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「ワイバーン!? この子がですか!?」
俺は腕の中で小さく丸まっているツバサを見つめた。
ツバサはドリンさんの大声にびっくりしたのか、俺の服の中に必死で潜り込もうとしている。
『こわい! このおじさん、すごくこわい! ユウ、たすけて!』
「よしよし、大丈夫だ、ツバサ。怖くないからな」
俺はツバサの背中を優しく撫でてやる。
「ドリンさん! 声が大きいです! ツバサが怖がってるじゃないですか!」
「わ、わしのせいか!? いや、そうじゃない!」
ドリンさんは真っ青な顔で頭を抱えている。
ギルドの中にいた冒険者たちも遠巻きにこちらを見て、ざわついていた。
「おい、今ギルドマスター、ワイバーンって言ったか?」
「あのFランク、今度は何を拾ってきたんだ……」
「ワイバーンの赤子だと? Aランクモンスターの幼体じゃないか!」
「まずいぞ! 親のワイバーンが探しに来たら、この町は火の海だぞ!」
冒険者たちが一斉に武器に手をかける。
ギルドの中が一気に緊迫した空気に包まれた。
「あ、皆さん、落ち着いてください!」
俺は慌てて両手を上げた。
「この子は親とはぐれて路地裏で弱っていたんです! 俺がちゃんと育てますから! 絶対に町に迷惑はかけません!」
俺がそう宣言すると、ドリンさんはさらに深い絶望の顔になった。
「……育てる、だと……? ユウ殿、お主、本気で言っているのか」
「ワイバーンだぞ!? エンシェントドラゴン(ルビ)やフェンリル(コロ)に加えて、今度は空の暴君ワイバーンまで飼うというのか! お主の家はどうなっているんだ! 魔王軍の幹部会合でも開くつもりか!」
「ま、魔王軍?」
よく分からないが、ドリンさんはひどく混乱しているようだった。
「ドリンさん、落ち着いてください。深呼吸です」
「ツバサはまだこんなに小さいんですよ。それに翼も折れています。こんな子を放っておけるわけないじゃないですか。俺は飼育員ですよ」
俺が真剣な顔でそう言うと、ドリンさんは「はあ」と長いため息をついた。
「……そうだったな。お主はそういう男だった。お主のその『飼育員魂』がこの町を何度も救い、そして何度もパニックに陥れてきたんだったな……」
ドリンさんは何かを諦めたように、ゆっくりと椅子に座り込んだ。
「……分かった。もう何も言うまい。そのワイバーン……ツバサ、だったか。ギルドで正式に『ユウ殿の仲間の魔物』として登録する」
「ただし! これ以上Aランク以上の魔物を拾ってくるのは禁止だ! いいな!」
「えー。それは約束できませんよ」
「なぜだ!」
「だって、もし弱っている子がいたら助けないわけにはいかないじゃないですか」
俺がそう答えると、ドリンさんはついに机に突っ伏して動かなくなった。
「……もう知らん……わしの胃が、もう限界だ……」
その時だった。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「ユウ殿! いたか!」
息を切らせて飛び込んできたのは鍛冶屋のガンツさんだった。
「あ、ガンツさん。どうしたんですか、そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもあるか! 例のブラシができたぞ!」
ガンツさんは湯気が立っていそうなほど興奮していた。
彼の手にはとんでもなくゴツくて、それでいて美しい飾りがついた巨大なブラシが握られていた。
ブラシの歯はコロの爪のように鋭く、それでいてグリフォンの羽のようにしなやかそうだ。
「おお! これがクマ子のための!」
「そうだ! グリフォンの殻の粉末とわしの秘伝の合金で作った、最強のグルーミングブラシだ! 名付けて『熊殺し(ベア・スレイヤー)』だ!」
「ええ!? 名前が物騒すぎませんか!?」
クマ子を殺してどうするんだ。
「まあ、名前はいいだろう! それよりユウ殿!」
ガンツさんは俺の腕の中にいるツバサに気づいた。
「ん? そのチビはなんだ? 新入りか?」
「あ、はい。ツバサって言います。ワイバーンの赤ちゃんだそうです」
「なに、ワイバーン!?」
ガンツさんの目がカッと見開かれた。
彼はツバサの体を食い入るように見つめている。
「……ほう。この翼、皮膜の強さが素晴らしいな。それにこの爪の形……ユウ殿! この子の爪が伸びたらわしに少し分けてくれんか! 最高の革細工用のナイフが作れそうだ!」
「あ、はあ。ツバサが嫌がらなければいいですけど」
