しそうに跳ねている。

さっソく、買ってきた石綿の布で、ふかふかの寝床を作ってやる。
中庭には、ルビが火を噴いても大丈夫なように、石で囲った安全な場所も作った。
これで、安心して火の練習もできるだろう。

「さあ、晩ごはんの時間だ」
「今日は新しい食材を使った、特製ペーストだぞ!」

俺は台所に立ち、さっき買ってきたガラクの実とシビレ花を使って、いつものペーストを作り始めた。
ガラクの実は、想像以上に硬かった。
石臼で思いっきり叩きつけると、なんとか砕くことができた。
シビレ花は、花びらに触れないよう、蜜だけを慎重に集める。
店主は毒があると言っていたが、蜜自体には問題ないようだった。
森の植物たちも、「甘いよー」としか言っていなかったしな。

「よし、できたぞ! 特製ガラクの実入り、シビレ花ソース添えだ!」

俺が新しいペーストを三匹の前に差し出すと、彼女たちはくんくんと匂いを嗅いだ。
初めての匂いに、少し戸惑っているようだ。

『わあ! なんか、いいにおい!』

『ちょっとピリピリする匂いがする!』

『はやくたべたい! ユウ!』

「はいはい、順番だぞ。慌てないで食べろよ」

俺がスプーンで一口ずつ与えると、三匹は夢中になって食べ始めた。
その食べっぷりは、見ていて気持ちがいい。

『んー! おいしい! このツブツブ、かみごたえがある!』

ルビが、ガラクの実をバリボリと音を立てて噛み砕いている。
さすが、トカゲの顎は丈夫だ。
栄養価も、きっと高いはずだ。

『なんか、舌がちょっとだけピリピリする! でも、それがいい!』

コロも嬉しそうだ。
尻尾を振りながら、夢中で食べている。
シビレ花の蜜は、彼女たちにとっては良いスパイスになったらしい。

『ぷるぷるでおいしー! いつもとちがう!』

ぷるんも満足げに体を揺らしている。
よかった。
新しいレシピも、どうやら大成功だ。
飼育員として、これ以上の喜びはない。

その様子を、なぜかまだ帰っていなかったガレンさんとリーゼさんが、部屋の隅から遠巻きに眺めていた。
二人は、壁に背中をくっつけて固まっている。

「……食べたぞ、リーゼ……。あの石ころと毒花を……」

「……石を砕いて、毒をスパイスにして……」
「私たち、いったい何を見せられてるの……」

二人の小さな呟きは、三匹の食事の音にかき消されて、俺には聞こえなかった。
三匹が満足したのを見届けて、俺は二人に向き直った。

「ガレンさん、リーゼさん。今日は本当にありがとうございました」
「荷物を持ってもらって、おかげで助かりました」

「あ、ああ……。どういたしまして……」
「じゃ、俺たちはギルドマスターに、今日の買い物の報告があるから……」

二人は、逃げるようにして別館から出て行った。
本当に、忙しい人たちだな。

次の日の朝。
俺たちが朝食を終えて、中庭で遊んでいると、ドリンさんがやって来た。
なんだか、すごく困った顔をしている。
目の下には、クマができているようだった。

「おはようございます、ドリンさん」
「どうしたんですか? そんなに顔色が悪いですけど」

「……ユウ殿。すまんが、ちと、頼みたいことがある」

「頼み事? 俺にできることなら、何でも言ってください」
「この家を貸してもらっているお礼も、したいですし」

俺がそう言うと、ドリンさんは少し言いにくそうに口を開いた。
その表情は、昨日よりもさらに疲れている。

「……実は、フォレストベアのことなんだ」

「フォレストベア!? あ、やっぱり! あの時の怪我で、何か!?」

俺は慌てた。
クマの爪を折ってしまったんだ。
きっと、化膿したりして、怒っているに違いない。

「いや、違う。怪我は……まあ、そうなんだが、問題はそこじゃないんだ」

「え? どういうことですか?」

ドリンさんは、深いため息をついた。
その溜息は、とても重かった。

「……そのクマが、昨日から、町の南側の街道に居座っているんだ」

「街道に、ですか?」

「ああ。ただ座り込んで、ずっと……泣いている」

「泣いてる!?」

俺は驚いて聞き返した。
クマが泣く?
動物園でも、そんな話は聞いたことがない。

「そうだ。自分の折れた爪を見つめて、一日中、しくしく、しくしくと泣き続けている」
「狩りもせん。何も食わん。ただ、ひたすら泣いてるそうだ」

「ええ……。それは、可哀想に……」

「可哀想なんだが、こっちも困ってるんだ!」
「Bランクの魔物が街道のど真ん中で泣いてみろ」
「商人たちが怖がって、誰も道を通れん」
「物流が、完全に止まって大騒ぎになっている」

確かに、それは大問題だ。
俺は事の重大さを、ようやく理解した。

「昨日、見かねた冒険者パーティが、追い払おうとしたんだが……」

「したんですが? 追い払えなかったんですか?」

「……クマがあまりにも悲しそうに泣くもんだから、冒険者たちのほうが気が滅入ってしまってな」
「『俺たち、なんて可哀想なことを……』とか言い出して、鬱になって帰ってきた」

「うわあ……」

それは、なんというか……。
すごい状況だ。
冒険者たちのメンタルも心配になる。

「わしも、あんなに情けなく泣く魔物は初めて見た……」
「だから、ユウ殿。頼む」

ドリンさんは、俺の肩をがっしりと掴んだ。
その手は、少し震えていた。

「原因は、あんたのところのコロ殿だ。どうにかしてくれんか?」

「……分かりました。ドリンさん。これは、俺の監督不行き届きです」

俺は真剣な顔で頷いた。
コロがやったことだ。
飼い主である俺が、責任を取らないといけない。

「コロ!」

俺が呼ぶと、コロが中庭からぴょこんと顔を出した。
口の周りに、朝ごはんのペーストがついている。

『なーにー、ユウ?』

「お前、クマさんの爪を折っただろ」
「そのクマさんが、今、道で泣いて困ってるそうだ」

『え!? 泣いてるの!?』

コロはびっくりした顔をした。
目を、大きく見開いている。
どうやら、罪悪感はあったらしい。

「そうだ。だから、今から二人で、クマさんに謝りに行くぞ」
「ちゃんと『ごめんなさい』するんだ。いいな?」

『う……うん……。わかった……。コロ、あやまる……』

コロは、しゅんとして耳を垂れた。
その姿は、反省しているように見える。

「よし、いい子だ。ドリンさん、行きましょう」
「そのクマさんのところへ、俺たちを案内してください」

「お、おお……。わかった」
「まさか、フェンリルが魔物に謝罪しに行く日が来るとはな……」

ドリンさんが、またよく分からないことを呟いている。
フェンリル?
まあいいか。
今は、クマさんへの謝罪が最優先だ。
俺はコロを抱き上げ、ドリンさんと一緒に、別館を後にした。
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