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俺は、金貨一枚という見たこともない大金を握りしめていた。
これだけあれば、みんなにもっと良いものを買ってやれる。
「まずは、調理器具を新しくそろえたいですね」
俺は、ギルドの執務室でドリンさんに相談していた。
「今、石臼でガラクの実を砕いているんですが、あれ、結構大変なんですよ」
「……ガラクの実を、石臼で、砕いている……?」
ドリンさんが、また苦しそうに胃を押さえている。
「もっとこう、頑丈な包丁と、大きな鍋が欲しいんです」
「なるほどな。調理器具か、確かに必要だな」
ドリンさんは、何かを考えるように自分の顎に手をやった。
「それなら、一人、紹介したい男がいる」
「本当ですか! ぜひ、お願いします!」
「うむ。町一番の腕を持つ、鍛冶屋だ。だが、かなりの頑固じじいでな」
「ガンツというドワーフだ。わしの、古い友人でもあるんだ」
「ガンツさん、ですね。すぐに行ってみます!」
ドリンさんは俺に、鍛冶屋が並ぶ通りの場所が書いてある地図をくれた。
俺はさっそく、三匹を連れてその鍛冶屋に向かった。
ルビとコロは、久しぶりの町歩きにとても嬉しそうだ。
ぷるんは、いつも通り俺の頭の上で満足げに揺れている。
クマ子は、さすがに町中を歩かせるのはまずいだろう。
別館で、「中庭の石以外は絶対に食べないように」と、きつく言いつけて留守番させている。
鍛冶屋たちが集まる通りに、その店はあった。
ひときわ大きな金槌の看板が、目印になっていた。
店の中に足を踏み入れると、カン、カン、という金属を叩く高い音と、ものすごい熱気が俺たちを迎えた。
奥にある炉で、背の低いドワーフが、汗だくでハンマーを振るっている。
あれが、ドリンさんが言っていたガンツさんに違いない。
「あの、すみません。ドリンさんの紹介で来ました」
俺が声をかけると、ガンツさんはピタリと手を止めた。
彼は、ギロリと俺を睨みつけた。
その目は、獲物を狙う鷹のように鋭い。
「……ドリンの紹介だと? ふん。何のようだ、小僧」
「あ、あの、頑丈な鍋と包丁が欲しくて、伺いました」
「鍋と包丁だと?」
ガンツさんは、俺の足元にいるルビとコロ、そして頭のぷるんを見て、鼻で笑った。
「帰れ。魔物連れのガキに、売るもんは何もねえ」
「そんな、ひどいじゃないですか!」
「うちはな、戦士のための剣や鎧を作る、本物の鍛冶屋だ」
「魔物の餌を作るための鍋なんぞ、そこらで売ってる安物で十分だろうが」
ガンツさんは、そう吐き捨てて、俺に背中を向けてしまった。
「違います!」
俺は、思わず大声を出していた。
「安物の鍋じゃ、ダメなんです!」
「……なに?」
ガンツさんが、ゆっくりとこちらを振り返る。
俺は、真剣な顔で彼をまっすぐに見つめた。
「この子たちは、大事な成長期なんです。ガラクの実やシビレ花の蜜を使った、特製のペーストを食べさせているんです」
「石のように硬い実を毎日砕いて、猛毒の花から蜜だけを集めて……」
「それを安全に調理するには、本当に頑丈な道具が必要なんです!」
俺の必死の言葉に、ガンツさんの顔色が変わった。
「……小僧。お前、今、何と言った」
「え? ですから、ガラクの実とシビレ花を……」
「ガラクの実を、調理するだと? まるで石ころだぞ、あれを食わせる気か?」
「いえ、ちゃんと砕いて、食べやすいペーストにしてますよ」
「シビレ花は、触れただけでしびれる猛毒だぞ!」
「花の奥にある蜜だけなら、大丈夫なんです。ルビもコロも、大好きですよ」
ガンツさんは、ゴクリと唾を飲んだ。
彼は俺たち三匹と一人の姿を、じっと観察している。
そして、工房の隅に転がっていた、黒光りする金属の塊を指差した。
「……面白い。そこまで言うなら、試してやる」
「あれを、砕いてみろ。もしできたら、お前の依頼、考えてやらんでもない」
「あれ、ですか?」
それは、ガンツさんがハンマーを振るう作業台よりも大きそうな、無骨な金属の塊だった。
どうやら、鍛冶に失敗したクズ鉄のようだ。
「コロ、ちょっといいか」
俺は、足元のコロを呼んだ。
「あれ、噛み砕けるか? いつものガラクの実より、硬いかもしれないぞ」
『んー? いし? あたらしい、おやつかな?』
コロは、不思議そうに首を傾げた。