『このおじさんも、こわい……』
ツバサがまた俺の服に隠れてしまった。
ドリンさんは突っ伏したままぴくりとも動かない。
ギルドの中はなんとも言えない空気に包まれていた。
俺はガンツさんから最強のブラシ「熊殺し(名前は変えたい)」を受け取った。
ギルドの冒険者たちは、Fランクの俺がAランクモンスター(ワイバーン)を拾い、国宝級のブラシ(ガンツ作)をタダで手に入れる光景を呆然と眺めていた。
「なあ、俺、もう冒険者やめてユウさんの弟子になろうかな……」
「ああ、それがいいかもしれん。毎日、美味いステーキが食えそうだ」
そんなことを呟いている冒険者もいた。
俺はさっそく別館に帰って、クマ子にブラシを使ってやることにした。
「さあ、クマ子! 気持ちよくしてやるからな!」
『は、はい! ごしゅじんさま! お願いします!』
クマ子は中庭で緊張した様子で四つん這いになっている。
俺はガンツさん特製のブラシを握りしめた。
そして、クマ子のゴワゴワした背中にそっとブラシを当てた。
シャッ、シャッ、と軽い音が響く。
ブラシの歯は硬い毛をものともせず、滑らかに皮膚の表面を滑っていく。
『……!』
クマ子の大きな体がびくっと震えた。
そして、次の瞬間。
『き、き、き、きもちいいいいいいいいいいい!』
クマ子の、人生最大かと思われるほどの喜びの声が響き渡った。
『ああ! ダメです、ごしゅじんさま! そこ! そこが、たまりません!』
「ははは、そうか、そこが気持ちいいのか」
俺は夢中になってクマ子の全身をブラッシングしてやった。
硬かった毛並みはあっという間にふわふわのツヤツヤになっていく。
クマ子はうっとりとした顔で、地面に溶けるように寝そべっていた。
その様子をルビ、コロ、ソラ、そして新入りのツバサが、呆れたような、羨ましそうな顔で眺めていた。
『クマ子お姉ちゃん、なんだかすごいことになってるね……』
『みゃあ……わたしも、ユウに撫でてほしい……』
『(ぷるぷる……)』
『ユウ……わたしも、それ、やってほしい……』
ツバサが小さな声で俺にねだってきている。
「ははは、分かった分かった。みんな順番だな」
俺たちの別館は今日もとても平和で賑やかだった。
ドリンさんの胃痛のことなど、俺は全く知らなかった。
俺は腕の中で小さく丸まっているツバサを見つめた。
ツバサはドリンさんの大声にびっくりしたのか、俺の服の中に必死で潜り込もうとしている。
『こわい! このおじさん、すごくこわい! ユウ、たすけて!』
「よしよし、大丈夫だ、ツバサ。怖くないからな」
俺はツバサの背中を優しく撫でてやる。
「ドリンさん! 声が大きいです! ツバサが怖がってるじゃないですか!」
「わ、わしのせいか!? いや、そうじゃない!」
ドリンさんは真っ青な顔で頭を抱えている。
ギルドの中にいた冒険者たちも遠巻きにこちらを見て、ざわついていた。
「おい、今ギルドマスター、ワイバーンって言ったか?」
「あのFランク、今度は何を拾ってきたんだ……」
「ワイバーンの赤子だと? Aランクモンスターの幼体じゃないか!」
「まずいぞ! 親のワイバーンが探しに来たら、この町は火の海だぞ!」
冒険者たちが一斉に武器に手をかける。
ギルドの中が一気に緊迫した空気に包まれた。
「あ、皆さん、落ち着いてください!」
俺は慌てて両手を上げた。
「この子は親とはぐれて路地裏で弱っていたんです! 俺がちゃんと育てますから! 絶対に町に迷惑はかけません!」
俺がそう宣言すると、ドリンさんはさらに深い絶望の顔になった。
「……育てる、だと……? ユウ殿、お主、本気で言っているのか」
「ワイバーンだぞ!? エンシェントドラゴン(ルビ)やフェンリル(コロ)に加えて、今度は空の暴君ワイバーンまで飼うというのか! お主の家はどうなっているんだ! 魔王軍の幹部会合でも開くつもりか!」
「ま、魔王軍?」
よく分からないが、ドリンさんはひどく混乱しているようだった。
「ドリンさん、落ち着いてください。深呼吸です」
「ツバサはまだこんなに小さいんですよ。それに翼も折れています。こんな子を放っておけるわけないじゃないですか。俺は飼育員ですよ」
俺が真剣な顔でそう言うと、ドリンさんは「はあ」と長いため息をついた。
「……そうだったな。お主はそういう男だった。お主のその『飼育員魂』がこの町を何度も救い、そして何度もパニックに陥れてきたんだったな……」
ドリンさんは何かを諦めたように、ゆっくりと椅子に座り込んだ。
