動物園の飼育員さん、神様の手違いで死んだので、代わりに最強の魔物たちを育てることになりました~会話できるので、子育ては楽勝です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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俺の手のひらには、金貨二十枚という大金があった。
ギルドのお姉さんから半ば押し付けられるように受け取ったものだが、正当な依頼で稼いだ報酬だ。ありがたく使わせてもらおう。

「さて、みんな。このお金で何を買おうか」

俺は別館に戻る途中、アリストンの市場に立ち寄っていた。
ルビとコロは俺の足元で嬉しそうに尻尾を振り、ぷるんは俺の頭の上でご機嫌だ。

『おやつ! おやつがいい! あのお店の、お肉!』
『ユウ、わたし、あっちのキラキラしたリボンがほしい!』
『(ぷるぷる! 甘い蜜がいい!)』

みんな好き勝手なことを言っている。
まったく、食いしん坊とオシャレさんばかりだ。
「はいはい、順番だ。まずは一番大事なものを買いに行かないと」
俺が向かったのは、もちろんガンツさんの鍛冶屋だった。
約束の品を注文するためだ。

「ガンツさん、こんにちは!」
工房を覗くと、ガンツさんは炉の前で腕組みをしていた。
俺が持ってきたグリフォンの卵の殻を、うっとりとした顔で眺めている。

「おお、ユウ殿か! 来たな! 見ろ、この美しい殻を! これとルビ殿の炎があれば、わしの理論は完成する!」
ガンツさんは子供のように目を輝かせている。本当に鍛冶が好きでたまらないんだろう。

「ガンツさん。さっそくなんですが、注文したいものがあるんです」
「おお、例の調理器具か? いや、あれ以上のものは、さすがのわしでも……」
「いえ、違います。クマ子のための特注ブラシをお願いしたいんです」
「ぶ、ブラシ?」
ガンツさんはきょとんとした顔で俺を見た。

「はい。クマ子の毛並み、すごくゴワゴワで硬いんですよ。普通のブラシじゃ太刀打ちできなくて。毛並みを整えてあげたいんです」
俺はクマ子の毛並みの状態を真剣に説明した。
「素材はそうですね……コロの爪みたいに硬くて丈夫なものがいいです。でも皮膚を傷つけないように、優しさも必要なんです」
俺がそう言うと、ガンツさんは持っていたハンマーを取り落としそうになった。
「……こ、小僧。お主、今なんと言った」
「え? ですから、コロの爪みたいに……」
「それだ! コロ殿の爪だと!? あのオリハルコンを噛み砕く、フェンリルの爪でブラッシングだと!?」
ガンツさんは信じられないという顔で叫んだ。工房の外を歩いていた町の人たちが、びくっと肩を揺らすのが見えた。

「はい。コロ、すごく上手ですよ? 羊さんたちにも大人気でしたし、毛並みがツヤツヤになるってみんな喜んでましたよ」
『えっへん! わたし、ブラッシング得意だもん!』
コロが俺の足元で得意げに胸を張る。
その光景を見て、ガンツさんはわなわなと震え始めた。
「……そ、そうか。あの爪は最強の武器であると同時に、最高の美容道具でもあるのか……。奥が深い……魔獣の世界は本当に奥が深いぞ……」
ガンツさんは創作意欲を燃やしているようだった。

「よっしゃあああ! 任せておけい!」
ガンツさんは炉の火よりも熱い声で叫んだ。
「お主の無茶な注文に、わしの鍛冶屋魂が燃えずにいられるか! あのグリフォンの殻の粉末をわしの秘伝の合金に混ぜ込む! コロ殿の爪の『優しさ』と『強さ』を両立させた、史上最強のグルーミングブラシを必ず作ってみせるぞ!」
「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
俺はガンツさんの熱意に圧倒されながらも、深く頭を下げた。