そして、その金属の塊にためらいもなく近づくと、ガリッ、と力強く噛みついた。
ものすごい音が、工房の中に響き渡った。
コロが顔を離すと、黒光りする金属の塊に、くっきりとコロの歯形が残っていた。
『んー。かたいだけだね。あんまり、おいしくないや』
コロは、ぺっ、と口の中に入った金属片を吐き出した。
ガンツさんは、その場に固まっていた。
口が、あんぐりと開いたままだ。
「ば、馬鹿な……。わしの作業台よりも硬い、オリハルコンの塊だぞ……」
「それに、歯形を……? あの子犬が、いとも簡単に……?」
ガンツさんの体が、わなわなと震え始めた。
その時だった。
工房の熱気で少し眠くなっていたルビが、小さなくしゃみをした。
『ふぇっくしょん!』
可愛らしい声と共に、小さな火の玉が口から飛んでいく。
火の玉は、ガンツさんの工房の、火が落ちていた炉にまっすぐ飛び込んだ。
ぼっ、と大きな音がして、炉の奥で火が激しく燃え上がる。
炉の中には、ガンツさんがどうやっても溶かせなくて困っていた、謎の鉱石が置いてあった。
ルビの火がその鉱石に燃え移ると、それは、まるで飴のように、ぐにゃりと溶け始めた。
「な……!?」
ガンツさんは、今度こそ腰を抜かしそうになっていた。
「わ、わしの炉の最強の火でも、ビクともしなかった『万年ゴケ鉄』が……」
「い、一瞬で……溶けている……?」
ガンツさんの震えが、ぴたりと止まった。
彼は、ゆっくりと俺たちの前に進み出た。
そして、ドワーフとしての誇りを全て投げ捨てるかのように、深々と頭を下げた。
その勢いは、土下座と言ってもいいほどだった。
「お、御一行様! 本当に、申し訳ありませんでした!」
「ぜひ! ぜひ、わしに、あなた様がたの調理器具を作らせてください!」
「これは、わしの一生のお願いだ! この通り!」
ガンツさんの目は、さっきまでの頑固なものではなかった。
最高の素材(コロの歯形付きオリハルコン、ルビの炎)と、最高の顧客(ユウたち)に巡り合えた、鍛冶屋の目だった。
その目は、子供のように、らんらんと輝いていた。
「え? あ、はい。もちろんです、お願いします!」
俺は、ガンツさんのものすごい気迫に押されながらも、快く承知した。
こうして、俺は町一番の鍛冶屋さんと、友達になることができた。
これだけあれば、みんなにもっと良いものを買ってやれる。
「まずは、調理器具を新しくそろえたいですね」
俺は、ギルドの執務室でドリンさんに相談していた。
「今、石臼でガラクの実を砕いているんですが、あれ、結構大変なんですよ」
「……ガラクの実を、石臼で、砕いている……?」
ドリンさんが、また苦しそうに胃を押さえている。
「もっとこう、頑丈な包丁と、大きな鍋が欲しいんです」
「なるほどな。調理器具か、確かに必要だな」
ドリンさんは、何かを考えるように自分の顎に手をやった。
「それなら、一人、紹介したい男がいる」
「本当ですか! ぜひ、お願いします!」
「うむ。町一番の腕を持つ、鍛冶屋だ。だが、かなりの頑固じじいでな」
「ガンツというドワーフだ。わしの、古い友人でもあるんだ」
「ガンツさん、ですね。すぐに行ってみます!」
ドリンさんは俺に、鍛冶屋が並ぶ通りの場所が書いてある地図をくれた。
俺はさっそく、三匹を連れてその鍛冶屋に向かった。
ルビとコロは、久しぶりの町歩きにとても嬉しそうだ。
ぷるんは、いつも通り俺の頭の上で満足げに揺れている。
クマ子は、さすがに町中を歩かせるのはまずいだろう。
別館で、「中庭の石以外は絶対に食べないように」と、きつく言いつけて留守番させている。
鍛冶屋たちが集まる通りに、その店はあった。
ひときわ大きな金槌の看板が、目印になっていた。
店の中に足を踏み入れると、カン、カン、という金属を叩く高い音と、ものすごい熱気が俺たちを迎えた。
奥にある炉で、背の低いドワーフが、汗だくでハンマーを振るっている。
あれが、ドリンさんが言っていたガンツさんに違いない。
「あの、すみません。ドリンさんの紹介で来ました」
俺が声をかけると、ガンツさんはピタリと手を止めた。
彼は、ギロリと俺を睨みつけた。
その目は、獲物を狙う鷹のように鋭い。
「……ドリンの紹介だと? ふん。何のようだ、小僧」
「あ、あの、頑丈な鍋と包丁が欲しくて、伺いました」
「鍋と包丁だと?」
ガンツさんは、俺の足元にいるルビとコロ、そして頭のぷるんを見て、鼻で笑った。