「……分かった。もう何も言うまい。そのワイバーン……ツバサ、だったか。ギルドで正式に『ユウ殿の仲間の魔物』として登録する」
「ただし! これ以上Aランク以上の魔物を拾ってくるのは禁止だ! いいな!」
「えー。それは約束できませんよ」
「なぜだ!」
「だって、もし弱っている子がいたら助けないわけにはいかないじゃないですか」
俺がそう答えると、ドリンさんはついに机に突っ伏して動かなくなった。
「……もう知らん……わしの胃が、もう限界だ……」
その時だった。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「ユウ殿! いたか!」
息を切らせて飛び込んできたのは鍛冶屋のガンツさんだった。
「あ、ガンツさん。どうしたんですか、そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもあるか! 例のブラシができたぞ!」
ガンツさんは湯気が立っていそうなほど興奮していた。
彼の手にはとんでもなくゴツくて、それでいて美しい飾りがついた巨大なブラシが握られていた。
ブラシの歯はコロの爪のように鋭く、それでいてグリフォンの羽のようにしなやかそうだ。
「おお! これがクマ子のための!」
「そうだ! グリフォンの殻の粉末とわしの秘伝の合金で作った、最強のグルーミングブラシだ! 名付けて『熊殺し(ベア・スレイヤー)』だ!」
「ええ!? 名前が物騒すぎませんか!?」
クマ子を殺してどうするんだ。
「まあ、名前はいいだろう! それよりユウ殿!」
ガンツさんは俺の腕の中にいるツバサに気づいた。
「ん? そのチビはなんだ? 新入りか?」
「あ、はい。ツバサって言います。ワイバーンの赤ちゃんだそうです」
「なに、ワイバーン!?」
ガンツさんの目がカッと見開かれた。
彼はツバサの体を食い入るように見つめている。
「……ほう。この翼、皮膜の強さが素晴らしいな。それにこの爪の形……ユウ殿! この子の爪が伸びたらわしに少し分けてくれんか! 最高の革細工用のナイフが作れそうだ!」
「あ、はあ。ツバサが嫌がらなければいいですけど」
『このおじさんも、こわい……』
ツバサがまた俺の服に隠れてしまった。
ドリンさんは突っ伏したままぴくりとも動かない。
ギルドの中はなんとも言えない空気に包まれていた。
俺はガンツさんから最強のブラシ「熊殺し(名前は変えたい)」を受け取った。
ギルドの冒険者たちは、Fランクの俺がAランクモンスター(ワイバーン)を拾い、国宝級のブラシ(ガンツ作)をタダで手に入れる光景を呆然と眺めていた。
「なあ、俺、もう冒険者やめてユウさんの弟子になろうかな……」
「ああ、それがいいかもしれん。毎日、美味いステーキが食えそうだ」
そんなことを呟いている冒険者もいた。
俺はさっそく別館に帰って、クマ子にブラシを使ってやることにした。
「さあ、クマ子! 気持ちよくしてやるからな!」
『は、はい! ごしゅじんさま! お願いします!』
クマ子は中庭で緊張した様子で四つん這いになっている。
俺はガンツさん特製のブラシを握りしめた。
そして、クマ子のゴワゴワした背中にそっとブラシを当てた。
シャッ、シャッ、と軽い音が響く。
ブラシの歯は硬い毛をものともせず、滑らかに皮膚の表面を滑っていく。
『……!』
クマ子の大きな体がびくっと震えた。
そして、次の瞬間。
『き、き、き、きもちいいいいいいいいいいい!』
クマ子の、人生最大かと思われるほどの喜びの声が響き渡った。
『ああ! ダメです、ごしゅじんさま! そこ! そこが、たまりません!』
「ははは、そうか、そこが気持ちいいのか」
俺は夢中になってクマ子の全身をブラッシングしてやった。
硬かった毛並みはあっという間にふわふわのツヤツヤになっていく。
クマ子はうっとりとした顔で、地面に溶けるように寝そべっていた。
その様子をルビ、コロ、ソラ、そして新入りのツバサが、呆れたような、羨ましそうな顔で眺めていた。
『クマ子お姉ちゃん、なんだかすごいことになってるね……』
『みゃあ……わたしも、ユウに撫でてほしい……』
『(ぷるぷる……)』
『ユウ……わたしも、それ、やってほしい……』
ツバサが小さな声で俺にねだってきている。
「ははは、分かった分かった。みんな順番だな」
俺たちの別館は今日もとても平和で賑やかだった。
ドリンさんの胃痛のことなど、俺は全く知らなかった。
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