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俺は別館の扉を勢いよく開けた。
「ただいま! 大変だ、みんな集まってくれ!」
俺の慌てた声に、中庭で爪の手入れをしていたクマ子と部屋で昼寝していたソラが驚いて顔を上げた。
『ごしゅじんさま!? どうしたんですか、そんなに慌てて!』
『みゃあ? ユウ、おかえりなさい。……あれ? その匂い、だれ?』
ソラが俺の懐からする匂いに気づいて、くんくんと鼻を鳴らしている。
俺は懐で温めていた小さな体を、そっとテーブルの上の柔らかい布に置いた。
ルビとコロも心配そうにそれを取り囲む。
『うわ……ちいさい……』
『ユウ、この子どうしたの? また拾ってきたの?』
ルビがお姉さんぶった顔で小さな新入りを見つめている。
コロはただただ心配そうに、その子の顔を覗き込んでいた。
『だいじょうぶかな……ぜんぜん動かないよ……』
「ひどい栄養失調と、体が冷え切っている状態だ。それに翼の骨が少しおかしい」
俺は飼育員の知識を総動員して、テキパキと健康診断を始めた。
背中の小さな翼は片方が変な方向に曲がっている。これじゃあ飛べなかっただろう。だから親とはぐれてしまったのかもしれない。
『……うぅ……』
小さな生き物は苦しそうに、か細い声を漏らした。
「クマ子! すまないが、お湯を沸かしてきてくれ! ぬるめのやつだ!」
『は、はい! すぐに持ってきます!』
クマ子はその巨体に似合わない俊敏さで台所へ走っていった。
「ルビ! ソラ! お前たちはその子を温めてやってくれ!」
『わかった! わたしがぎゅってしてあげる!』
『みゃあ! まかせて! わたし、あったかいんだから!』
ルビとソラが小さな体の両脇にぴったりとくっついて、体温を分け与える。
コロもその上から覆いかぶさるようにして、自分の体温で包み込んだ。
ぷるんは俺の頭から降りてきて、その子のお腹の上に乗り優しくマッサージを始めた。
みんな、本当に優しい子たちだ。
クマ子が持ってきたお湯で、俺は特製栄養ペースト(もちろん最新版)を溶いた。
それをスポイトに吸い上げ、小さな生き物の口元にそっと運ぶ。
「さあ、飲むんだ。これを飲めば元になる」
最初は抵抗していたが、ペーストの匂いに気づいたのか小さな口がわずかに開いた。
こくり、こくりと喉が動くのが分かる。
『……!』
『あったかい……おいしい……なに、これ……』
弱々しかった金色の瞳に、ほんの少しだけ力が戻ってきた。
俺は安心させるように、その小さな頭を優しく撫でた。
「よしよし、いい子だ。ゆっくりでいいからな」
数時間後。
ペーストを飲み干し、みんなに温められたおかげでその子はすっかり落ち着いていた。
すやすやと穏やかな寝息を立てている。体温もだいぶ戻ってきたようだ。
「ふう、よかった。これでひとまずは安心だな」
俺は安堵のため息をついた。
ルビもコロもソラも新入りを守るように、寝床の周りで丸くなって眠っている。
クマ子は中庭から心配そうに、ずっと俺たちの様子を見守っていた。
「それにしてもこの子、なんなんだろうな」
トカゲのようでトカゲじゃない。背中にはコウモリのような翼。
俺の知らない、異世界の魔物であることは間違いなさそうだ。
「まあ、なんだっていいか。俺にとっては大切な家族が一人増えただけだ」
俺は買ってきたふかふかの布で、その子のために新しい寝床を作ってやった。
折れた翼も小さな木の板を添え木にして、優しく固定してやる。
『……ん……』
その子が小さく身じろぎした。そして、俺の指に小さな頭をすり寄せてきた。
『あったかい……ここ、どこ……? あなた、だれ……?』
「俺はユウ。今日からお前の飼育員だ。よろしくな」
俺が笑いかけると、その子は安心したようにまた目を閉じた。
「さてと、名前を決めないとな」
俺はその金色の瞳を思い出した。それからトカゲのような、龍のような姿。
「よし。金色の龍だから……『キンリュウ』。いや、女の子かもしれないしな。『キンコ』? うーん、しっくりこないな」
『ユウ、わたし、いい名前かんがえた!』
いつの間にか起きていたルビが得意げに手を上げた。
「お、なんだ? ルビ」
『えーっとね、『チビトカゲ』!』
「お前と被るだろ、それ」
『じゃあ、『ハネトカゲ』!』