ブラシの完成は数日後になるらしい。
俺はルビとコロを連れて、再び市場に戻ってきた。
「さて、それじゃあみんなの欲しいものを買いに行こうか」
『やったー!』
『お肉! お肉!』
俺たちはまず、一番大きな肉屋に向かった。
「店主さん。この一番大きな肉の塊を丸ごとください」
「へい! ……って、ユウさんじゃないですか! いつもどうも! この前のグリフォン騒ぎ、聞きましたよ! あのグリフォンを手なずけたって、本当ですかい?」
「え? ああ、友達になりました。とてもいいご夫婦ですよ」
「ははあ! さすがユウさんだ! 格が違う!」
いつの間にか市場の人たちも俺にずいぶん協力的になっていた。以前のように遠巻きにされることも少なくなってきた。
「ユウさんが連れてるトカゲちゃんたちも、本当にお利口さんだもんな」
「ありがとう、店主さん。コロ、ルビ、よかったな」
『えっへん! わたし、お利口だもん!』
『(くんくん)このお肉、すごくいい匂い……』

俺は肉の他にも新鮮な野菜や果物、それから寝床用のふかふかな布をたくさん買った。
金貨二十枚もあったので、まだまだ余裕がある。
ルビが欲しがっていたキラキラ光るガラス玉も買ってやり、コロには噛んでも壊れない丈夫な木のオモチャを選んだ。
『わーい! ユウ、ありがとう! だいすき!』
二匹は大喜びで俺に飛びついてくる。その姿を見て、市場の人たちも微笑ましそうに笑っていた。
「本当に、ただの可愛いペットみたいだな」
「あのトカゲが火を噴いて、あの子犬が岩を砕くなんて信じられねえよ」
そんな声も聞こえてくる。
うんうん。みんなが俺の子供たちのかわいさに気づいてくれて、俺も嬉しい。

たくさんの荷物を抱えて、俺は別館への帰り道を急いでいた。
もうすぐ日が暮れそうだ。クマ子もソラもお腹を空かせて待っているだろう。
「さあ、急いで帰ってごちそうの準備だ」
俺が鼻歌交じりで人通りの少ない路地裏を近道しようとした、その時だった。

『……うぅ……』

どこからか、とてもか細い鳴き声が聞こえてきた。
俺はぴたりと足を止めた。
「ん? 今の、動物の声か?」
『ユウ? どうしたの?』
ルビも不思議そうに首を傾げる。
俺は耳を澄ませた。聴覚もこの世界に来てから良くなっている気がする。

『……さむい……おなかすいた……』
『だれか……たすけて……』

間違いない。何かの赤ちゃんの声だ。
しかも、ひどく弱っている。
俺は荷物をその場に置くと、声がする方へと走り出した。
飼育員として、この声を聞き逃すことはできない。

「どこだ! どこにいるんだ!」
『ユウ、こっち! この奥から匂いがする!』
コロが優れた嗅覚で俺を導いてくれる。
路地裏の一番奥、ゴミが積まれた薄暗い場所。そこにボロボロになった木箱が一つ捨てられていた。
声はその中から聞こえてくる。

俺はゆっくりと木箱に近づいた。
中を覗き込むと、そこには小さな生き物が丸まっていた。
生後まだ数週間も経っていないだろう。真っ白な毛並みは汚れ、体は小刻みに震えている。
そして、その背中には……羽が生えていた。
鳥の翼とは違う、コウモリのような小さな皮膜の翼だ。
「これは……トカゲ……か?」
いや、違う。顔はトカゲに似ているがウロコはない。
これは俺の知っている動物のどれとも違っていた。

『……だれ……? ママ……?』
その生き物は弱々しく目を開けて俺を見上げた。
その瞳はとても綺麗な金色をしていた。
「大丈夫か! 今、助けてやるからな!」
俺はその小さな体を、壊れ物を扱うようにそっと抱き上げた。
ひどく冷たい。このままでは今夜を越せないかもしれない。
「ルビ、コロ! 急いで別館に戻るぞ!」
俺は新しく見つけた小さな命を懐に抱え、全力で走り出した。
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