「帰れ。魔物連れのガキに、売るもんは何もねえ」
「そんな、ひどいじゃないですか!」
「うちはな、戦士のための剣や鎧を作る、本物の鍛冶屋だ」
「魔物の餌を作るための鍋なんぞ、そこらで売ってる安物で十分だろうが」
ガンツさんは、そう吐き捨てて、俺に背中を向けてしまった。
「違います!」
俺は、思わず大声を出していた。
「安物の鍋じゃ、ダメなんです!」
「……なに?」
ガンツさんが、ゆっくりとこちらを振り返る。
俺は、真剣な顔で彼をまっすぐに見つめた。
「この子たちは、大事な成長期なんです。ガラクの実やシビレ花の蜜を使った、特製のペーストを食べさせているんです」
「石のように硬い実を毎日砕いて、猛毒の花から蜜だけを集めて……」
「それを安全に調理するには、本当に頑丈な道具が必要なんです!」
俺の必死の言葉に、ガンツさんの顔色が変わった。
「……小僧。お前、今、何と言った」
「え? ですから、ガラクの実とシビレ花を……」
「ガラクの実を、調理するだと? まるで石ころだぞ、あれを食わせる気か?」
「いえ、ちゃんと砕いて、食べやすいペーストにしてますよ」
「シビレ花は、触れただけでしびれる猛毒だぞ!」
「花の奥にある蜜だけなら、大丈夫なんです。ルビもコロも、大好きですよ」
ガンツさんは、ゴクリと唾を飲んだ。
彼は俺たち三匹と一人の姿を、じっと観察している。
そして、工房の隅に転がっていた、黒光りする金属の塊を指差した。
「……面白い。そこまで言うなら、試してやる」
「あれを、砕いてみろ。もしできたら、お前の依頼、考えてやらんでもない」
「あれ、ですか?」
それは、ガンツさんがハンマーを振るう作業台よりも大きそうな、無骨な金属の塊だった。
どうやら、鍛冶に失敗したクズ鉄のようだ。
「コロ、ちょっといいか」
俺は、足元のコロを呼んだ。
「あれ、噛み砕けるか? いつものガラクの実より、硬いかもしれないぞ」
『んー? いし? あたらしい、おやつかな?』
コロは、不思議そうに首を傾げた。
そして、その金属の塊にためらいもなく近づくと、ガリッ、と力強く噛みついた。
ものすごい音が、工房の中に響き渡った。
コロが顔を離すと、黒光りする金属の塊に、くっきりとコロの歯形が残っていた。
『んー。かたいだけだね。あんまり、おいしくないや』
コロは、ぺっ、と口の中に入った金属片を吐き出した。
ガンツさんは、その場に固まっていた。
口が、あんぐりと開いたままだ。
「ば、馬鹿な……。わしの作業台よりも硬い、オリハルコンの塊だぞ……」
「それに、歯形を……? あの子犬が、いとも簡単に……?」
ガンツさんの体が、わなわなと震え始めた。
その時だった。
工房の熱気で少し眠くなっていたルビが、小さなくしゃみをした。
『ふぇっくしょん!』
可愛らしい声と共に、小さな火の玉が口から飛んでいく。
火の玉は、ガンツさんの工房の、火が落ちていた炉にまっすぐ飛び込んだ。
ぼっ、と大きな音がして、炉の奥で火が激しく燃え上がる。
炉の中には、ガンツさんがどうやっても溶かせなくて困っていた、謎の鉱石が置いてあった。
ルビの火がその鉱石に燃え移ると、それは、まるで飴のように、ぐにゃりと溶け始めた。
「な……!?」
ガンツさんは、今度こそ腰を抜かしそうになっていた。
「わ、わしの炉の最強の火でも、ビクともしなかった『万年ゴケ鉄』が……」
「い、一瞬で……溶けている……?」
ガンツさんの震えが、ぴたりと止まった。
彼は、ゆっくりと俺たちの前に進み出た。
そして、ドワーフとしての誇りを全て投げ捨てるかのように、深々と頭を下げた。
その勢いは、土下座と言ってもいいほどだった。
「お、御一行様! 本当に、申し訳ありませんでした!」
「ぜひ! ぜひ、わしに、あなた様がたの調理器具を作らせてください!」
「これは、わしの一生のお願いだ! この通り!」
ガンツさんの目は、さっきまでの頑固なものではなかった。
最高の素材(コロの歯形付きオリハルコン、ルビの炎)と、最高の顧客(ユウたち)に巡り合えた、鍛冶屋の目だった。
その目は、子供のように、らんらんと輝いていた。
「え? あ、はい。もちろんです、お願いします!」
俺は、ガンツさんのものすごい気迫に押されながらも、快く承知した。
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