「そのまますぎるな……。ありがとう、ルビ。でも俺が決める」
俺はその子の翼をもう一度見た。黒くて立派な翼だ。
「……よし。翼を持つ者、『ツバサ』はどうだ?」
我ながら安直な気もする。でも響きは悪くない。
『ツバサ……?』
寝ていたはずのその子が薄目を開けて、俺の言葉を繰り返した。
『ツバサ……。わたしの、なまえ……? うん、きにいった……』
「よし、決定だ! 今日からお前はツバサだ!」
こうして俺の家族は合計五匹(と一頭)になった。
ますます賑やかになりそうだ。
次の日。
俺はツバサの体調が安定したのを見計らって、ギルドに報告へ行くことにした。
万が一、迷子の魔物を探している人がいたら大変だからだ。
俺はツバサを布で優しくくるみ、胸に抱えてギルドへ向かった。
もちろん、頭にはぷるん、足元にはルビ、コロ、ソラも一緒だ。
ギルドの扉を開けると、ドリンさんがいつものように受付カウンターで胃薬を飲んでいた。
「……ユウ殿か。おはよう。今日はまた随分と大所帯で来たんだな」
ドリンさんはルビ、コロ、ソラを見て少し顔を引きつらせた。
「あ、おはようございます、ドリンさん。実は昨日、また新しい家族を保護しまして……」
俺は胸に抱えていたツバサを、そっとドリンさんに見せた。
布の隙間から金色の瞳がきょとんとドリンさんを見つめる。
『このおじさん、だれ? いい匂いがする(胃薬の)』
「この子、ツバサっていいます。路地裏で弱っていたので保護しました」
「……」
ドリンさんはツバサの顔を見た。
そしてその背中についている小さな皮膜の翼を見た。
ドリンさんの動きが完全に止まった。
手から胃薬の小瓶が滑り落ちる。カランと乾いた音が、シンとなったギルドに響いた。
「……ユウ……どの……」
ドリンさんが震える声で俺の名前を呼んだ。
「は、はい」
「……お主……今度は……何を拾ってきた……?」
「え? ですから、トカゲみたいな翼の生えた赤ちゃんを……」
「馬鹿者おおおおおおおおっ!」
ドリンさんの今までにないほどの絶叫がアリストン中に響き渡った。
「そ、それは! それは、ワイバーンの赤子だろうが!」
「え? ワイバーン?」
俺は思わず聞き返した。
ワイバーンって、あの空を飛ぶ凶暴な、ドラゴンみたいな魔物だよな。
「ただいま! 大変だ、みんな集まってくれ!」
俺の慌てた声に、中庭で爪の手入れをしていたクマ子と部屋で昼寝していたソラが驚いて顔を上げた。
『ごしゅじんさま!? どうしたんですか、そんなに慌てて!』
『みゃあ? ユウ、おかえりなさい。……あれ? その匂い、だれ?』
ソラが俺の懐からする匂いに気づいて、くんくんと鼻を鳴らしている。
俺は懐で温めていた小さな体を、そっとテーブルの上の柔らかい布に置いた。
ルビとコロも心配そうにそれを取り囲む。
『うわ……ちいさい……』
『ユウ、この子どうしたの? また拾ってきたの?』
ルビがお姉さんぶった顔で小さな新入りを見つめている。
コロはただただ心配そうに、その子の顔を覗き込んでいた。
『だいじょうぶかな……ぜんぜん動かないよ……』
「ひどい栄養失調と、体が冷え切っている状態だ。それに翼の骨が少しおかしい」
俺は飼育員の知識を総動員して、テキパキと健康診断を始めた。
背中の小さな翼は片方が変な方向に曲がっている。これじゃあ飛べなかっただろう。だから親とはぐれてしまったのかもしれない。
『……うぅ……』
小さな生き物は苦しそうに、か細い声を漏らした。
「クマ子! すまないが、お湯を沸かしてきてくれ! ぬるめのやつだ!」
『は、はい! すぐに持ってきます!』
クマ子はその巨体に似合わない俊敏さで台所へ走っていった。
「ルビ! ソラ! お前たちはその子を温めてやってくれ!」
『わかった! わたしがぎゅってしてあげる!』
『みゃあ! まかせて! わたし、あったかいんだから!』
ルビとソラが小さな体の両脇にぴったりとくっついて、体温を分け与える。
コロもその上から覆いかぶさるようにして、自分の体温で包み込んだ。
ぷるんは俺の頭から降りてきて、その子のお腹の上に乗り優しくマッサージを始めた。
みんな、本当に優しい子たちだ。
クマ子が持ってきたお湯で、俺は特製栄養ペースト(もちろん最新版)を溶いた。
それをスポイトに吸い上げ、小さな生き物の口元にそっと運ぶ。
「さあ、飲むんだ。これを飲めば元になる」
最初は抵抗していたが、ペーストの匂いに気づいたのか小さな口がわずかに開いた。
こくり、こくりと喉が動くのが分かる。
『……!』
『あったかい……おいしい……なに、これ……』
弱々しかった金色の瞳に、ほんの少しだけ力が戻ってきた。
俺は安心させるように、その小さな頭を優しく撫でた。
「よしよし、いい子だ。ゆっくりでいいからな」
数時間後。
ペーストを飲み干し、みんなに温められたおかげでその子はすっかり落ち着いていた。
すやすやと穏やかな寝息を立てている。体温もだいぶ戻ってきたようだ。
「ふう、よかった。これでひとまずは安心だな」
俺は安堵のため息をついた。
ルビもコロもソラも新入りを守るように、寝床の周りで丸くなって眠っている。
クマ子は中庭から心配そうに、ずっと俺たちの様子を見守っていた。
「それにしてもこの子、なんなんだろうな」
トカゲのようでトカゲじゃない。背中にはコウモリのような翼。
俺の知らない、異世界の魔物であることは間違いなさそうだ。
「まあ、なんだっていいか。俺にとっては大切な家族が一人増えただけだ」
俺は買ってきたふかふかの布で、その子のために新しい寝床を作ってやった。
折れた翼も小さな木の板を添え木にして、優しく固定してやる。
『……ん……』
その子が小さく身じろぎした。そして、俺の指に小さな頭をすり寄せてきた。
『あったかい……ここ、どこ……? あなた、だれ……?』
「俺はユウ。今日からお前の飼育員だ。よろしくな」
俺が笑いかけると、その子は安心したようにまた目を閉じた。
「さてと、名前を決めないとな」
俺はその金色の瞳を思い出した。それからトカゲのような、龍のような姿。
「よし。金色の龍だから……『キンリュウ』。いや、女の子かもしれないしな。『キンコ』? うーん、しっくりこないな」
『ユウ、わたし、いい名前かんがえた!』
いつの間にか起きていたルビが得意げに手を上げた。
「お、なんだ? ルビ」
『えーっとね、『チビトカゲ』!』
「お前と被るだろ、それ」
『じゃあ、『ハネトカゲ』!』
「そのまますぎるな……。ありがとう、ルビ。でも俺が決める」
俺はその子の翼をもう一度見た。黒くて立派な翼だ。
「……よし。翼を持つ者、『ツバサ』はどうだ?」
我ながら安直な気もする。でも響きは悪くない。
『ツバサ……?』
寝ていたはずのその子が薄目を開けて、俺の言葉を繰り返した。
『ツバサ……。わたしの、なまえ……? うん、きにいった……』
「よし、決定だ! 今日からお前はツバサだ!」
こうして俺の家族は合計五匹(と一頭)になった。
ますます賑やかになりそうだ。
次の日。
俺はツバサの体調が安定したのを見計らって、ギルドに報告へ行くことにした。
万が一、迷子の魔物を探している人がいたら大変だからだ。
俺はツバサを布で優しくくるみ、胸に抱えてギルドへ向かった。
もちろん、頭にはぷるん、足元にはルビ、コロ、ソラも一緒だ。
ギルドの扉を開けると、ドリンさんがいつものように受付カウンターで胃薬を飲んでいた。
「……ユウ殿か。おはよう。今日はまた随分と大所帯で来たんだな」
ドリンさんはルビ、コロ、ソラを見て少し顔を引きつらせた。
「あ、おはようございます、ドリンさん。実は昨日、また新しい家族を保護しまして……」
俺は胸に抱えていたツバサを、そっとドリンさんに見せた。
布の隙間から金色の瞳がきょとんとドリンさんを見つめる。
『このおじさん、だれ? いい匂いがする(胃薬の)』
「この子、ツバサっていいます。路地裏で弱っていたので保護しました」
「……」
ドリンさんはツバサの顔を見た。
そしてその背中についている小さな皮膜の翼を見た。
ドリンさんの動きが完全に止まった。
手から胃薬の小瓶が滑り落ちる。カランと乾いた音が、シンとなったギルドに響いた。
「……ユウ……どの……」
ドリンさんが震える声で俺の名前を呼んだ。
「は、はい」
「……お主……今度は……何を拾ってきた……?」
「え? ですから、トカゲみたいな翼の生えた赤ちゃんを……」
「馬鹿者おおおおおおおおっ!」
ドリンさんの今までにないほどの絶叫がアリストン中に響き渡った。
「そ、それは! それは、ワイバーンの赤子だろうが!」
「え? ワイバーン?」
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